オザークへようこそとはいかない [映画ア行]

『ウィンターズ・ボーン』

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昨年の東京国際映画祭で見てから、まる1年経ってようやくの日本公開。
細部の描写を忘れかけてたんで、改めて見に行った。
俺は同じ映画に二度金払うことは別に厭わない。

二度目だからどういう展開になるのかわかってるのに、心臓を圧迫されるような緊張を強いられる。
一家の長であるべき男を家族が探す、プアホワイトが主人公という設定から『フローズン・リバー』との類似を語られてるが、あちらの母親は生活の困窮から、つい犯罪行為に手を染めてしまうが、
『ウィンターズ・ボーン』の17才の少女は、犯罪には手を染めないという強い信念を持ち、それゆえに窮地に立つという、明らかな違いがある。


麻薬取引の罪で逮捕された父親が、自宅と所有する森林を保釈金の担保にして、行方をくらます。
裁判に出頭しなければ、担保は差し押さえとなる。
幼い弟と妹、それに心を病んでしまった母親を抱え、17才の長女リーは
「父親を必ず見つけ出す」と心に決める。

ミズーリ州オザーク山脈にある山間の村。ここにまともな仕事は少ない。
父親は個人で麻薬を扱ってたわけじゃない。この土地の人間が組織的に、麻薬の精製に関わっている、そういう場所で、リーは警戒と拒絶の視線を浴びながら、父親の消息をたぐってゆく。

この映画を見れば誰もが、映画を支えてるのは、ジェニファー・ローレンスであることに異論なしと思うだろう。
十代の少女を主人公にした映画、その中でも過酷な状況に置かれたり、理不尽な運命に晒されたり、そういうテーマの場合、少女の健気さとか、無力感への憐憫とか、そんな感情を想起させることがほとんどだったが、この映画はちがう。

少女リーは相手が誰だろうが、ひるまない、卑屈にならない、後に引かない。
見ててハラハラさせられるんだが、同時に「カッコいい」のだ。
弟や妹に、この環境の中で生きる術を教える場面も頼もしい。

だがそういう描写とともに印象に残ったのは、リーが軍隊への入隊の面接を受けに行く場面。
マイケル・ムーア監督のドキュメンタリー『華氏911』の中で、プアホワイトの若者たちをリクルートしに、軍隊のスカウトが高校にやってくるのを撮ってた。軍隊にとってはいい人材確保の場なんだと。
この映画でも同じように描かれてるのかと思って見てたが、そうじゃなかった。

入隊の理由を聞かれ、リーは軍隊に入ると家族に4万ドルが支給されると知り、それを理由の一番に上げた。
面接官は、17才では親の承諾書がいること、そしてリーの置かれてる立場を聞いた上で、
「君の役目は家族のそばで、家族を守ることだ。
それは勇気のいる決断だし、容易なことではないだろう。」
「だがそれを果たすことが、君の人生で一番大切なことだ。」
とリーに諭す。軍隊がやみくもに若者を引き込んでく訳でもないのだな。
リーはその言葉に納得するしかなかった。

しかしリーが歩き回る土地の風景はなんと殺伐としたものか。捨て置かれたトレーラーハウス。ジャンクとなった車の山。
一帯を仕切る一族が漂わすアンタッチャブルな空気。これ見て
「ああ、オザーク山脈に行ってみたいなあ」
などと、のどかに思える人もほとんどいないだろ。
そういう意味じゃ「地域おこさない」映画だね。


ところでオザーク山脈が舞台と聞いて、俺みたいな洋楽好きが思い出すのは、
『ジャッキー・ブルー』という全米ナンバー1ソングを放ったオザーク・マウンテン・デアデビルズ。
デカいヒットはこれ1曲だったが、今聴いてもよく出来た曲。

『ウィンターズ・ボーン』の中で流れるような、この地方独特のバンジョーが奏でるカントリー・フォークとは違って、イントロや間奏のギターが哀愁帯びる、AORテイストの曲調なのだ。
歌詞は、夢ばかり思い描いて、実際は部屋から出ようともしない、今で言う「引きこもり」の女の子に、語りかけるような内容。
この映画の、生きていくために外に出て孤軍奮闘する、十代のヒロインとは対照的だ。

その『ジャッキー・ブルー』の他にもう1曲、この映画から連想したのがある。
この映画でヒロインの叔父の名がティアドロップと言うんだが、その名を日本題に冠したのが、
フレディ・フェンダーの『涙のしずく』。

実は『ジャッキー・ブルー』と『涙のしずく』は、同じ1975年の5月に、全米チャートで相次いでナンバー1となってたりする。両者ともこれが唯一の大ヒット曲。

フレディ・フェンダーはテックス・メックス(テキサス生まれのメキシコ人)で、俺はこれを初めて聴いた当時はまだガキだったんで
「なんでこんなぬるい歌がヒットしてんだよ」と腐してたが、大人になると良さがわかる。

「彼といて幸せなら、俺はそれでいい。君が幸せでいることが俺の望みだから」
「でも辛い思いをさせられたり、悲しい気持ちになった時には」
「俺がそばにいる。次の涙のしずくが、君の頬をつたう、その前に」

こんな歌詞なのだ。父親を探すための戦いに疲れ果てて眠る、この映画のヒロインに、そっと毛布をかけてやる、この曲はそんな風に聴こえるよ。

2011年11月11日

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