「午後十時の映画祭」(80年代編)⑤作品コメ [「午後十時の映画祭」]

昨日に引き続き、この映画が観たい「午後十時の映画祭」(80年代編)50本の作品コメントを入れる。
今日は五十音順の「ス」と「タ」行を。



『忍冬の花のように』(1980)アメリカ 
監督ジェリー・シャッツバーグ 主演ウィリー・ネルソン、ダイアン・キャノン

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カントリー・ミュージックというのは、どうも日本では受けない音楽ジャンルで、『クレイジー・ハート』も、ジェフ・ブリッジスがアカデミー賞を受賞したから、ちょっとは話題になったが、ロバート・デュバルがカントリー歌手を演じて、やはりアカデミー主演男優賞を得た『テンダー・マーシーズ』は劇場未公開・ビデオスルー扱いだった。

そんな中で劇場公開に漕ぎつけたこの映画は、カントリー界の大御所ウィリー・ネルソンが、自身を投影するような主人公を演じたドラマ。といっても、この主人公はアメリカの穀倉地帯の酒場などを回る「ツアー歌手」で、まだレコードデビューは果たしてないという設定だ。
その設定上、映画はロードムービーの体裁で進んでいく。監督はやはりロードムービーの傑作『スケアクロウ』のジェリー・シャッツバーグ。

撮影はロビー・ミュラーだ。ロードムービーでロビー・ミュラーといえば『パリ、テキサス』を即座に連想するだろうが、ドイツ時代のヴェンダース作品の撮影を担当してたミュラーが、アメリカに渡っての最初の仕事が、この映画だった。

『オン・ザ・ロード・アゲイン』をはじめとする、ウィリー・ネルソンの楽曲の数々が聴きものではあるが、同時にカメラの美しさが大きな魅力となってる。
封切りの時に映画館で見てるが、見事に客は入ってなかったな。
音も絵もシネコンでもう一度味わえたらいいのだが。

ビデオは出てたがDVDは出てない。楽曲絡みだろう。



『スタントマン』(1980)アメリカ 
監督リチャード・ラッシュ 主演ピーター・オトゥール、スティーヴ・レイルスバック

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作ってるのは商業映画なのに寡作という「もっと仕事しろよ」な監督リチャード・ラッシュによる、ちょっと不条理テイストなアクション・コメディ。

殺人未遂の容疑で警察に追われてる若い男。手錠をかけられたまま、必死で逃げる様子を、上空のヘリが捉えていた。だがそれは警察のヘリではなかった。
若い男は逃げてる内に、映画の撮影現場に紛れ込んでしまっていた。ヘリから若い男を眺めていたのは、その映画の監督だった。
逃げっぷりの俊敏さを気に入った監督は、若い男を匿ってやる代わりに、撮影でスタントマンとして働かせることに。
だが監督は映画撮影に一切の妥協を排する、鬼のような性格で、任されるスタントも次第に過激さを増し、若い男はこの監督に殺されるかも知れないと、精神的に追いつめられていく。

いわゆる「映画の映画」というジャンルに属する一作だが、現実世界より、映画の撮影現場の方がもっと過酷だったという皮肉が面白い。

悪魔の映画監督を演じるピーター・オトゥールは、その年の全米批評家協会の最優秀主演男優賞を受賞し、アカデミー賞でも6度目の候補になったが、またも受賞は逃した。
彼が演じてる映画監督の名前がイーライ・クロスといって、あの『ホステル』の監督と一文字ちがいなのが可笑しい。

これを見たのはスバル座あたりだったか。
ビデオは昔一度出てたと思うが定かではない。DVDは出てない。



『タイムズ・スクエア』(1980)アメリカ 
監督アラン・モイル 主演トリニ・アルヴァラード、ティム・カリー

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ロック歌手を夢見る少女と、お譲さんタイプの少女が、収容された精神療養施設を二人して抜け出し、大都会ニューヨークを巡る冒険の旅へ。
互いがはぐれてしまった時には、名前を叫び合えば、どこにいてもきっと通じるなんてセリフは「少女漫画」チックなんだが、まさにこの映画の設定って、矢沢あいの『NANA』の元ネタっぽいよね。

