ラテンビート映画祭『トロピカリア』 [ラテンビート映画祭2012]
ラテンビート映画祭2012
『トロピカリア』
回数券との引換えの時、チケットカウンターで、思いっきり
「トロピカーナお願いします」と言い間違えた。
だがカウンターの女性には
「そりゃジュースだろ!」
というツッコミは入れてもらえず
「はい、トロピカリアでございますね?」
と丁重に返されてしまった。
表情ひとつ変えることがなかったのを見ると、きっと言い間違えてるのは俺だけではないのだろう、と都合よく解釈する。
俺は南半球の音楽にはまったく疎くて、かなり偏った嗜好で今日まで来てしまったのだなあと、これを見ながら痛感した。
軍事政権下にあった、1967年から68年にかけて、ブラジルの都市リオを中心に巻き起こった、カルチャー・ムーブメントは、「トロピカリア」と呼ばれ、特に音楽の分野で、当時の若者たちに大きな影響を与えたものらしい。
その中心として名前が挙がるカエターノ・ヴェローゾ、ジルベルト・ジル、ガル・コスタ、トン・ゼー、そしてバンドのオス・ムタンチスといった面々の楽曲も初めて耳にした。
正確にはカエターノ・ヴェローゾのことは、アルモドヴァル監督の『トーク・トゥ・ハー』に出ていて、その時初めて知ったのだが。
映画は「トロピカリア」を彩った様々な楽曲にのせて、南半球でも同じように「社会運動の季節」でもあった60年代後半の、ブラジルの熱気を振り返っている。
この時代ブラジルでは、テレビでの「ポピュラー・ソング・コンテスト」的なイベントがブームになってたようda.
そういえば、アバを見出した「ユーロビジョン・ソング・コンテスト」も、長い歴史があるし、日本でも1970年代には「世界歌謡祭」や「東京音楽祭」や「ポプコン」といった、ソング・コンテストが流行った。
新しいスターの登竜門的役割を果たしてたのだ。
若き日のカエターノ・ヴェローゾも、ソング・コンテストで受賞する場面が映されてる。
一緒に演奏してるのが、オス・ムタンチスという、女性ヴォーカル、ヒタ・リーをフィーチャーしたバンド。
彼らの楽曲が面白い。
当時のサイケデリック・サウンドがベースになってるようで、プログレっぽい複雑なコーラスワークが入ったり、ダイナミックなリズムに変調したり、とにかく構成が予想つかない。
彼らはブラジルのドメスティックな伝統音楽と、西洋のロックの音を混然とさせた音世界を描いてるらしく、ちょっと病み付きになりそうな魅力がある。
数日前に「LBFF」でやはり音楽ドキュメンタリーの『Sugar Man』を見て、ロドリゲスのアルバムを無性に聴きたくなった。
この映画でもオス・ムタンチスのアルバムや、映画と同名のカエターノ・ヴェローゾ、オス・ムタンチス、ジルベルト・ジルらがコラボした『トロピカリア』というアルバムが聴きたくなった。
カエターノ・ヴェローゾとジルベルト・ジルは、その音楽表現や、政治的姿勢で睨まれ、投獄された後、1969年に国外追放処分を受けている。
彼らはイギリスに亡命し、この映画冒頭に出てくる、スタジオライヴは、イギリスのテレビ局で収録されてる。
亡命する間に、彼らは「ワイト島ミュージック・フェス」の舞台にも立ってる。
ブラジルでは軍事政権下で、弾圧を受ける若者たちも多いと、オーディエンスたちが知り、瞬く間に、ステージのカエターノとジルベルトに、連帯の声援を上げる様子はいいねえ。
『トーク・トゥ・ハー』で見ただけで、渋いヴォーカルという印象しかなかったカエターノ・ヴェローゾだが、若い頃はカリスマティックで、これは支持を集めるのもわかる。
彼がフランスのテレビ番組に出て、戻れない母国への想いを弾き語る歌にはジンときた。
それから映画の中でもっと長く流してもらいたかったのが、ガル・コスタの歌声だ。
彼女の1969年の1stソロアルバムは「トロピカリア」の名盤とされてるそうだが、彼女の色っぽい笑顔のスチルとともに流れてくる歌声は、腰骨を溶かしそうな威力があるね。
この時代のポピュラーソングは、俺の好みでは女性ヴォーカルの方がいい。
映画としてはカエターノやジルベルト・ジルにフォーカスがあたっていて、女性ヴォーカルが思ったほど聴けなかったのは不満ではある。
音楽ドキュメンタリーであり、カルチャー・ドキュメンタリーであり、ブラジルの一時代の証言でもある。
そういう性格から、『Sugar Man』のように、一人の人間の謎を探し求める、ドキュメンタリーだけど、普遍的なストーリーの面白さを感じさせるものとは違う。
ブラジルの音楽シーンとかまったく知らない「イチゲンさん」には、ちょっと敷居が高い部分があるかもしれない。
2012年10月7日
