ファン・ビンビンの目の下のクマ  [映画ラ行]

『ロスト・イン・北京』

ロストイン北京.jpg

10月6日から11月16日まで、新宿のミニシアター「K'S CINEMA」にて開催されてる
「中国映画の全貌2012」。
その46本の中でも目玉のように扱われてるんで、見に行ったんだが、昨日ツタヤを覗いてたら、普通に旧作棚に並んでるじゃないか。
とっくにDVDになってたとは、全く気がつかなんだ。
でもスクリーンで見る機会があるんなら、それに越したことはない。

中国には二人のビンビンがいて、もう一人のリー・ビンビンは、『バイオハザード』の最新作に出てるが、「尖閣問題」に抗議して来日プロモーションを蹴ってる。
「まあ勝手にしろ」って所だが、こっちのファン・ビンビンの集客力は凄かったな。

開始20分前くらいに劇場に着くと、ロビーは人で溢れてる。
しかもほとんど「ご年配」だ。
彼女が激しい濡れ場を演じてるという情報が知れ渡ってるんだろう。

しかし今日び「女優が濡れ場を演じてる」なんて売り文句で、劇場に駆けつけるのは年配だけだろうな。若い人たちにはAVもあればエロ動画もある。
「間に合ってますから」という感じか。

実際、映画冒頭20分くらいの間に、中国映画にしてはかなり思い切ったセックス描写があり、ファン・ビンビンは透き通るような白い肌を晒している。

相手の男優も裸のケツを上下していて、昔ならそれだけでボカシが入れられる所だ。
描写は生々しいが、彼女は肝心な部分は見せてない。絶妙な寸止め感といえる。

だが前半を過ぎると、そういう場面は一切なくなる。
失望するかといえば、映画としてはそこからが面白くなってくるのだ。
物語の世知辛さには苦笑するほどで、それをリードしてくのは、ベテランのレオン・カーファイだ。


ファン・ビンビン演じるピングォは、北京市内のマッサージパーラーで働いてる。
亭主持ちは雇ってもらえないので内緒にしてるが、ピングォの夫アンクンは、ビルの窓拭き作業員をしてる。
同僚の女の子が、しつこい客に暴力を振るったと、オーナーのリン・ドンから解雇を言い渡される。

ピングォは彼女を慰めるため一緒に酒を呑み、したたか酔って、パーラーに舞い戻る。
そのままオーナーの部屋に入り、誰もいないと見ると、ベッドに倒れ込む。

部屋に戻ったリン・ドンは、従業員がベッドに寝てるのに仰天するが、太腿も露になった、そのあられもない姿に欲情し、覆いかぶさる。
酔っていて自分の亭主かと思い、名前を呼んでしまうが、リン・ドンと気づき、ピングォは激しく抵抗するが、それも虚しかった。
事が終わるとリン・ドンは
「今日のことはこれきりに」と金を掴ませようとするが、ピングォははねつける。

すると窓の外が騒がしい。なんとアンクンが、マッサージパーラーのビルの窓拭きに来てたのだ。
アンクンはオーナーの部屋に怒鳴り込んで来るが、すぐに警備員につまみ出される。
亭主持ちと知られたピングォは解雇を言い渡される。

持つ者と持たざる者、大都市・北京に生きる人々の明暗は残酷だ。
だが事はそれでは済まなかった。


しばらく経ってピングォの妊娠が発覚したのだ。
「人の女房を寝取って妊娠までさせた」
アンクンはそれをネタにオーナーのリン・ドンを強請ることにした。

だがアンクンからその話を告げられて、リン・ドンの反応は意外なものだった。
「本当に俺の子なのか?」
その言葉には、疑うというよりも、確認のニュアンスが強かった。

リン・ドンと妻のワン・メイの間には子供ができなかった。
二人はもう長くセックスレスだ。
リン・ドンは適当に外で遊び、妻のワン・メイは、鬱憤を散財で紛らわす毎日。
子供を諦めていたリン・ドンには、僥倖といえるアクシデントになったのだ。

もし自分の子供だと証明されれば、大金を出して、その子を買い取るという。
アンクンとの間で契約書まで交わしてしまった。

ピングォは釈然としないが、自分が過ちを犯してしまった引け目から、アンクンに強く出れない。
ピングォはマッサージパーラーのクビを免れ、リン・ドンは従業員たちの前でも、露骨に彼女の体を気遣った。

面白くないのはリン・ドンの妻のワン・メイだ。
夫が従業員の女を孕ませ、その子を引き取ると云う。
つまり子供ができないのは妻のせいだったということだ。
ワン・メイは店でピングォに足を揉ませて、ネチネチと皮肉を浴びせるしかなかった。


