「午後十時の映画祭」50本⑧作品コメ [「午後十時の映画祭」]

引き続き、この映画が観たい「午後十時の映画祭」50本(70年代編)のタイトルリストに沿ってのコメントを。
五十音順で、今日は「タ」から「ト」まで。



『ダーティハンター』(1974)アメリカ・スペイン 
監督ピーター・コリンソン 主演ピーター・フォンダ、ウィリアム・ホールデン

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「アメリカン・ニューシネマの気分」を体現するスターとして、70年代に人気を誇ったピーター・フォンダ。実はそんなに大作には出てなくて、中規模なアクション映画が多かったが、普通のストーリーでも、彼が出ることで、
「終わり方がニューシネマっぽいねえ」
なんか言われて、プラスなにかトッピングされたようなお得感を得た気になったりしたもんだ。
『ダーティ・メリー、クレイジー・ラリー』とか『怒りの山河』とか『悪魔の追跡』とかね。

いま挙げた映画にしろ、彼の監督・主演作の『さすらいのカウボーイ』にしろ、過去にビデオ・DVDになってる率は高めの人なんだが、唯一封印されたままになってるのが、この『ダーティハンター』だ。

公開時のポスターの絵柄にはピーター・フォンダの横顔の背景に星条旗があしらわれ、いかにも「ニューシネマのヒーロー」を演出するような感じだが、映画を見れば、ただの殺人マニアでしかない役柄なのだ。
たしかに人を浚ってきては、山に入り、「人間狩り」の標的とするフォンダ以下3人のハンターは、ベトナム帰還兵という設定だが、それは脚本的にとってつけたようなもんで、星条旗も関係ない。

あるカップルが拉致られるんだが、いきなり標的にされるんじゃなく、たしか最初の頃は、動物を狩りに山に入る3人の食事なんかを女性に作らせたりしてた。拉致した目的がわからないと、被害者を不安にさせる手口がイヤらしい。このあたりが、知性を感じさせるピーター・フォンダのキャスティングを納得させられる所だ。
そしてある朝いきなり、方位磁石とわずかな食料をリュックに詰めさせられ、
「30分したら追いかけるから、今から逃げろ」
と命ぜられる。その時、被害者は男たちの意図を初めて知ることになる。
フォンダの仲間のリチャード・リンチは、70年代を代表する「サイコ野郎」役者で、名前もだが、目つきも危ない。

その人間を狩る3人が、後半には姿なき男のライフルに狙われる。
狩る側から狩られる側へ、男は以前にやはり3人に拉致られてレイプされた女性の父親だった。
女性はフォンダの子供を生んだ後、自殺したという。

最後の方になってようやく姿を現す男を演じるのがウィリアム・ホールデンだ。
『コマンド戦略』以来の迷彩服だぞ。ウィリアム・ホールデンはこの後、1980年に同じピーター・コリンソン監督の『アドベンチャー・ロード』で印象的な演技を見せてた。

とにかくピーター・フォンダとしては何の共感も得られない珍しい役を演ってたわけだが、この映画ハリウッド製作ではない。スペインとアメリカのコープロとなってて、多分製作会社が倒産して、映画が債権となってるとか、どうもややこしい状態になってるらしい。
なので最初に日本に入ってきて、映画館での上映や、テレビ放映などしてた5年間は、権利が有効だったが、その後は権利者がわからなくなってるんだろう。
よくテレビの洋画劇場なんかで放映されてたのにね。



『ダブ』(1974)アメリカ 
監督チャールズ・ジャロット 主演ジョセフ・ボトムズ、デボラ・ラフィン

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高校くらいの頃までよく聴いてたラジオの番組に、文化放送の「ユア・ヒットパレード」があった。洋楽のチャート形式の番組なんだが、ビルボード誌の集計にのっとった「全米トップ40」なんかとはチャートインしてくる曲がちがうのだ。
映画音楽の主題歌なんかが、当時の流行りの洋楽に混じってベスト1を争ったりしてた。
『エマニエル夫人』のテーマなんて、何週も1位を続けてたね。

