ラテンビート映画祭『刺さった男 』 [ラテンビート映画祭2012]

ラテンビート映画祭2012

『刺さった男 』

刺さった男.jpg

昨年の『気狂いピエロの決闘』(これは三大映画祭の時の邦題だが)に続いて。2年連続で「LBFF」上映が実現した、鬼才アレックス・デ・ラ・イグレシアの新作。
今回も嫉妬と暴力の濃ゆ~い世界が堪能できるかと思うと、そういうんじゃなかった。


主人公の中年男ロベルトは、失業中の元広告マン。
今朝も美しい妻ルイサに励まされて、広告会社の面接を受けに行く。
「マッケンジー社」という、アメリカに本社がある、外資系広告会社の支社長は、ロベルトの昔の同僚だった男だ。
ロベルトは17才の時、バイトで入った広告代理店で、コカコーラのキャッチコピー
「人生に輝きを!」を生み出して、それが流行語にもなり、華々しいキャリアのスタートを飾った。

だがそれも過去の栄光だ。
いまは支社長にも剣もほろろに扱われ、うな垂れてビルを後にする。

失意の中でハンドルを握るロベルトは、ふと新婚旅行でルイサと泊まったホテルに足を運んだ。
「人生が輝いてた」時代を思い起こそうとでもするかのように。
だがホテルがあった筈の場所は、博物館になっている。
まだ開館準備中らしく、マスコミが内覧に招かれていた。
事情を聞こうとしたロベルトは人波に押されて、そのまま中に入ってしまう。


市長と女性館長が得意気に説明してる列を抜けて、ロベルトは建物のドアを開けて、工事中の足場を組んだ空間に出た。
建物の裏手には、コロセアムのような広大な遺跡があった。
ホテルの敷地内に、ローマ時代の遺跡があることがわかり、ホテルを取り壊し、市が遺跡を売り物にする博物館を建てたのだ。

立ち入り禁止の札をくぐり、さらに進んでいくロベルト。
警備員のクラウディオに制止を求められるが、足元をふらつかせたロベルトは、そのまま彫像にしがみついた。
彫像はクレーンに吊るされており、ロベルトが負荷をかけたため、アームが動いて、ロベルトは彫像とともに宙刷りの状態になる。

クラウディオは必死に手を伸ばすが届かない。
「助けを呼んでくる!」
クラウディオがその場を離れた直後、ロベルトは彫像から滑り落ち、発掘現場のただ中に落下した。


鉄柵が組まれた足場の上にあおむけに落下したロベルト。
意識はあるが、起き上がることができない。
駆けつけたクラウディオは、起き上がれない原因を知って、愕然となった。

ロベルトの頭部には、下から伸びた鉄柵が突き刺さっていたのだ。
ところがどういう奇跡か、痛みもさほどではないし、しゃべることも、手足を動かすこともできるのだ。
救急隊員が駆けつけ、ロベルトに状況を説明した。

その間に警備員から市長と館長に知らせが入った。発掘現場で人身事故があったらしい。
マスコミに博物館側の不備を指摘されてはマズい。
内覧に来てる記者たちを、外に出さないようにと、市長は館内を閉め切った。


救急隊員としてもお手上げの状態だった。
鉄柵は奇跡的な角度で刺さってる。
それをこの場で抜くことは危険だ。搬送することができない。

まずは専門医の診断をと、ベラスコ医師が呼ばれる。
普通にしゃべることはできるロベルトは、ケータイで妻のルイサに事情を説明した。
真っ青になったルイサは現場にやってきたが、夫の頭に鉄柵が刺さってるのを見て卒倒した。

内覧の記者たちも事故に気づいて、現場に群がった。
博物館内の遺跡で起きた事故の模様は、ただちに中継され、ロベルトは一躍ニュースの主役となった。

ロベルトはこれこそ千載一遇のチャンスだと思った。
テレビとインタビュー契約を結べば、多額の契約金が手にできる。
娘バルバラの大学進学の資金も捻出できるし、今いる住まいを手放さずにすむだろう。


