マイケル・ファスヴェンダーはいいね [映画サ行]

『センチュリオン』

センチュリオン.jpg

あーあ、この映画はスクリーンにかけて欲しかったぞ。
前作『ドゥームス・デイ』で活劇のあらゆる要素を闇鍋の如くブチこんで嬉しがらせてくれたニール・マーシャル監督が、「なんでもあり感」を封印して、剣と血のサバイバル劇をこしらえた。
ローマ帝国史にも記されている、西暦117年にカレドニア(現在のスコットランド)に遠征したローマ軍第九軍団の謎の消滅事件を元に、想像を巡らしたようなストーリー。

この映画の屈折した面白さは、まずスコットランド人監督のニール・マーシャルが、自身の民族の先祖であるピクト人を登場させながら、彼らの視点ではなく、ピクト人の容赦ない戦いぶりに敗走するローマ軍兵士の側に視点を置いてること。
そのローマ軍兵士を、アイルランド人、英国人の俳優が演じてること。


ピクト人との戦いの前線にあるローマ軍の砦が急襲を受け、隊を率いる百人隊長(センチュリオン)のクィンタス・ディアスは捕虜となる。
殺されなかったのは、彼がピクト人の言葉を話せたからだが、牢から脱出した彼は、第九軍団に救われる。
人望の厚い将軍タイタスのもと、強い結束力の精鋭が揃う第九軍団は、ピクト人討伐に向かい、クィンタス・ディアスも行軍に伴うが、森の中で、敵のゲリラ戦に翻弄され、部隊はほぼ全滅。
将軍は「ワシ」の旗印とともに連れ去られる。

クィンタス・ディアスは生き残った数名の兵士を率いて、ピクト人の陣地へ侵入を果たすが、あと一歩で将軍を救い出すことができず、その過程でピクト人の部隊を率いるゴーラコンの小さな息子を殺してしまう。
ゴーラコンが放った追跡隊の先頭には、父と母をローマ軍に惨殺され、自らもレイプされ、舌を抜かれた女エティンが。
彼女は今や狼の嗅覚を持ち、ローマ人の血の臭いを逃さない狩人となり、クィンタス・ディアスたちを執拗に追い詰めて行った。

荒涼とした平原や雪原を、ローマ軍兵士たちがひたすら逃げる。
俺は敗走しながら戦うという戦闘アクションが好きなのだ。イケイケの戦いより、悲壮感が滲むようなのがいい。
なので巷ではすこぶる評判の悪い『ティアーズ・オブ・ザ・サン』なんかも、後半の敗走コンバットなシチュエーションゆえ、俺にとっては「お気に入り」の1本だ。

この映画をスクリーンで見たかったのは、ロケーションの雄大さにある。
スコットランドの北方ハイランドの手つかずの荒々しく、起伏に富んだ景観が、この逃走劇をダイナミックに仕立てる大きな役割を担ってる。
廃墟となった砦で、3人だけでピクト人追跡隊を迎え撃つ場面はテンション上がるね。
「もう逃げるのは飽きた」


百人隊長を演じるのがマイケル・ファスヴェンダー。あまりの面白さに2回見に行った
『X-MEN ファースト・ジェネレーション』で若き日のマグニートを演じてた。
ジェームズ・マカヴォイやジェニファー・ローレンスなど若い役者たちの魅力が、映画に大きく貢献してたと思う。

ファスヴェンダーは、本名はミヒャエルと読むのでドイツ人と思われがちだが、ドイツ人の父親とアイルランド人の母親の間に生まれてる。そのあたりに他の英国の俳優とひと味違う陰影がある。
クロネンバーグ監督の新作に、ヴィゴ・モーテンセンと並んで起用されてるが、いかにもクロネンバーグが好みそうなルックス。体温の低そうなね。

百人隊長クィンタス・ディアスと共に、最後まで戦うローマ軍の古参兵を演じるのが、名前もモロにという感じのアイルランド人俳優リーアム・カニンガム。
俺はこの人、英国映画を見るたび目にしてる気がしてたんだが、実際はそれほど出演作は多くない。
いかにも頑固そうなアイリッシュといった面構えが印象を強くしてるんだろう。
最近ではDVDスルーとなったマイケル・ケイン主演のヴィジランテ・ドラマ『狼たちの処刑台』で、黒幕的なバーのオーナーを演じてた。


マイケル・ファスヴェンダーとリーアム・カニンガムは前に一度印象深い共演を果たしている。
一昨年の東京国際映画祭で上映されたきり、一般公開に至ってない『HANGER』という映画。
ファスヴェンダーは、刑務所内でハンガー・ストライキを貫徹し死亡した、実在のIRA活動家を、猛烈なダイエットを行なって演じ切った。
映画でハンストを決行する直前に、主人公と長い対話を交わす神父を、リーアム・カニンガムが演じてたのだ。
長回しによる、息づまるようなディスカッションの場面となっていた。

もう一人、復讐の女狩人エティンを演じるオルガ・キュリレンコの怪演は見もの。
007ファンにはあまり評判のよろしくない『慰めの報酬』だけど、彼女のボンドガールっぷりにはシビれた。
俺は007はひと通り見てはいるけど、ボンドガールに魅力を感じたことはない。
飾りの域を出ない存在だったからだが、彼女は目に強い意志がこもり、飾り以上に血が通ったキャラクターになってたと思う。
ミラ・ジョヴォヴィッチの好敵手になれそうだし、安いアクションなんかでキャリアを消費させないでいってほしいね。

ちなみにこの映画の、第九軍団消滅事件の後日談と言えるのが、ローズマリー・サトクリフ原作で、日本でも少年向け冒険小説として出版されてる『第九軍団のワシ』だ。
この小説は『THE EAGLE』として映画化され、全米で既に公開されてる。
第九軍団の副司令官だった父親の汚名を晴らすべく、失われた「ワシ」の旗印を探し求める兵士マーカスにチャニング・テイタム、奴隷からマーカスの従者となり、のちに友情で結ばれるエスタにジェイミー・ベルが扮していて、これはぜひ劇場公開してほしい。

2011年9月27日

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