あと俳優による歌、例えばアラン・ドロンがセリフを囁いて、ダリダが唄う『甘い囁き』なんてのも大ヒットしてた。

『ダブ』の挿入歌で、リン・ポールという女性歌手が歌う『愛の潮風』もチャートに入ってたと思う。
ジョン・バリー作曲によるメインテーマがまたいいんだけどね。
昔の映画のメインテーマはユーチューブにアップされたりしてて、聴くとまざまざと映画の場面が浮かんでくる。

俺は思うんだが、近年の映画は、映画音楽の効果というものを軽視しすぎてるね。
まずメインテーマが口ずさめるような映画がほとんどない。作曲するコンポーザーに、耳に残る旋律を書くつもりがないのか、その能力がないのか。

ここ何年かで俺が好きなのは『ロード・トゥ・パーディション』のメインテーマで、あれは聴いててゾクゾクさせるような美しさがある。
作曲したトーマス・ニューマンは、1930年代から1970年の『大空港』まで、ハリウッドのあらゆるジャンルの映画音楽を手がけた、巨匠中の巨匠アルフレッド・ニューマンの息子だ。これはもう血筋だろうな。
今も世に出続けている膨大な数の新作映画は、今はいいが、20年後、30年後にすぐに題名を思い出されるだろうか?
だがその映画音楽が耳に残ってると、長い時間が経っても、音楽が映画の記憶を引っ張り出してくれるのだ。

この『ダブ』を引き合いに出すのも何だが、映画としたら名作というほどではない。
17才にして、ヨットでの単独世界一周の記録を打ち立てたロビン・リー・グレアムの自伝に即した海洋青春ドラマだ。
グレゴリー・ペックが製作を買って出たことで話題となったが、ジョセフ・ボトムズ演じるロビンが、フィジー島で出会った少女デボラ・ラフィンと、その後くっついたり、離れたりしながら旅を進めていく様子は、日本の『太平洋ひとりぼっち』の航海なんかと比べると、けっこう気楽な感じがして、偉業達成の感動は薄められてる。

だがヨットが帆を進める大海原に、ジョン・バリーの音楽が重なって、気持ちよく見てられる映画にはなってる。
スウェーデンを代表する撮影監督スヴェン・ニクヴィストのカメラも美しい。

ビデオ・DVD化は今までされてない。
こういう「海洋もの」はスクリーンで見れるといい。



『デキシー・ダンスキングス』(1974)アメリカ 
監督ジョン・G・アヴィルドセン 主演バート・レイノルズ

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この映画の日本公開に関しては逸話がある。
これはジョン・G・アヴィルドセン監督が『ロッキー』で大当たりを取る2年前に作った映画で、これともう1本、リチャード・レスター監督の1976年のコスチューム・コメディ『ローヤル・フラッシュ』の2本が、20世紀フォックス日本支社の倉庫に、公開予定もなく眠ってたのだ。
それは勿体ないと、フォックスの社員じゃなく、当時のたしか東宝東和の社員が、有志を募って、普段は名画座として営業してる「自由が丘武蔵野推理劇場」を借りて、2本立ての公開に漕ぎつけたのだ。

それが1978年のことだ。たしか冬だった。ブログで前に、この映画館で映画見て、風邪ひいたことがあると書いたが、この2本立て見た時かも知れないな。
ビデオもない時代だから、映画館で封切らなければ、見せるあてもなくなるんで、「お蔵入り」するフィルムも、メジャー映画会社の日本支社には結構あったようだ。
『ローヤル・フラッシュ』はその後レーザー・ディスクで発売されたことがあり、NHK-BSでも放映されたが、こちらの『デキシー・ダンスキングス』は俺の知るかぎり、テレビ放映もされてないし、ビデオ・DVDも出てない。

