「午後十時の映画祭」50本④作品コメ [「午後十時の映画祭」]

引き続き、この映画が観たい「午後十時の映画祭」50本(70年代編)のタイトルリストに沿ってのコメントを。
五十音順で、今日は「キ」から「コ」まで。



『恐怖の報酬』(1977)アメリカ 
監督ウィリアム・フリードキン 主演ロイ・シャイダー

恐怖の報酬.jpg

『フレンチ・コネクション』でアカデミー賞を、『エクソシスト』で興行的大成功を、この2連打で名監督としての「地位」も「金」も手に入れたウィリアム・フリードキンが、次にブチ上げたのが、心臓破りサスペンスの傑作として映画史に輝く、1952年のフランス映画『恐怖の報酬』のハリウッド・リメイクだった。

さすがに無謀という声で占められたが「誰がどう言おうが俺がやるって言ってんだよ!」と、怖いもの知らずの状態にあったフリードキン監督にとって、結果この映画の製作はコッポラの『地獄の黙示録』やフランケンハイマーの『グラン・プリ』と同様に、自身に激しい消耗をもたらすことになる。
本作で精力使いすぎて、1985年の『LA大捜査線 狼たちの街』で復調遂げるまで、スランプが続く。
もっとも一旦復調してからもまた下降するんだが。

プロットはほとんど変えてない。舞台も同じ南米だが、オリジナル版より、さらにジャングルに分け入っての見せ場を作っている。あと山賊に襲われるというのも、オリジナルには無かったんじゃないか?
ガキの頃にテレビでオリジナル版を見たが、油だまりでトラックが車輪をとられ、イヴ・モンタンの相棒のシャルル・ヴァネルがそれを直そうと、車輪に足を踏まれる場面。
ここがトラウマになる位おっかなかった憶えがあって、このリメイク版ではその場面に匹敵するような、心臓バクバク場面を用意してた。

キー・アートにもなってる、ニトロ満載のトラックが、今にも崩れ落ちそうな吊り橋を、車体を傾けながら、ジリジリと進んでいく見せ場だ。
ここはさすがにフリードキンの演出力で、映画館で、座席の肘たてを握りしめながら見てた。
ロイ・シャイダーも悪くはないんだが、イヴ・モンタンに比べ、表情に乏しい感がある。
それとフランス版のシャルル・ヴァネルに匹敵する演者がいないんで、キャスト的には物足りない。

タンジェリン・ドリームによる、無機質でミニマムなシンセサイザーの旋律が、緊張感を持続させる効果を生んでいる。
前作『エクソシスト』で、マイク・オールドフィールドの『チューブラー・ベルズ』の使用が大当たりしたことで、フリードキンは今回もシンセで行こうと思ったんだろう。ちなみに当時マイク・オールドフィールドは自作を「あんな内容の映画に使われたのは心外」とコメントしてるが、それで名が売れたってことはあるしねえ。

この『恐怖の報酬』は日本公開版は92分と随分タイトに刈り込まれてて、121分の全米公開版が後にビデオ化されてた。DVD化はされてない。
一説にはさらに長いディレクターズ・カット版が存在するらしい。
まあそれでもアンリ=ジョルジュ・クルーゾー監督のオリジナル版の149分に比べれば、かなり短い。
ニトロ積んで走り出すまでの人間関係の描写に時間を割いてるオリジナル版と比べ、本題に入るのが早いのは、せっかちなフリードキン監督らしい。



『きんぽうげ』(1970)イギリス 
監督ロバート・エリス・ミラー 主演ジェーン・アッシャー、リー・テイラー=ヤング

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ロバート・エリス・ミラーという監督は、1968年に、『スウィート・ノベンバー』のオリジナル版である『今宵かぎりの恋』と、ソンドラ・ロックのはかない美しさに胸撃ち抜かれた『愛すれど心さびしく』を撮り、そしてこの『きんぽうげ』と、ありきたりでない設定のラブストーリーを連打した人。

