「午後十時の映画祭」(80年代編)③作品コメ [「午後十時の映画祭」]

昨日に引き続き、この映画が観たい「午後十時の映画祭」(80年代編)50本の作品コメント。
今日は五十音順リストの「カ」行を。



『仮面の中のアリア』(1988)ベルギー 
監督ジェラール・コルビオ 主演ホセ・ファン・ダム、フィリップ・ヴォルテール

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かつてその美声で聴衆を酔わせた名バリトン歌手が、突如引退を表明。後進を育てる「音楽教師」の道を選ぶ。彼には愛弟子の若い女性歌手がいたが、町で偶然耳にした美声の持ち主である青年を弟子にとることに。
二人の若い歌手は師のもとで技量を磨いていき、師がバリトン歌手だった時代のライバルだった公爵が主催する、アリアのコンテストに出場することに。
だが師と公爵にはある因縁があり、公爵はコンテストを復讐の場に考えていた。

とりすました「オペラ映画」なんかではなく、クライマックスの「歌合戦」の熱血な盛り上がり方なんかは、一昨年の『オーケストラ!』に近いもんがある。
通俗的なストーリー展開のとっつき易さがあるんで、劇中に歌われる名曲の数々も、俺みたいなクラシック音痴な人間でも、素直に「いい曲だなあ」と聴き惚れてられるのだ。

音楽教師を演じるホセ・ファン・ダムは実際に高名なオペラ歌手だそうで、劇中でその歌声も披露してるが、愛弟子を演じる若い男女の俳優は、オペラ歌手ではなく、歌う場面は吹替えだという。でも別にそれはいい。
女性歌手を演じるアンヌ・ルーセルが歌い上げる表情とか美しいし、見てるこっちも気持ちが昂ぶる。

DVDは以前パイオニアLDCから出てたが、廃版となってる。
これは音響のいいシネコンでかけてほしい。



『カリフォルニア・ドールズ』(1981)アメリカ 
監督ロバート・アルドリッチ 主演ピーター・フォーク、ローレン・ランドン

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女子プロレスに材を取った、巨匠アルドリッチの遺作。
ローラーゲームを描いた『カンサスシティの爆弾娘』とも通じるが、まだ格闘系の女子スポーツが
「見世物」と捉えられてた時代が背景にある。なので尚更
「どう見られてようが、アタシは体張ってやってるんだよ!」
という女たちの意地が際立つ。
マネージャーの中年男と、一台のボロ車で、全米各地を遠征する女子プロレスラーのタッグが、ギャラがいいからと「泥レス」のリングに上げられ、その屈辱に悔し泣きする場面などは、
「見世物とは呼ばせない」という本気をリングにぶつけてきた彼女たちの、ギリギリのプライドに「泥」を塗られた無念さが痛いほど伝わってきた。

ロードムービーの魅力でもある、ひなびたアメリカの風景も堪能できるし、マネージャー役のピーター・フォークが実にいい味。二人の若い女と旅をしながら、一線を越えるなんてことがないのもいい。

『探偵マイク・ハマー/俺が掟だ!』でハマーの頼もしい秘書を演じてたローレン・ランドンと、ヴィッキー・フレデリックの女子タッグも、スタントなしでリングで暴れていて、まさに体張った熱演。だから最後の試合シーンもテンション上がる。
この二人の女優、その後やはりというか、それぞれ「アマゾネス」ものに主演してたりする。

昔ビデオは出てたが、DVDは出てない。
MGMなんで、そう遠くない時期にツタヤのオンデマンドにラインナップされると予言しとこう。



『キャル』(1984)イギリス 
監督パット・オコナー 主演ヘレン・ミレン、ジョン・リンチ

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『父の祈りを』『ボクサー』『ナッシング・パーソナル』『ブラッディ・サンデー』そして『麦の穂をゆらす風』など、北アイルランド紛争を背景にした映画には力作が多いが、この映画はその中でも、それこそ視点がパーソナルだし、いろんな意味で地味だし、よく劇場公開が実現したなと思う。
日本公開は製作年度から5年後の、1989年になってだったが。

この映画のことは、音楽をマーク・ノップラーが前年の『ローカル・ヒーロー』に続いて担当してるということで注目してた。なので先にサントラを聴いてて、公開は望めないかもなと思ってたのだ。