バート・レイノルズは1970年代には、レッドフォードやイーストウッドと並ぶ、いや一時期は彼ら以上の、マネー・メーキング・スターだった。
だがいま現在、彼の主演映画のDVD化率は本当に低い。不公平な位に低いのだ。
なのでこの映画じゃなくても何本も候補は挙げられるが、俺はバート・レイノルズはあんまりカッコつけてない役の方がいいと思ってる。都会の刑事を演じてるものも何本かあるが、田舎でヤンチャしてる方が伸び伸び演じてる気がするのだ。

この映画は1950年代のアメリカ南部を舞台にしてる。バートが演じてるのはW.W.と名乗るガソリンスタンド強盗だ。オールズモビルでスタンドに乗り付ける。
運転席の日除けの裏側にいろいろ小物を括りつけてあるのが面白い。
W.W.は従業員を脅して売上金を奪うが、一部を渡して
「これで警察には全部やられたと言え」
と言って去る。従業員は恩に着て警察にはテキトーな事しか言わないので、W.W.はなかなか捕まらないのだ。しかもなぜかSOS石油という一社しか狙わない。

そんなW.W.がパトカーに追われ、逃げ込んだ会場では、デキシー・ダンスキングスという、無名のカントリー・バンドが演奏してた。
W.W.はとっさに音楽プロモーターに身を偽り、彼らの中にまぎれる。
「ナッシュビルでデビューさせてやる」
と行動をともにするが、現地では売り込みに失敗。金も尽きたので、嫌がるバンド連中をガソリンスタンド強盗に巻き込んでしまう。
だが彼らの音楽や、その情熱に触れる内に、カントリーの良さに目覚めたW.W.は、ナッシュビルの舞台に彼らを立たせようと本気になってゆくのだ。

ジョン・G・アヴィルドセン監督らしい、人情味を感じさせるコメディ。
石油会社の依頼を受け、W.W.を追い詰めていく、凄腕の元警官を『ハリーとトント』のアート・カーニーが演じてるが、この男が、熱心なユダヤ教信者で、安息日の日曜には、絶対に仕事はしないと決めてるというのが、物語に効いてくるのも上手い。
バート・レイノルズの柄に合った、いい気分で見終えることができる映画だった。



『デリンジャー』(1973)アメリカ 
監督ジョン・ミリアス 主演ウォーレン・オーツ、ベン・ジョンソン

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ジョニー・デップのデリンジャーはカッコよすぎ(なので違和感)。
これが70年代映画世代のほぼ一致した感想になると思う。それはウォーレン・オーツによるジョン・デリンジャーを先に見ちゃってるからだ。

ジョン・デリンジャーは1930年代、大恐慌下のアメリカ中西部で、大胆不敵な銀行強盗を繰り返した実在のギャング。そのデリンジャーの一味に加わったのが、美男子ぶりから名がつけられたプリティ・ボーイ・フロイドだ。
『パブリック・エネミーズ』では、ジョニー・デップのデリンジャーが一番の美男子に見えるため、プリティ・ボーイ・フロイドの立場がない。
なので映画の最初にFBI捜査官メルヴィン・パービスに撃ち殺されてしまうわけだ。そこが淋しい。

この『デリンジャー』では映画の終盤、パービスによってデリンジャー一味が次々に追い詰められてゆくんだが、その中で、フロイドが一軒の民家に逃げ込む場面がある。
この役を演じてるのはスティーヴ・カナリーという役者で、ジョン・ミリアス監督作にいくつか小さい役で出てる他は、目立ったキャリアもないんだが、このプリティ・ボーイ・フロイドがよかった。

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逃げることで疲労困憊してるフロイドが、食事中の家族の皿を分けてもらう。
忘れていた「家族」の温もりに、束の間、表情から険しさが消える。
「迷惑をかけた」と言い残し、外に出て行き、捜査官たちに射殺されるのだ。
俺がこの映画で一番印象に残ってる場面だった。