リン・ドンはピングォの膨らんだおなかに顔をつけ
「いま俺の声を聞いて、足で蹴ったぞ」
渋い顔で眺めてるアンクンにも同じことをさせ、蹴らないと云うと
「ちゃんと父親がわかってるのさ!」
リン・ドンは子供が生まれる前から、親バカ状態となってた。

無事出産が終わり、赤ん坊の血液検査が行われた。
リン・ドンの思いとは裏腹に、血液型からして、リン・ドンが父親である筈はない。
医者から検査結果を聞いたアンクンは、結果を改ざんしてくれと医者に頼み込む。
大金がフイになってしまうからだ。

そんな事はできないという医者に、指で金額を示した。医者は
「どうなっても知らんぞ」と言い、改ざんを了承した。


リン・ドンは知らせを聞いて、しばらくピングォを自宅に住まわせることにした。
アンクンが家に入ることも咎めなかった。
いびつな因縁に結ばれた4人の男女が、同じ屋根の下に集った。

夫を寝取られたワン・メイと、妻を寝取られたアンクンは、やり場のない憤懣を、お互いの体で紛らわすようになった。
だがそこに愛などはない。

ピングォも、腹を痛めて産んだ赤ん坊を、売り渡して金を得ようという夫の心根がわからない。
リン・ドンは自分の子にしか目はいかない。
4人の間のどこにも愛など見つからない。


リン・ドンは日が経つにつれ、自分の子を身篭ったピングォに気持ちが移っていく。
もう一度抱きたい。
シャワーを浴びるピングォを覗く様子を妻に見られ、そそくさと立ち去る。
シャワーから出てきたピングォは、いきなりワン・メイから平手打ちされる。

ピングォは自分たちの子供を偽って、他人に譲ることへの呵責から、疲弊していく。
そしてアンクンは、金のために割り切ってた筈が、不意にもたげてきた父親としての感情に、動揺し始めていた。


この「中国映画の全貌2012」の上映作品に入っていて、昨年の「三大映画祭週間」で既に見た
『我らが愛にゆれる時』のプロットと、似た部分が感じられる。

我らが愛にゆれる時.jpg

あの映画は、臓器移植しか助かる道はないという、難病の娘を持った母親が主人公。
彼女は再婚で、娘は前の夫との間の子だ。
今の夫は娘を我が子のように可愛がってくれてる。
臓器は血が繋がった者同士でないと上手くいかないと云われるが、彼女も前の夫も、検査の結果、適合しなかった。
そこで母親は前の夫との間で人工受精を試みる。

前の夫には若い後妻がいた。
中国の法律で、男は二人子供を作ると、もう作ることはできない。
なので人工受精で出産となれば、今の若い妻は子供を持てなくなるのだ。

彼女は抗議しに主人公の家を訪れるが、彼女は不在で、夫と病気の娘しかいなかった。
娘の姿を見て、若い後妻は何も言えず立ち去る。

主人公の今の夫は、彼女の判断に口を挟まなかった。
だが人工受精は失敗に終わり、残された手段は一つになった。
前の夫と直に行うことだ。前の夫はさすがに快諾はできない。

だが娘を助けたいという母親の思いは、もはや周りを見れるような状態ではない。
仮に出産できたとして、産まれてきた子は、臓器を摘出されるために育てられるのだ。

二組の夫婦が大きな運命のうねりに晒される、その内容が似通ってはいるが、『我らが愛にゆれる時』はひたすらにシリアスで、それこそ我が身に置き換えて、どんな判断が下せるか、見る者に突きつけてくる所があった。


この『ロスト・イン・北京』の場合は、子宝に恵まれたと舞い上がる、リン・ドンを演じたレオン・カーファイの滑稽さが加速してくんで、拝金主義の現代中国を浮き彫りにする、一種のブラックユーモア劇となってる。

展開はエグいんだが、演出のタッチは熱を抑えていて、ピアノの旋律の劇伴にもクドさがない。
このこじれた4人の関係が、意外な構図で収束してく終盤も見応えがある。


ファン・ビンビンは後半は憔悴してく表情に終始していて、目の下のクマが痛々しい。
この人は目の周りの印象とか、肌の白さとか、大塚寧々を思わせる。
大塚寧々も目の周りが妙にエロいんだが、下品な色気にはならない。
彼女は若い頃に、代表作と呼べる映画に出会えなかったのが勿体なかった。

ファン・ビンビンに限らず、アジアの映画を見ると、俳優の顔が大抵、日本の誰かに似てたりするんだが、例えばレオン・カーファイは、若い頃に比べて肥えてきており、小林旭みたいになってきた。

アンクンを演じるトン・ダーウェイは、意外とふてぶてしい役柄の印象もあり、目元が新井浩文を思わせる。ワン・メイを演じるエイレン・チンは奈美悦子だ。

2012年10月15日

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