『トロピカリア』
回数券との引換えの時、チケットカウンターで、思いっきり
「トロピカーナお願いします」と言い間違えた。
だがカウンターの女性には
「そりゃジュースだろ!」
というツッコミは入れてもらえず
「はい、トロピカリアでございますね?」
と丁重に返されてしまった。
表情ひとつ変えることがなかったのを見ると、きっと言い間違えてるのは俺だけではないのだろう、と都合よく解釈する。
俺は南半球の音楽にはまったく疎くて、かなり偏った嗜好で今日まで来てしまったのだなあと、これを見ながら痛感した。
軍事政権下にあった、1967年から68年にかけて、ブラジルの都市リオを中心に巻き起こった、カルチャー・ムーブメントは、「トロピカリア」と呼ばれ、特に音楽の分野で、当時の若者たちに大きな影響を与えたものらしい。
その中心として名前が挙がるカエターノ・ヴェローゾ、ジルベルト・ジル、ガル・コスタ、トン・ゼー、そしてバンドのオス・ムタンチスといった面々の楽曲も初めて耳にした。
正確にはカエターノ・ヴェローゾのことは、アルモドヴァル監督の『トーク・トゥ・ハー』に出ていて、その時初めて知ったのだが。
映画は「トロピカリア」を彩った様々な楽曲にのせて、南半球でも同じように「社会運動の季節」でもあった60年代後半の、ブラジルの熱気を振り返っている。
この時代ブラジルでは、テレビでの「ポピュラー・ソング・コンテスト」的なイベントがブームになってたようda.
そういえば、アバを見出した「ユーロビジョン・ソング・コンテスト」も、長い歴史があるし、日本でも1970年代には「世界歌謡祭」や「東京音楽祭」や「ポプコン」といった、ソング・コンテストが流行った。
新しいスターの登竜門的役割を果たしてたのだ。
若き日のカエターノ・ヴェローゾも、ソング・コンテストで受賞する場面が映されてる。
一緒に演奏してるのが、オス・ムタンチスという、女性ヴォーカル、ヒタ・リーをフィーチャーしたバンド。
彼らの楽曲が面白い。
当時のサイケデリック・サウンドがベースになってるようで、プログレっぽい複雑なコーラスワークが入ったり、ダイナミックなリズムに変調したり、とにかく構成が予想つかない。
彼らはブラジルのドメスティックな伝統音楽と、西洋のロックの音を混然とさせた音世界を描いてるらしく、ちょっと病み付きになりそうな魅力がある。
数日前に「LBFF」でやはり音楽ドキュメンタリーの『Sugar Man』を見て、ロドリゲスのアルバムを無性に聴きたくなった。
この映画でもオス・ムタンチスのアルバムや、映画と同名のカエターノ・ヴェローゾ、オス・ムタンチス、ジルベルト・ジルらがコラボした『トロピカリア』というアルバムが聴きたくなった。
カエターノ・ヴェローゾとジルベルト・ジルは、その音楽表現や、政治的姿勢で睨まれ、投獄された後、1969年に国外追放処分を受けている。
彼らはイギリスに亡命し、この映画冒頭に出てくる、スタジオライヴは、イギリスのテレビ局で収録されてる。
亡命する間に、彼らは「ワイト島ミュージック・フェス」の舞台にも立ってる。
ブラジルでは軍事政権下で、弾圧を受ける若者たちも多いと、オーディエンスたちが知り、瞬く間に、ステージのカエターノとジルベルトに、連帯の声援を上げる様子はいいねえ。
『トーク・トゥ・ハー』で見ただけで、渋いヴォーカルという印象しかなかったカエターノ・ヴェローゾだが、若い頃はカリスマティックで、これは支持を集めるのもわかる。
彼がフランスのテレビ番組に出て、戻れない母国への想いを弾き語る歌にはジンときた。
それから映画の中でもっと長く流してもらいたかったのが、ガル・コスタの歌声だ。
彼女の1969年の1stソロアルバムは「トロピカリア」の名盤とされてるそうだが、彼女の色っぽい笑顔のスチルとともに流れてくる歌声は、腰骨を溶かしそうな威力があるね。
この時代のポピュラーソングは、俺の好みでは女性ヴォーカルの方がいい。
映画としてはカエターノやジルベルト・ジルにフォーカスがあたっていて、女性ヴォーカルが思ったほど聴けなかったのは不満ではある。
音楽ドキュメンタリーであり、カルチャー・ドキュメンタリーであり、ブラジルの一時代の証言でもある。
そういう性格から、『Sugar Man』のように、一人の人間の謎を探し求める、ドキュメンタリーだけど、普遍的なストーリーの面白さを感じさせるものとは違う。
ブラジルの音楽シーンとかまったく知らない「イチゲンさん」には、ちょっと敷居が高い部分があるかもしれない。
2012年10月7日
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