この映画ではデリンジャー役のウォーレン・オーツも、追うパービス捜査官役のベン・ジョンソンも、せんべいみたいな顔してて、つまりは歯ごたえあって味もあるってことなんで、「男の映画」の見てくれとして、『パブリック・エネミーズ』よりこっちだろうと思うのだ。
そうそう、すぐブチ切れるベイビー・フェイス・ネルソンを、まだ無名だったリチャード・ドレイファスが演じたりしてる。

ジョン・ミリアス監督は、持病があってベトナムに従軍できず、そのコンプレックスが、タカ派の戦争映画の製作にどんどん傾斜してったと言われてるが、この監督デビュー作は、そういうものと無縁の、臭みのないアウトローの挽歌に仕上がってる。
いや、そうは言うものの、正直『若き勇者たち』も、あれはあれで嫌いではないんだが。

バリー・デ・ヴォーゾンによる、ギターを爪弾くような素朴な旋律のテーマ曲もいいのだ。
これもたしか昔ベストロンでビデオになったきり。DVDは出てない。
昨年WOWOWで放映されたね。



『ドーベルマン・ギャング』(1973)アメリカ 
監督バイロン・ロス・チャドナウ 主演6頭のドーベルマン犬

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『砂漠の冒険』の所でジャミー・ユイス監督について触れたが、メジャーな映画会社に属してない、名も知られてない人間が、映画作って一攫千金を当てるなんて事が、ごくたまに起こるのだ。
この映画の監督も、元はテレビドラマの編集マンで、「ドーベルマンを使った銀行強盗ってアイデアはどうか?」などと考えたんだろう。それを映画にして、当てたんだから大したもんだ。

映画の主人公は3人の銀行強盗だが、いつも最後のツメが甘くて、しくじる。
「人間は完璧にはできない」との反省から、強盗に犬を使うことを思いつく。
犬種は学習能力が高く、命令に忠実で、獰猛な性格のドーベルマンがいい。
さっそく6頭を揃えた。名前には歴代の強盗たちから頂いた。
上に書いた『デリンジャー』一味から、デリンジャー、プリティ・ボーイ・フロイド、ベイビー・フェイス・ネルソン、シェリー・ウィンターズが『血まみれギャング・ママ』で演じた、マー・バーカー、そして『俺たちに明日はない』のボニーとクライドだ。

山中の農園を借り切って犬たちを訓練。命令には犬にしか聞き取れない音を出す「犬笛」が使われた。
目をつけた銀行を入念に下見をして、広大な敷地内に、銀行と寸分たがわぬセットを組んで、シミュレーションを重ねる。このセットがよくできてる。

そして計画は決行される。銀行に入ってきた6頭のドーベルマン。
1頭が窓口に飛び乗り、行員に口に咥えたメモを受け取らせる。メモには
「5分以内に金を犬たちのバッグに詰めろ。従わないと、犬たちが全員を噛み殺す」
と書かれていた。

これ地方では『ドラゴンへの道』と2本立てで上映されてて、見てる人も多い。
その後もテレビで放映されてる。
ビデオ・DVDになってないのは、個人が作ったような映画だから、権利関係がよくわからない事になってるんじゃないか?
「見たい」という声の多い映画だが、あまり期待値は高めない方がいい。
画面とか演技とかはチープだし。「けったいだけど、ちょっとオモロい」位の心持ちで眺めてみたい。

この映画が当たったことで、監督は続編を作り、さらに3作目はメジャーな会社が買い受けたようで、名の通った俳優が出てる。どうも4作目もあるらしいんだが、1作目を見とけば十分であろうことは、2作目以降を見てない俺でもわかる。

役者ふくめて仲間うちで作ったようだが、音楽をアラン・シルヴェストリがやってるのが驚き。
『バック・トゥ・ザ・フューチャー』を手がけた作曲家の最初の仕事だったのだ。

2012年1月2日

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