プロテスタントが多くを占めるアイルランドの小さな村で、その鬱屈をIRAでの活動で晴らすような日々を送るカソリックの青年キャルが、図書館で働く未亡人のマルチェラと出会い、惹かれていく。
キャルは殺人も厭わないIRAの破壊活動に次第に嫌気がさしていたが、彼が係った殺害行為の標的が、マルチェラの亡き夫だったことがわかり苦悩する。

キャルを演じるジョン・リンチはこれがデビュー作で当時23才。未亡人演じるヘレン・ミレンは当時39才。「年の差ラブストーリー」の側面もある。
アイルランドの風景というのは、アメリカとは違い、なにか荒涼とした中にも「なつかしさ」を感じるような所があって、見てて飽きないのだ。

一度ビデオになってるが、かなりレア。たしか「紙箱」だったと思う。DVDにもなってない。



『ギャルソン!』(1983)フランス 
監督クロード・ソーテ 主演イヴ・モンタン、ニコール・ガルシア

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「俺もこんなジジイになりたい!」と映画館で見ながら、心の中で叫んでたよ。

ギャルソンというのは「給仕」のこと。パリのブラッセリー(大衆食堂といったところか)で、チーフの給仕としてフロアを仕切るイヴ・モンタンの身のこなしがまず見事。当時62才だが、食事時の満席のテーブルの間を、ダンスのような軽やかなステップで抜けていく。鬼シェフとの怒鳴りあいのオーダー通しも楽しい。

主人公には、海岸沿いに子供向けの小さな遊園地を建設するという、人生の目標がある。
『生きる』の志村喬を思わせる人物設定だけど、こっちは生活する活力に溢れてる。
仕事だけじゃなく、女友達も何人か居て、時には彼女たちの避難場所にと、住まいと別に借りてあるアパートの鍵を渡したりしてる。

ニコール・ガルシアが歳の離れた元カノを演じてるんだが、彼女がアパートに泊まり、バスタブにつかってると、モンタンが入ってきて、さり気なく彼女の足を揉んでやったりする。
ジジイがそういう事しても気色悪く映らない所がさすがだ。日本の役者でも映画でもこうはいかん。
イヴ・モンタンを見てると「枯れているけど艶がある」という、二律相反するんだが、そうとしか表現しようのない佇まいを感じるのだ。

幕切れも爽やかだし、ほんといい映画。
以前DVDになってるんだが廃版状態。



『キリング・タイム』(1987)フランス 
監督エドゥアール・ニエルマン 脚本ジャック・オーディアール 主演ベルナール・ジロドー

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今にして思うと「ミニシアター・ブーム」というのは確かにあったのだなあと、こんな「売りどころ」のなさそうな映画まで、公開されてたわけだから。ベルナール・ジロドーで客が呼べるはずもなく、監督は無名で、フランス映画お得意のラブストーリーでもなし。
でも俺も見に行ってるってことは、何か反応するような要素があったんだろう。
当時はジャック・オーディアールの名も知らなかったし。

ストーリーもよく憶えてないんだが、たしか妻が家を出てしまって、夫の刑事がその行方を捜すうちに、殺人事件に突き当たるという大筋だったかな。でも本筋からずれて、刑事が出会う、言動の奇妙な少女との係わり合いの描写の方が面白かった印象があるのだ。
この邦題は日本の配給会社によるもので、「ひまつぶし」という意味合いがあるらしい。
たしかに刑事が妻を捜すことより、少女との無為に思える時間を過ごすことに、心地よさを感じているようで、その話が真っ直ぐに進まない脚本の作りを、もう一度確認してみたいと思うのだ。

オーディアールは現在公開中の『預言者』を含め監督作は5本なので、まだ若いと思われがちだが、もう今年で60才となるのだ。初監督作『天使が隣で眠る夜』が42才の時だから、監督としては遅咲きだ。それまでは脚本を書いてたのだ。
これも昔ビデオになってたが、レンタル店にもほとんど出回ってないんじゃないか?DVDは出てない。



