「午後十時の映画祭」(80年代編)④作品コメ [「午後十時の映画祭」]

昨日に引き続き、この映画が観たい「午後十時の映画祭」(80年代編)50本の作品コメントを入れる。
今日は五十音順リストの「サ」と「シ」を。



『ザ・キープ』(1984)アメリカ 
監督マイケル・マン 主演スコット・グレン、ユルゲン・プロフノウ

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ある意味マイケル・マン監督唯一の「トンデモ映画」なわけだが、何とも捨てがたい魅力がある。
そしてこの映画は劇場の大スクリーンで見なければ、堪能できたとは言えない、そういう映像へのこだわりに満ちている。特に前半がいい。

第2次大戦中、ドイツ軍の小隊が、ルーマニア山中に進軍する。険しく幽玄のムードが漂う山肌が、湖面に鏡のように反映してる、この監督が好きなシンメトリーの構図のショットが美しい。
東山魁夷の絵画のようだ。
山中の村に着いた小隊は、そこで無数の石で築かれた巨大な城塞を発見する。
ユルゲン・プロフノウ演じるドイツ軍大尉はつぶやく。
「この城塞は作りが逆だ。外敵を防ぐためでなく、なにかを内側に封じこめようとしてるようだ」と。

城塞の内部はさらに石の壁でシールドされてるが、兵隊のひとりが、壁に穴を開けてしまう。
壁の向こうには、おっそろしく深く巨大な空間が広がっていて、その底から何かが、壁に開いた穴から漏れる光を目指して上昇する。
この場面の空間造形などは、スクリーンで見てこそ凄さがわかる。

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F・ポール・ウィルソン原作による新手の「吸血鬼伝説」の映画化なんだが、ディテールが端折られてる感は否めず、後半の尻すぼみぶりは残念だ。
以前から噂に上ってる「ロングバージョン」でのリバイバル上映なんてのが実現できたらいいのに。
タンジェリン・ドリームの音楽も大音量で聴きたいね。

イアン・マッケランやガブリエル・バーンを起用してる、キャスティングの先見性にも注目。
ビデオが出たのみでDVDは出てない。



『ザ・クラッカー 真夜中のアウトロー』(1981)アメリカ 
監督マイケル・マン 主演ジェームズ・カーン、チューズディ・ウェルド

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これは最初に映画館で予告編を見た時に「なんだこのカッコよさは!」と興奮して、「テアトル東京」の封切りに駆けつけたのだ。
昼は中古車の販売業、夜は金庫破りという、二つの稼業を持つ男を演じるジェームズ・カーンが渋い。これが代表作でいいんじゃないか?

まず目を引いたのが、工事現場か、と思うような金庫破りの場面。デカいドリルを持ち込んで、扉に穴を開けてく。「音は大丈夫なんか?」と思うが、相棒のジェームズ・ベルーシと、無駄のない動きで黙々と進めてく。
タンジェリン・ドリームの無機的だが煽るようなシンセの旋律が、ドリルから放たれる火花に呼応して、とにかくスリリングだった。

もう一点強い印象を残したのは、ジェームズ・カーンの銃の構え方だ。それまで映画で見たことないような構え。
両手で銃を持ち、肘を伸ばして、肩を上下左右にすばやく動かして状況を図る。カーンの顔つきと共に、緊迫感漲ってた。
軍隊なのか警察なのか、マイケル・マン監督が実際にリサーチしての構え方なのだろう。
カーンに金庫破りの極意を授けた、今は刑務所の中にいる「師匠」を演じてるのが、ウィリー・ネルソンというキャスティングが意表を突いてた。出番は少ないが貫禄を感じさせるいい演技だった。

この監督は、結末の見せ方に今ひとつインパクトが足りないという弱点を持ってて、この劇場映画デビュー作から、その例に漏れずなんだが。

ビデオは出てるがDVDにはなってない。
間違いなくツタヤのオンデマンドにラインナップされるとは思うが。



『砂漠のライオン』(1981)リビア 
監督ムスタファ・アッカド 主演アンソニー・クイン、オリヴァー・リード

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カダフィ大佐が金を出したんだろうか?潤沢なオイルマネーによって作られた歴史戦争大作だ。
第2次大戦下の北アフリカ。イタリアの独裁者ムッソリーニは、サハラ砂漠に「第二のローマ帝国」を建設するという、破天荒な野望のもと、イタリア軍を進軍させていた。その前に立ちはだかったのが、ベドウィンの戦士だった。

その勇猛さで「砂漠のライオン」と呼ばれたオマー・ムクターの伝記の映画化。
シリア生まれの監督ムスタファ・アッカドは1976年の『ザ・メッセージ』がデビュー作で、当時都内唯一のシネラマ上映館だった「テアトル東京」で上映された。
ムハンマドの教えを描いた歴史宗教大作の趣だったが、この2作目は、戦争映画として娯楽性も高くなってた。こちらは「渋谷パンテオン」で見たと思う。

