ラテンビート映画祭2011『カルロス』 [ラテンビート映画祭2011]

ラテンビート映画祭2011

『カルロス』

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70年代の世界を震撼させた、伝説のテロリスト、コードネーム「カルロス」こと、イリイッチ・サンチェス・ラミレス。
この映画は、謎の部分が多い、その実像に関して、交友関係などはフィクションを交えて描いていると、最初に但し書きが出る。
本人はじめ、登場人物は実名に基づいてるため、「これが事実」というような描き方は、どこからクレームがつくとも限らないという配慮があったのか。

元々は5時間のTVシリーズとして作られていて、それを165分に編集しての上映。
5時間版は以前WOWOWで放映されてるようだが、俺は見逃した。

監督はフランス人のオリヴィエ・アサイヤス。『夏時間の庭』や『クリーン』など、日本ではミニシアター系の人という印象だが、カルロスの内面描写などには時間を割かずに、どう行動したのか、どういう状況に置かれたのか、その部分のみを、当時のニュースフィルムを挿入しつつ、辿っていく。
70年代半ばという、あの『ブラック・サンデー』が作られた時代と合致することもあり、ジョン・フランケンハイマーの演出で見てるような、乾いたタッチがいい。


1973年からのおよそ10年間に、14件のテロ事件の関与したと言われるカルロスだが、この編集版でメインとなるのは、1975年パリのアパートで、DST(フランス国土監視局)の捜査官2人と、カルロスを売ったエジプト人計3人を射殺した事件と、同年12月ウイーンのOPEC本部での総会襲撃事件。
5時間版の方では日本赤軍と共闘したとされる、テルアビブ空港乱射事件や、オランダ、ハーグでの、フランス大使館占拠事件なども描かれてるのかも知れない。

OPEC襲撃では、オーストリア政府に、ラジオを通じて声明を流させ、各国の要人たちをDC-10に乗せ、アルジェリアに向かい、身代金を要求する段取り。
その真の目的は、人質の中のサウジアラビアのヤマニ石油相と、イランのアモウゼガル石油相の殺害だった。
だがアルジェリアから先に、飛行機を迎え入れる国は無く、リビアに強制着陸するものの、リビア要人の付き人を殺害したことにカダフィ大佐は激怒。
滑走路から一歩も出られず、進退極まったカルロスは、サウジ側からの2千万ドルの身代金提示を受け入れ、人質を解放してしまう。

石油相殺害の任務を遂行できず、身代金の受け入れを独断で判断したことは、作戦を立案したPFLP(パレスチナ人民解放戦線)の特別作戦グループのリーダー、ワディ・ハタッドの叱責を受けることとなり、カルロスは組織を追われる。
この各国の思惑に翻弄されるDC-10の機内の場面は、息のつまるような臨場感に満ちていた。

PFLPを離れフリーランスとなったカルロスは、ドイツ極左テロ組織RZ(革命細胞)メンバーの女性と結婚、
1979年以降は、旧ソ連、東ドイツ、シリアなどの機関と接触。
大義ではなく、金のために依頼された仕事をこなす、職業軍人ならぬ「職業テロリスト」へと変貌していく。


ベネズエラ人俳優エドガー・ラミレスが、殺しには躊躇しないが、女には優しくモテたという、カルロスのカリスマ性を実感させる好演。
活動してない時期は「無為な生活は苦手だ」と本人が言うように、余分な肉がつき、しまりのない体つきに。
エドガー・ラミレスが体重を調整しながら、カルロスの様々な時期の肖像を体現してる。

キャストで強い印象を残すのは、カルロスと共にOPEC襲撃に加わる、ドイツ人女子大生ナーダを演じるジュリア・ハマー。
とにかく警官を憎んでいて、後ろから銃を突きつけ「あんた警官?」と尋ね、頷くと即座に後頭部を撃ち抜く。
国境の検問所でも警官と見ると問答無用に射殺という、男以上の凶暴さで、カルロスすらその存在を持て余すというキャラクターを猛演してた。

俺はドンパチ映画が好きだが、それは互いが戦う用意があって相まみえるという前提があってのことで、時にカルロスが反時代的なヒーローのように映るにしても、戦う用意のない相手への銃撃や、不意打ち的なテロ行為を、痛快な気分で見ることはできない。

これだけテロの嵐が吹き荒れてた70年代を、のほほんと過ごしてきた俺だが、むしろこれからの世界に、テロの季節が再び巡ってこないとは言い切れない。
年金の給付年齢を70才に引き上げる法案が立案されようとしてる今、若い世代の不公平感は増長されていくばかりだろう。彼らがこの先の日本に、明るい展望を持てるような要素がどこにあるのか?
その鬱屈が沸点を超える瞬間が訪れるのは、そう遠くないことのように思う。

2011年10月11日

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