『恋の病い』(1987)フランス 
監督ジャック・ドレー 主演ナスターシャ・キンスキー ジャン・ユーク・アングラード

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ナスターシャとは実年齢が近いこともあり、思い入れも強い女優だ。
特に俺はショートカットの彼女が好きなんで、『キャット・ピープル』『ワン・フロム・ザ・ハート』『愛と死の天使』に続く「ショート系」のこの映画も外せない。
ナスターシャというと、ギリギリ1984年の『パリ、テキサス』あたりまでしか語られない事がほとんどだが、いやいやこの映画もまだ26才だしね。レインコートとか、彼女のファッションも洗練されてた。
フランスきっての優男ジャン・ユーク・アングラードと、リヴェットとか、オリヴェイラとか、名匠の映画に出て、近年では「渋い」と評されてるが、70年代には「愛しの変態おやじ」という認識だったミッシェル・ピコリとの三角関係が綴られてる。
アンジェイ・ズラウスキが原案ということで、ヒロインのエキセントリックな内面が隠し味になってる。

ところで、そのミッシェル・ピコリが70年代に、ダッチワイフにリアルな愛情を注ぐ男を演じた映画があった。
『等身大の恋人』という題名まで決まりながら、結局オクラ入りしてしまったのだ。
それがすんごく見たいんだが。

話はそれたが、『恋の病い』はDVDになってるが、現在は廃版状態。
なんか多いなこの時代ので廃版になってるの。



『ゴールデン・エイティーズ』(1986)フランス・ベルギー・スイス 
監督シャンタル・アケルマン 主演ミリアム・ボワイエ デルフィーヌ・セイリグ

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フレンチ・ミュージカルといえばジャック・ドゥミであるわけだが、ドゥミのミュージカルのカラフル感はそのままに、舞台を地下のブティック・アーケードにして、大人たちの下世話な恋愛話を歌にのせた、ユニークなミュージカル・コメディ。
題名にあるように80年代のフレンチ・ポップス風ナンバーで彩られており、埋もれさせておくのは勿体ない楽しさに満ちている。

アラン・レネやルイス・ブニュエルなどの映画のヒロインを演じて、知的な女優という印象のデルフィーヌ・セイリグが、30年も前に別れた恋人との再会に、心みだされる様子を歌い上げるのも見もの。
登場人物たちがけっこう歳いってるというのも、いい味つけになってる。
そういやデルフィーヌ・セイリグはジャック・ドゥミ監督の『ロバと王女』にも出てたな。

昔ビデオは出てたが、ほとんどレンタル店で見かけたことない。もちろんDVDにもなってない。
もう楽曲も憶えてないんで、もう1回見てみたいのだ。



『コンペティション』(1980)アメリカ 
監督ジョエル・オリアンスキー 主演リチャード・ドレイファス エイミー・アーヴィング

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これはしかしなんでDVDにならんかね?音楽版権と言ったって、ほとんどクラシックのピアノ・コンチェルトだからね劇中に流れるのは。
ドレイファス演じるのは、出場資格ギリギリの30才手前で、ピアニストになる最後のチャンスをコンテストに賭けようとするポール。
サンフランシスコでの決勝までに何度か顔を合わせた、エイミー・アーヴィング演じるハイディと、恋におちるが、その彼女とは優勝を争うライバルでもあるのだ。
彼らふたりの他にも様々な背景を持った若者たちが、決勝を目指してしのぎを削る様子を描いた、音楽群像劇だ。
主演のふたりは相当ピアノの特訓を積んだようで、実際の音は吹替えかもしれないが、その指さばきはなかなかのもんだった。

ドレイファス演じるポールの人物像が、エゴが強く自分に甘いところが目立つんで、素直に共感できるかは微妙。そのせいかわからないが、その年の「ラジー賞」で、ワースト男優賞の候補になってしまってる。
早くに「名優」と呼ばれる存在となってしまい、演技が粗くなってた時期だったかも。

この映画で主人公ポールは、ピアニストになれなければ、音楽教師の道に進むしかないという立場なんだが、それから15年後に主演した『陽のあたる教室』で、ピアニストをあきらめて音楽教師になった男を演じて、ドレイファスはアカデミー賞主演男優賞の候補に上がった。
『コンペティション』の役柄のその後を描いたような役を演じ、「ラジー賞」の汚名も晴らしたってわけだ。

2012年2月2日

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