心配して寄り添うルイサの前で、ロベルトは知り合いの制作会社に連絡を入れた。
早速「有名人に突撃」という名物コーナーを持つ、ワイドショー・レポーターのジョニーがやってきた。
ロベルトはジョニーを代理人に立て、テレビ局のワイドショーでの単独インタビュー交渉を任せた。
自分が生死の境にあって、家族がこんな心配してるのに、夫は金のことしか頭にない。
ルイサはそれがショックだった。

鉄柵を切り離すべく、女性館長自らが機械で切断を試みるが、ロベルトの頭部に振動を与えて、激痛が走るため、それも断念。
一方、市長は一時は事故を報を聞いた大統領から、博物館側の不備を指摘されるから、事故を表沙汰にするなと言われてたが、一転、これだけ騒ぎになれば、観光名所になると、一般人も遺跡に入れろと命じられる。


ジョニーは単独インタビューの交渉にあたった。
金を渋るテレビ局のオーナーに、中継中に男は死ぬかも知れないと。

「チリの鉱山事故の炭鉱夫たちが、すぐに忘れさられたのは何故だと?」
「みんな生きてたからです。死ねば伝説になる」
「ブルース・リーや、ジェームス・ディーンみたいにね」
オーナーはインタビュー中に死んだら、200万ユーロ出そうと言った。

ベラスコ医師は、この場で鉄柵を頭から抜くのは不可能と判断、手術設備を現場に持ち込んで、手術を行うしかないと、ルイサに告げた。
さまざまな人間のさまざまな思惑が、遺跡の中で渦巻いていた。


この筋立ては目新しいものではない。
例えばビリー・ワイルダー監督の1951年作『地獄の英雄』では、先住民の居住区の洞窟に探検に行って、生き埋めになった男を、カーク・ダグラス演じる新聞記者が取材に来る。

地獄の英雄.jpg

記者は保安官と共謀して、救出を遅らせ、この事故を大きなニュースに仕立て上げる。
野次馬が現場に押しかけ、生き埋めの男の妻は、ひと儲けできるとガソリンを売り始める始末。

大手の新聞社から記事を依頼がかかり、目的を達した記者が、救出にとりかかった時は、すでに遅かったという内容。


もう1本、コスタ・ガブラス監督の1997年作『マッド・シティ』は舞台が博物館というのが同じだ。
ジョン・トラボルタ演じる、博物館を解雇された男が、逆上して銃を乱射し、博物館に立て篭もる。
地方局に左遷されてたダスティン・ホフマン演じる記者が、その場に出くわし、生中継を始めた。

マッドシティ.jpg

事件は全米中に広まり、記者は男にテレビ・インタビューを申し込んだ。
「なぜこんなことをするはめになったのか、テレビを通して話すんだ」
記者はこれでキー局へ戻れるとほくそ笑むが、男が同僚の黒人警備員を射殺してたことから、
「人種差別主義者だ」と声が上がる。


この『刺さった男』も、今挙げた2作と同様、メディアやマスコミのセンセーショナリズムを皮肉ってはいるが、デ・ラ・イグレシア監督に期待する、突き抜けた展開という風にはならないのが残念だった。
いや頭は突き抜けてはいるんだが。

相変わらず演出のテンションは高いので、あれよあれよと、見る者を事故現場に放り込んでくのだが、そもそも頭に杭が刺さってるのに、ロベルト元気すぎるし、ちょいちょい挿みこんでくる、ブラックユーモア的なギャグが類型的で、いまいち弾けない。

ロベルトに一途な愛情を注ぐ妻ルイサをサルマ・ハエックが演じてるが、彼女がいい。
この時45才だが、若い頃より女っぷりが上がってる感じがする。
彼女の、儲けを企む男たちへの、毅然とした表情にシビれるね。

あの情念が暴走するフルスロットルな傑作『気狂いピエロの決闘』ですら、いまだ一般公開に至らないのだから、この映画も公開の見通しなど立たないだろう。

2012年10月7日

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