「午後十時の映画祭」50本⑤作品コメ [「午後十時の映画祭」]

引き続き、この映画が観たい「午後十時の映画祭」50本(70年代編)のタイトルリストに沿ってのコメントを。
五十音順で、今日は「サ」の4作。



『最後の脱出』(1971)アメリカ 
監督コーネル・ワイルド 主演ナイジェル・ダヴェンポート、リン・フレデリック

最後の脱出.jpg

1970年代は「公害」の時代でもあった。俺は晴れた日には、喉がヒリヒリしたりする「光化学スモッグ・チャイルド」の世代なのだ。
この映画は、人口爆発や環境汚染など、70年代に噴出してきた「このまま世界はどうなっちまうのか?」という、未来への懐疑的な気分を、ストーリーに練りこんだデストピアSFだ。

環境汚染により、穀物が育たなくなり、飢饉が世界中を覆い尽くし始めた近未来。ロンドンに住む建築家の家族が、家を捨て、夫の兄が営む北イングランドの農場を車で目指すが、すでに秩序が失なわれ、市民は暴徒と化しており、それは凄絶なサバイバルの旅となる。

コーネル・ワイルド監督は、先日WOWOWで放映されてた1966年の監督作『裸のジャングル』でも、白人の冒険家がアフリカで部族に捕まり、裸の身ひとつで逃げ延びるゲームを強制されるというサバイバル劇を描いていた。そういうシチュエーション萌えがあるんだろうね本人の中に。

この『最後の脱出』では道中で、「フン族」を名乗るバイカー軍団が襲撃してくるんだが、娘役のリン・フレデリックがレイプされたり、銃撃戦となったりで、後の『マッドマックス2』を思わせるような殺伐感が充満してる。
建築家なんだけどアイパッチで敵と戦うナイジェル・ダヴェンポートと同様、『マッドマックス2』のメル・ギブソンも片目塞がってた。
そういや『裸のジャングル』の展開も、『アポカリプト』を思わせるし、コーネル・ワイルドとメル・ギブソンはどっかで繋がるものがあるかもな。

この映画はガキの頃にテレビで見たきりで、コーネル・ワイルドの映画は1975年の監督・主演作『シャーク・トレジャー』を公開時に見てる。『ジョーズ』大ヒットにあやかる便乗映画の1本という印象だったが、彼のそれまでの映画の作風なんかを知って見てたら、また別の面白さを発見できてたかも知れない。

これもビデオ・DVDの販売履歴はないが、向こうのワーナーのアーカイヴ・コレクションに入ってるんで、日本でもオンデマンド販売の可能性はあるね。



『サイレント・パートナー』(1978)カナダ 
監督ダリル・デューク 主演エリオット・グールド、クリストファー・プラマー

サイレントパートナー.jpg

トロントの銀行の出納係のエリオット・グールドが、閉店後のフロアに
「銃を持ってる。金を全部入れろ」
と書かれたメモを拾う。クリスマスも近い翌日、デパートで募金を募るサンタの掲げる看板の文字が、あのメモの筆跡と同じだと気づく。
「サンタが強盗に来るのか?」
勘が働いた出納係の予想通り、サンタは窓口で彼に同じ文面のメモをみせた。
出納係は強盗を予想して、警備員に伝えることはしてなかった。彼はサンタ強盗の言われるまま、金を袋につめた。警報装置が作動し、強盗は逃げ去る。

そしてその日のニュースでは、銀行強盗が入り、5万ドルが奪われたとの報道。出納係もインタビューされてる。
強盗はニュースを見ながら
「こいつにしてやられた」と思っていた。
袋には5万ドルの半分ほどしか入ってなかったからだ。
そこから出納係のエリオット・グールドと、サンタ強盗クリストファー・プラマーの、互いに相手の悪事を暴露できない「沈黙の共犯者」同士の攻防が始まる。

飄々として人を煙に巻くようなキャラで売ってきたエリオット・グールドが、好きな同僚の女性も口説けず、熱帯魚が趣味という独身男の、人生を変えるような一か八かの大勝負に出る様子を、いくぶんシリアスに演じてる。
対してクリストファー・プラマーがキレすぎてヤバい。あのフォン・トラップ大佐が、サンタどころか女装やSM趣味まで見せるという、コスプレ大会の様相で、しかも後半に残忍さが増してくるんで、「出納係だいじょぶか?」とハラハラするね。

クライマックスの金の受け渡し場面に至るまで、攻守入れ替わる「騙しあい」ぶりから目が離せない。
エリオット・グールドの同僚をスザンナ・ヨークが演じてる。
ジャズ・ピアニストのオスカー・ピーターソンが音楽を担当してるのも凄いが、これは彼がカナダ出身ということで、何らかの繋がりがあったんだろう。
昔ベストロンからビデオが出てたが、DVDにはなってない。