『きんぽうげ』の原題は『THE BUTTERCUP CHAIN』
つまり「きんぽうげの輪のように、切れやすく、もろい関係」を指している。
双子の姉妹が同じ日、同じ時刻に出産を迎え、兄妹のように育てられた男女が主人公という設定から、これも普通じゃない。
その二人に、やがて互いの彼氏彼女が加わっての共同生活が始まるという筋立て。

きんぽうげ咲き乱れる花畑でのピクニックで4人が出会う場面など、淡く美しい画面は、イギリス映画界きっての撮影監督ダグラス・スローカムによるもの。

まあ、まずはジェーン・アッシャーがね、可愛いとしか言いようがない。
フェミニンなウェーヴがかかった髪形といい、恋には奥手でハニカミやさんという、おいおい『早春』と真逆だぞ役柄が。
もう一人の女の子が、俺はジュディ・バウカーだと思ってたが、リー・テイラー=ヤングだった。
彼女は1969年の『悪女のたわむれ』で共演したライアン・オニールと結婚してたことがあるね。長いストレートヘアが魅力だった。

昔テレビで放映されたのを見たきりで、もう細部もほとんど憶えてないのだ。
なんかきれいだったなあ、という漠然とした印象が残ってる。
ビデオもDVDも出たことないね。



『クワイヤボーイズ』(1977)アメリカ 
監督ロバート・アルドリッチ 主演チャールズ・ダーニング、ペリー・キング

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当初このリストには『グリニッチ・ビレッジの青春』を入れてたんだが、普通にDVDが出てることが判明。この映画に入れ替える。

「男騒ぎの映画」一筋のアルドリッチ監督作では、ある意味最もヤバい内容なのだ。
ロサンゼルス警察のある分署の警官たちの無軌道ぶりが、コメディタッチで描かれてるんだが、『ポリス・アカデミー』みたいな、完全なギャグ映画ってわけじゃなく、幾分マジに作ってあるんで、逆に始末が悪い。
アルドリッチ的には『特攻大作戦』の警官版をやろうとしたのかも知れないが、警官だからね、いみじくも。

これ日本公開前の試写会の段階で配られてたチラシは、図柄の中心に、制服着たペリー・キングが、娼婦といい感じになってる場面写真が使われてて、これはまずいだろうと、公開時には図柄が変えられてたんだよね。

若い婦警さんの部屋に忍びこんだ警官2人の場面もヒドかったね。彼女がシャワーから上がって、バスローブ羽織ってガラステーブルに腰掛ける。バスローブの裾は広げた状態になってて、つまり「直接」座ってるわけだが、なにか気配を感じて腰を上げると、テーブルの下からガラスに顔ひっつけた男が!っていう…。
そうかと思えば、ビルの屋上で「自殺する!」って叫んでる黒人の女の子がいて、警官が説得するのかと思うと、「そんなに死にたきゃ、さっさと飛び降りろ!」
でもってホントに飛び降りちゃう。ビルから下見て「あーあ」みたいな…。

酔っ払った上に、ベトナムの体験がフラッシュバックして、錯乱状態になった警官が、助けようとした少年を撃ち殺してしまったり。内容が笑ってすまされるもんじゃないんだね。
後半はその警官たちが一致団結するなんて場面もあるけど、遅いよ!って言いたくなる。
なもんで名匠アルドリッチでありながら、ほぼ封印状態となってる。

ビデオはひょっとしたら一度位は出てるかも知れないが、DVDは出てない。
テレビで放映された記憶もない。
『ロッキー』の義兄バート・ヤングとか、無名時代のジェームズ・ウッズとか、キャスティングは賑やかなんで、もう一度見てみたい気持ちではある。