アンソニー・クィンはこの監督の前作に続いての主役登板。
ムッソリーニを演じるのはロッド・スタイガー。彼は1974年の『ブラック・シャツ/独裁者ムッソリーニを狙え!』でもムッソリーニを演じてる。この映画はビデオ・スルーでリリースされてた。
ベドウィンを抑えるために、イタリア軍を率いる将軍にオリヴァー・リード。彼のアクの強さが役柄にいい具合に反映されてた。

以前DVDになってたが、現在は廃版。
カダフィ大佐のリビア軍が全面協力した大がかりな戦闘シーンを、またスクリーンで見てみたいが。



『サンフランシスコ物語』(1980)アメリカ 
監督リチャード・ドナー 主演ジョン・サヴェージ、デヴィッド・モース

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主人公ジョン・サヴェージが高層のオフィスビルに入っていく。社員なのかと思いきや、空いてる部屋の窓を開け、いきなり飛び降り自殺を図るという、衝撃的なオープニング。
駆けつけた救急隊員の中に、リチャード・ドナー監督がカメオ出演してる。

その青年ローリーは、一命は取り留めたものの、歩行困難な身体となり、途方に暮れるまま、立ち寄ったバーには、同じように身体の不自由な客たちが集っていた。
その中にやはり足が悪いがバスケが得意な、長身の青年ジェリーがいた。バーに通いつめる内に心の傷も癒えてきたローリーは、ジェリーの能力ならプロのバスケでも通用すると確信。手術を受ければジェリーの足は良くなると聞き、手術代の工面が、自らの生きる張り合いになってゆく。

リチャード・ドナー監督は娯楽大作の担い手のイメージがついてるが、元々は『君は銃口/俺は引金』や『おませなツインキー』など、小味な映画に上手さを見せる人だ。

ジェリーを演じるのはこれがデビュー作のデヴィッド・モース。俺はこの時の役柄が、そのままイメージに残ってるんで、近年では名バイプレーヤーとして、悪役も演ったりするが
「でもホントはいい人だよね?」
と思いながら見てしまうのだ。

あと出演者の中に、第2次大戦中に両腕を失ったハロルド・ラッセルがいる。彼がこの映画以外に唯一出たのが、1946年の、復員軍人たちのドラマ『我等の生涯の最良の年』だ。

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そのことからも、この映画が、あのアカデミー作品賞受賞作へのオマージュとなっているのがわかる。

この邦題だが、ありきたりな上に正確ではない。舞台はサンフランシスコから少し内陸側の、あのアスレチックスの本拠地オークランドだもの。
今までビデオもDVDも出てないのは、劇中に当時のAOR系の楽曲がけっこうな数使われてるからか?



『シカゴ・コネクション 夢みて走れ』(1986)アメリカ 
監督ピーター・ハイアムズ 主演ビリー・クリスタル、グレゴリー・ハインズ

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テレビ『サタデーナイト・ライブ』で人気を博したコメディアン、ビリー・クリスタルの映画初主演作。『タップ』のグレゴリー・ハインズが相棒を演じる「バディ・ムービー」の快作。
暖かいマイアミで店を持つことを夢見るシカゴ市警殺人課の刑事コンビが、退職前のひと仕事に、地元の麻薬組織のボスの逮捕を目指し、奮闘する。

ピーター・ハイアムズとしては、監督デビュー作『破壊!』以来の「バディ・ムービー」となるが、どちらの映画の刑事たちも、風采が上がらない感じなのが可笑しい。
映画初主演とは思えない軽妙洒脱な演技を見せるビリー・クリスタルと、シカゴ地下鉄の有名な高架線上を、車が爆走するという、ハイアムズ面目躍如なアクションが、がっちり組み合わさって、最後まで楽しませてくれる。

ただビリー演じる刑事の別れた美人の奥さんが、麻薬組織に誘拐されるという展開は頂けない。
アメリカ映画の刑事ものの悪いパターンというのが、刑事の身内に危機が及ぶというヤツね。
実際、悪人を検挙するたんびに身内が狙われてちゃ、刑事なんてやってられんだろうし、現実にはそんなことはほとんどない。
警察という組織は身内を狙うような犯罪者は、それこそ血眼で追いつめてくからだ。
まあその減点分を差し引いても、もう一度見たい映画には変わりない。