『砂漠の冒険』(1970)イギリス 
監督ジャミー・ユイス 主演ワイナンド・ユイス

砂漠の冒険.jpg

今の子供たちはどうなのかわからないが、俺らの学生時代には、年に1度、映画を見に行くという「視聴覚教育」の一環の行事があったのだ。
この監督の1974年作『ビューティフル・ピープル/ゆかいな仲間』という動物ドキュメンタリーを、俺は映画館でクラスメイトたちと見てる。熟した果実を食べて、サルや象が酔っ払って、千鳥足になったりする、動物たちを人間の行為に見立てて眺めるという視点がウケて、当時ヒットした映画だ。

そして俺らよりちょっと年長の子供たちが、同じように学校などで見させられて、その内容がトラウマになってると、いろんな所に書かれてるのが、この『砂漠の冒険』だ。
俺は見てなくて、ちょっと前に、横浜の黄金町にあるミニシアターの「シネマジャック」で、会員限定で1回のみの上映会をやってたんだが、俺は会員じゃなかったし、当日会員に入れば見れたかも知れないんだが、ぐずぐずしてる内に終わってた。16ミリで上映したようだ。
1970年代当時から映画の16ミリフィルムと映写機のレンタルというのはあって、学校での上映も行われてたわけだ。

砂漠でのサバイサルといえば『飛べ!フェニックス』や、ジェニー・アガターが幼い弟を連れてオーストラリアの砂漠をさまよう『美しき冒険旅行』なんかがあるが、この映画も、軽飛行機の墜落によって、アフリカの砂漠地帯に取り残された、8才の少年と飼い犬のサバイバルを描いてる。
監督の実の息子に演じさせてるんだが、執拗に追ってくるハイエナの恐怖とか、サソリに足を刺されて意識不明に陥ったりとか、少年の身には過酷すぎるという場面が連続するようで、当時これを見させられた子供たちも、いたたまれなくなったようだ。

このジャミー・ユイス監督は、一貫して南アフリカをベースに映画を作り続けていて、1981年には『ミラクルワールド/ブッシュマン』で日本でも大ヒットを飛ばすことになる。
メジャーな映画会社に属することもなく、アフリカという地の利を生かした企画を立て、「見世物としての」映画の面白さを追求してきた点では、映画館にギミックを施して客を驚かすなんてことをやってた、ウィリアム・キャッスルと通じるものを感じるね。
1996年に死去してるけど、相当稼いだろうし、映画人生としては楽しかったんじゃないかな。

ビデオ・DVDは今まで出てない。



『さらば愛しき女よ』(1975)アメリカ 
監督ディック・リチャーズ 主演ロバート・ミッチャム、シャーロット・ランプリング

試写状『さらば愛しき女よ』.jpg

レイモンド・チャンドラー原作の探偵フィリップ・マーロウの世界観を、時代色も含め、完璧に再現してやろうという野心がこもった映画。
下手すると何かのパロディじゃないか?と思われかねないアプローチなんだが、この主人公に血肉を通わせたのがロバート・ミッチャムという役者の起用だろう。

キメキメにカッコいい役者ではなく、この稼業にくたびれた感じが漂いつつも、長年ハリウッドで主役を張ってきたスターの風格がある。1940年代の着こなしも、板についてる。
この映画は彼が主役を演じたことで成功が約束されたと言っていいのだ。
そして相手役にはシャーロット・ランプリング。彼女はまさにローレン・バコールの再来という雰囲気だった。

1970代の半ばにかけてアメリカ映画界では「懐古調」ブームが起こっていた。
1920年代から40年代あたりまでの、クラシカルなファッションに身を包んだ役者たちの、ゴージャスなムードが売りになってて、『華麗なるギャツビー』『チャイナタウン』『イナゴの日』『名犬ウォン・トン・トン』、クラーク・ゲイブルとキャロル・ロンバートのカップルを描いた『面影』『おかしなレディキラー』から、ジョディ・フォスターほか十代の「子役」たちにギャングや情婦を演じさせた『ダウンタウン物語』まで。
この『さらば愛しき女よ』は、そんな中でも『チャイナタウン』と並ぶ成果を上げた一作だと思う。

この成功に気をよくして、製作者は1978年に再びロバート・ミッチャムに探偵マーロウを演じさせる『大いなる眠り』を作る。
これはボギー&バコールの『三つ数えろ』のリメイクともなるんだが、舞台を現代のロンドンに置き換え、クラシカルなムードは無くなる。
共演するイギリスの俳優陣も多彩だが、マイケル・ウィナーの演出が「なまくら」で盛り上がらない。
ジェリー・フィールディングの音楽だけが印象に残る結果に。
日本未公開でビデオスルーになったのも致し方なし。

『さらば愛しき女よ』の方はビデオは出てたが、まだDVDにはなってない。
ジョン・A・アロンゾによる、レトロムードたっぷりのカメラをもう一度スクリーンで堪能したい。

2011年12月30日

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