『刑事キャレラ 10+1の追撃』(1972)フランス 
監督フィリップ・ラブロ 主演ジャン・ルイ・トランティニャン、ドミニク・サンダ

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1970年代を代表する美女といえば、ジャクリーン・ビセットと並んで、ドミニク・サンダをはずしては語れない。
あの陶器の人形のような、男を寄せ付けない硬質な美しさには、ため息が出るばかり。
つい先日、ずっとビデオ・DVD化されてなかった1971年作『悲しみの青春』がようやくDVD化されたんで、そうなるとこれあたりかなと選んでみた。

その大人びた美しさから、実年齢より上に思われる彼女だが、この『刑事キャレラ 10+1の追撃』ではまだ21才という若さだ。過去の時代を舞台にした映画が続いていたドミニクだが、この現代劇では、70年代モードを着こなしていて、そこがまた魅力となってる。

ドミニクだけでなく、この映画には、『青い体験』シリーズで、当時の青少年の股間を熱くさせたラウラ・アントネッリも、26才の若さで出てるのだ。
他にもドロンの『ビッグガン』では組織の人間にズタズタに暴行受けて哀れだったカルラ・グラヴィーナも出てるし、フランス映画らしく、刑事のまわりは女だらけだ。
そんなハーレム状態もうらやましい、ジャン・ルイ・トランティニャン演じる刑事キャレラだが、潔癖症で手洗いを欠かさないというのが『名探偵モンク』みたい。

この年は『ダーティハリー』が公開されてるが、偶然にも、両方の映画とも、最初にスコープ付のライフルによって、プールで人が射殺される場面がある。刑事のキャラは随分ちがうけどね。
音楽はエンニオ・モリコーネだ。

なお「刑事キャレラ」シリーズはもう1本、1977年に『刑事キャレラ 血の絆』が作られていて、監督はクロード・シャブロル、キャレラを演じたのはドナルド・サザーランドだった。
エド・マクベインによる原作は、舞台はアメリカでキャレラも勿論アメリカ人の刑事だが、なぜかフランス人が惹かれるキャラなんだね。

この映画は2本とも昔ビデオになってて、DVD化はされてない。
贅沢を言えば「2本立て」で見れたりすると良いなあ。



『激走!5000キロ』(1976)アメリカ 
監督チャック・ベイル 主演マイケル・サラザン

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交通法規無視の大陸横断レースといえば、『キャノンボール』シリーズが日本では大ヒットしたが、この手の映画が好きな人間には、この『激走!5000キロ』の方が面白いという声が多い。
この映画の方が4年早く作られてるのだ。

『キャノンボール』が当時流行りのスーパーカーを揃えたものの、スターを何人も出したため、均等に見せ場を作る事に腐心して、レースそのものは散漫になってしまってた。
こっちはスターなんか出てないし、クルマが主役となってる。
このニューヨークからロスを目指す公道レースの優勝者が手にするのが、巨大な「ガムボール・マシーン」というのもよかった。金じゃないんだね。
「ガムボーーーール!」って合言葉だったな。

俺は昔からいわゆるスーパーカーの「ガジェット感」が好きじゃなかったんで、この映画でエントリーする名車の方を眺めてるのが楽しい。
主役のマイケル・サラザンが乗るコブラ427がまず渋いね。深いブルーの車体だったと思う。マイケル・サラザンのライバルとなるのが、ひたすら女好きのイタリアンという、絵に描いたようなキャラのラウル・ジュリア。
この役者よかったのにねえ。早死にが惜しまれる。彼が乗るのはフェラーリ・デイトナ・スパイダー。
70年代以降の映画には度々ロケされる、ロスの水のほとんどない運河みたいなとこ。あそこがクライマックスのレース場面になってた。

『ビッグ・ウェンズディ』のゲイリー・ビジーも、スタントマンという役で、たしかシボレー・カマロに乗ってた。
ひとりカワサキのバイクで参戦するヒゲのおっさんがいて、多分セリフは一言もなかったと思うが、コメディリリーフとして、映画にもオチをつけてた。
60年代後半から、何本か主演作もあったマイケル・サラザンだが、この映画が日本の映画館でかかる最後の主演作となった。



