東京フィルメックス①『カウントダウン』 [東京フィルメックス2011]

東京フィルメックス2011

『カウントダウン』

カウントダウン.jpg

東京国際映画祭が終わると、1ヶ月後には東京フィルメックスの開催。

映画好きとしちゃ、2ヶ月連続で小遣いの持ち出しが続くキツい時期ではあるんだが、今年のラインナップは、俺的には色めき立つような作品があんまり見当たらないんで、思ったほど財布に負担もかからなかった。

この『カウントダウン』は「コンペティション」部門で上映されてるが、語りたいテーマがある映画というより、商業映画としてよく出来てると思った。だがよくできていると思うからこそ、どうも喉につっかえる部分もある。


露天商の夫婦の車をナンバープレートで割り出し、レッカー移動かけようとする男。
「車を持ってくなら死んでやる!」とポリタンクの液体を頭からかぶる店主。
男は「反省も謝罪もいらない」
「男なら相手の心臓にナイフを刺しこめる勇気を持て」
と言うと、店主の足元に火のついたライターを落とす。
「軽油は引火しにくいんだよ」

スタンガン仕様の特殊警棒を片手に、ヤクザの事務所にも乗り込んでく。
男の名はゴンホといい、冷徹な借金取立て人だ。取立ての報酬を受け取ると、その足で町の闇金へ。
女社長は「自分の借金返すために取立て人になるとはね」
仕事を済ませ高級セダンで気分よく自宅へ向かう途中、車は信号待ちしたまま動かなくなる。
ゴンホはハンドルを握ったまま、気を失ってたのだ。

病院で医者から、末期の肝臓ガンで、余名は3ヶ月と告げられる。10日以内に適合するドナーを探し、移植手術を受けるしか、助かる道はない。
田舎で小さな理髪店を営む両親には障害があり、臓器は使えない。ダウン症だった息子は5年前に死んでいた。だが息子の臓器は当時、何人かに提供されており、その相手を探し出せば、息子と血の繋がった自分にも適合するんじゃないか。

仕事柄か顔見知りとなった刑事に、差し入れなどしながら、ようやく見つけたのは、刑務所に収監されてる、ハヨンという女詐欺師だった。
面会に行き、大金を提示するゴンホに、ハヨンは自分を刑務所送りにした男を見つけだせたら、移植に応じると条件を出した。
出所の日、彼女を出迎えたのはゴンホだけじゃなかった。ハヨンに大金を巻き上げられた朝鮮族の男たちの襲撃をなんとか振り切り、病院へと向かうが、ハヨンの演技に騙されて薬局に立ち寄った隙に、ゴンホは自分の車ごと逃げられてしまう。

ハヨンは、ラブホテル向けに怪しい電動椅子を売りさばく会社社長が、自分を騙した男だとゴンホから聞いていたのだ。その社長は金を集めるだけ集めて、船で高飛びしようとしていた。
ハヨンはその会社の若い社員に狙いを付け、ホテルに誘い、寝てる間にカードキーを盗む。
社内に侵入すると、パソコンから社外秘のデータをUSBに写し、社長にゆすりを掛ける。
会社の証券など莫大な金額を要求する。

だがハヨンは知らなかった。社長はその若い社員を椅子に縛りつけ、太腿に麻酔を打って痛みを感じなくさせた上で、金属バットで足の骨を粉々に砕くような、残酷さを持っていることを。


ゴンホを演じるチョン・ジェヨンは『黒く濁る村』での怪演が印象に残ってるが、この映画での表情を抑えて、ぶっきらぼうに話す感じは、堤真一に似てるかな。
女詐欺師ハヨンを演じるのは『ハウスメイド』がエロかったチョン・ドヨン。

息子を亡くしたゴンホに対して、ハヨンは17の時に産んだ娘を捨てた過去がある。互いに我が子への負い目を背負ってる者同士だ。
そのハヨンの娘をも巻き込んで、クライマックスへと進むわけだが、カセットレコーダーに吹き込まれたゴンホの息子の肉声が、死の真相を蘇らせていくあたりで、この映画は、取立て屋と女詐欺師の攻守逆転を楽しむ展開から、父親としての贖罪のドラマへと転換していく。

どうも喉につっかえるというのは、ゴンホの過去と現在の姿が、一本の線で結びつかない感じがあるからだ。
妻は家を出てしまい、ダウン症の息子をかかえたゴンホは、借金まみれで心も荒み、息子にも辛く当たっていた。5年前に息子が死んだ日のことを思い出せないゴンホに、医者は、辛い記憶を封印するための心の作用だろうと診断してる。

その後、冷徹な借金取りとなる訳だが、人が変わったのはいいとして、腕っぷしまでそんなに上がるもんなのか?過去のゴンホは強い男には見えないし、そんなにタフなら稼ぐ当てもあったろう。
優しく接してやれなかった息子への後悔が、ある種自己嫌悪から、無謀と思えるような取立ても厭わないようになったのか。
だが「別にどうなってもかまわん」と思ってるんなら、余命3ヶ月の宣告にも焦る必要ないと思うが。
必死にドナー探してでも生き延びたいという、そのモチベーションが過去とつながらないんだよな。

それとあらすじに書いたけど肝臓ガンの宣告受けた後、ゴンホが音信を断っていた両親の元に顔を出す場面で、両親が共に障害を持ってることがわかる。
ゴンホは「障害があるのに、なんで子供を作ったんだ」と責めるように言う。
つまり自分も若くして末期の肝臓ガンにかかり、自分の子もダウン症だったと言うことだろう。これは障害のある人間からは、障害のある子が生まれるという偏見を助長してないか?
あと障害を持った両親からの臓器は移植できないとしながら、5年前に死んだダウン症の息子の臓器は提供されてる。これはそういうものなのか?

息子役はホ・ジョンホ監督が実際に施設を回って探し出したという、ダウン症の少年が演じてるが、この子は非常に演技が上手かった。父親のゴンホから、症状のことをなじられる場面などは、本人は傷ついてやしないかと、心配になったよ。

2011年11月23日

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