ビデオは出てたがDVDにはなってない。



『死にゆく者への祈り』(1987)イギリス 
監督マイク・ホッジス 主演ミッキー・ローク、アラン・ベイツ

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いや、わかってますよ、この映画がジャック・ヒギンズの原作ファンからはすこぶる評判が悪いことは。
ヒギンズ原作の映画化では『鷲は舞いおりた』の方がなんぼかマシという意見が大勢であろうことも。
しかしね、俺はマイク・ホッジスの映画が好みだし、80年代のミッキー・ロークも好きなんでね、これで満足なり。
ただ製作会社のサミュエル・ゴールドウィン・プロによって、当初の尺から大幅に切られたようで、公開当時、監督とミッキー・ロークが抗議のコメントを出していたりして、描き足りてない部分は確かに感じる。
完全版が存在するものなら、是非見てみたい。

IRAの凄腕のテロリスト、マーチン・ファロンは、手違いでスクールバスを爆破、罪の意識に苛まれ、組織を抜け、国外逃亡を図る。
偽造パスポートと引き換えに、ギャングのボスから殺しを依頼され、実行するが、その現場を神父に目撃される。
ファロンは懺悔の内容を神父が公にできないことを逆手に取り、教会で殺人を懺悔する。
だが今やファロンは警察からもIRAからも追われる身となっていた。

イタリア系のミッキー・ロークは、髪を赤く染め、アイリッシュ訛りで話し、役に近づける努力はしている。
脇を固める役者たちがいい。表向きは葬儀屋を営むギャングのボスにアラン・ベイツ。
昔は荒くれだったという神父を演じるボブ・ホスキンスは名演だろう。

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出番は少ないが、ファロンの親友だが、IRAの闘士として、ファロンに銃を向けることになるリーアム・ニーソンも強い印象を残す。彼は当時まだ無名だったが、もう数年遅ければ、アイリッシュのリーアム・ニーソンが、マーチン・ファロン役を演じてたかも知れない。

ビデオは出てるがDVD化はされてない。



『ジャグラー ニューヨーク25時』(1980)アメリカ 
監督ロバート・バトラー 主演ジェームズ・ブローリン、クリフ・ゴーマン

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『サンフランシスコ物語』の題名と同様、この映画の邦題も誤解を招く。
「25時」というのは、午前1時という意味じゃなく、突然人違いで娘を誘拐された元警官が、必死で犯人を追って、娘を救出するまでの「25時間」の物語という意味なのだ。
なのでこの設定からも連想されるように、これはリーアム・ニーソン主演の『96時間』の元ネタと言ってもいいサスペンス・アクションの快作だ。

ブロンクス地区からセントラル・パークまで、ゲリラ撮影も織り込みながら、ニューヨークを縦横に駆け抜ける、その「しゃにむ」な熱気がこもった演出ぶりに乗せられる。
『カプリコン1』でスターの座についたジェームズ・ブローリン以外は、名の知れてないキャストだが、主人公が警官時代に恨みを買った巡査部長が、誘拐犯でなく、それを追う主人公に銃を向ける展開も凄い。
巡査部長を演じるのが、これが映画デビューのダン・ヘダヤ。
街中でいきなりショットガン撃ちまくって、通行人が逃げまどう場面などは
「第2のブルース・ダーン来たあー!」
と喜んでしまったが。

エロい場所にもカメラが入っていくんで、当時のニューヨークの風俗も伺い知れる。
昔マイナー・メーカーからビデオが出てたがDVD化はされてない。



『シルクウッド』(1983)アメリカ 
監督マイク・ニコルズ 主演メリル・ストリープ、カート・ラッセル

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メリル・ストリープで言えば『ソフィーの選択』もまだDVD化されてないんだが、時節がらと言っちゃなんだが、「原発」を扱った題材のこの映画を今、見れるような環境が作られてるべきじゃないか。
それに同じ題材として『チャイナ・シンドローム』ばかりが取り上げられる傾向があるしね。

オクラホマにあるプルトニウム製造工場で働いていた工員カレン・シルクウッドの実話の映画化。
工場の放射能漏れ事故により、放射能汚染にさらされたカレンが、プルトニウム製造過程での重大な違反を探り当て、告発に動いた矢先に、自動車追突事故で死亡する。
それが事故か謀殺かと、当時アメリカ国内を騒然とさせたのだ。

カレンはバイセクシャルで、男と女、両方の恋人と三人で同棲していた。
男の恋人をカート・ラッセルが、女の恋人をシェールが演じてる。

「社会告発もの」ではあるが、マイク・ニコルズ監督は、その生活ぶりも細かく描写してる。
後にラブコメの名手と謳われるようになるノーラ・エフロンが、こんな硬派な脚本を書いてたんだね。
ブルーカラーを演じるメリルというのも珍しいし、彼女の狼ヘアーな髪型も俺は好き。

ビデオは出てたが、DVDにはなってない。

2012年2月3日

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