『ゴールド』(1974)イギリス 
監督ピーター・ハント 主演ロジャー・ムーア、スザンナ・ヨーク

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ロジャー・ムーアが「3代目007」に抜擢された翌年に主演した陰謀サスペンス。
南アフリカの金鉱を舞台にしてること、その金鉱を壊滅させることで、世界の金相場の暴騰を促し、利益を得ようとする国際シンジケートの謀略の規模の大きさなど、題材とロケーションの目新しさが特徴で、クライマックスは、地底湖から奔流のように噴出す水による坑道内大パニックが描かれる。
なので当時は『ポセイドン・アドベンチャー』が大ヒット飛ばした後ということもあり、パニック映画の売り方をされてたが、基本はアリステア・マクリーンの冒険小説の映画化のような構造をしてる。

ジェームズ・ボンドの、洗練されたヒーローのイメージとは違い、鉱山技師という役を、泥まみれになって演じてるロジャー・ムーアの奮闘ぶりがいい。

この映画は過去にビデオもDVDにもなってるんだが、今手に入るDVDは、画面がトリミングされており、大掛かりなパニックシーンは、やはりオリジナルのシネマスコープで見たいのだ。

ピーター・ハント監督とは2年後の『冒険野郎』でも再びタッグを組んでるが、本作の出来が上だ。
今年1月に世を去ってしまったスザンナ・ヨークが、ムーアと恋に落ちる人妻を演じてる。
33才の女ざかりの彼女を見て追悼したい。
エルマー・バーンスタインのメインテーマもなかなかよかったんだよな。



『コンラック先生』(1974)アメリカ 
監督マーティン・リット 主演ジョン・ヴォイト

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近年は「アンジェリーナ・ジョリーのお父さん」として認知され、慇懃な、あるいはアクの強い敵役が主な役所となってるジョン・ヴォイトだが、若い頃からの彼を知ってる映画ファンにとっては、「善良さを感じさせるナイーヴな青年」のイメージが強い。
その集大成がアカデミー主演男優賞を受賞した1978年の『帰郷』で、そのイメージを自ら払拭したのが1985年の『暴走機関車』の脱走犯役だった。

この『コンラック先生』では、アメリカ南部サウスキャロライナ州にある島に赴任してきた白人教師の奮闘を演じている。なにせこの島の子供は全員黒人で、1969年の世界でも、まだ「地球は平べったい」と思いこんでるのだ。
それは自らも黒人でありながら、黒人を見下すような態度を取る、女性校長の保守的すぎる教育のせいで、生徒たちは体罰に怯え、無気力な表情をしていた。

白人教師はコンロイという名だが、子供たちは発音できず「コンラック先生」と呼ぶのだった。コンロイは子供たちにベートーヴェンを聴かせるなど、まずは情操教育を試み、島に住む黒人たちの意識にも影響を与えていく。だがその行動を、当然快く思わない人々もいるのだった。

『ミス・ブロディの青春』『いまを生きる』『モナリザ・スマイル』など、保守的な空気に新風を吹き込むという教師の物語に連なる一作で、若いジョン・ヴォイトの持ち味が発揮されてる。
原作者パット・コンロイによる自伝的小説の映画化で、この人の小説は、他にも『パパ』『影の私刑』『サウスキャロライナ 愛と追憶の彼方』とよく映画化されてる。

監督のマーティン・リットは1972年にも『サウンダー』で、南部に生きる黒人の厳しさを描いてる。
この監督の映画には体制や権力への反逆心が、一貫して流れている。そういうテーマを持ちながらも、この映画では南部の島の、豊かな景観の中で、教師と子供たちが心を通わせていく様子を、伸びやかな筆致で描いていて、アメリカ版『二十四の瞳』の趣もある。
ジョン・ヴォイトは口をすぼめた表情なんかは、やっぱりアンジェリーナの父親だなと思うね。

ビデオは昔出てたが、DVD化はされてない。

2011年12月29日

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