彼女たちのちょっと危なっかしい冒険を、陰からサポートするラジオ番組のDJにティム・カリー。
『ロッキー・ホラー・ショー』とか『レジェンド』とか、奇抜な役ばかりの怪優にとって、この役は素の顔で演じてる、普通にいい役だ。

アメリカの少女たちの青春ストーリーでありながら、劇中を彩るナンバーは、ロキシー・ミュージック、ザ・キュアー、XTC、プリテンダーズなど、ブリティッシュ・ニューウェーブのブームを背景にした選曲になってた。
ロック少女ロビン・ジョンソンと、お嬢さんトリニ・アルバラードの個性のちがいを眺める楽しさも。

過去に一度DVDになってたかも知れないが、今は廃版と思う。



『チェンジリング』(1980)カナダ 
監督ピーター・メダック 主演ジョージ・C・スコット、メルヴィン・ダグラス

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イーストウッド監督&アンジェリーナ・ジョリーによる同名映画の方が有名になってしまったが、こちらも心霊ホラーとして優れた出来栄えなのだ。
ジョリーの映画では、失踪した息子を別人の子供を、警察から「息子だ」と押し付けられる母親の話だったが、こちらの『チェンジリング』も同じ意味で、過去に病弱のため、遺産狙いの父親により殺害され、孤児院から貰われてきた子供に、実の子に成り代わられた子供の霊が、その存在を示そうと怪奇現象を起こす。

妻と子を自動車事故で亡くし、傷心の作曲家が、歴史保存協会に勤める女性から、閑静なビクトリア調の屋敷を、新居にと紹介される。悲しみを忘れ、音楽に専念できそうな雰囲気を気に入るが、ほどなく家の中で、妙な現象が相次ぐようになる。
霊媒師を頼み、降霊術を行うと、その家には子供の霊が憑いてることがわかる。
作曲家は、この古い屋敷の過去を調べていく内、元々の所有者だった一族にその原因があることを突き止める。そして屋敷の床板を外すと、その下には井戸が掘られていた。

うん?何かに似てるよね。そう『リング』貞子だね。
父親によって殺されて井戸に捨てられた幼い子供の霊なので、貞子みたいに這い出てくるわけじゃないが。

それに怪奇現象に見舞われるのがジョージ・C・スコットなので、全然ビビッてない。それどころか、子供の霊があんまり騒ぐと、叱りつけたりしてる。
なので心霊ホラーとしての怖さはさほどではない。それより、娘を亡くした作曲家と、父親に殺された子供の霊の、無念さや悲しみがリンクするストーリーに深みがあるのが、凡百のホラーにはない部分だ。
昔ビデオは出てたがDVDにはなってない。



『チャンピオンズ』(1984)イギリス
監督ジョン・アーヴィン 主演ジョン・ハート、エドワード・ウッドワード

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騎手と競争馬の実話というと『シービスケット』を思い起こさせるが、こちらの方は「事実は小説より奇なり」と言いたくなるほどの実話なのだ。

なにしろこの映画の主人公である、障害レースの花形騎手ボブ・チャンピオンは、名馬と謳われるアルダニティに騎乗して、世界最高の障害レース「グランド・ナショナル」を制することを目標としながら、突然のガン宣告で、余命8ヶ月と診断されてしまう。
回復の見込みを化学療法に賭け、その副作用で頭髪は抜け落ち、別人のような人相に。
そして追い討ちをかけるように、アルダニティがレース中に、前足を骨折、廃馬となる危機に。

だが未来の無くなったかに見えた騎手と競争馬は、共に復活を遂げる。ボブはアルダニティに騎乗し、「グランド・ナショナル」のトラックを目指して走り始める。

騎手を演じるのがジョン・ハートなんで、化学療法の副作用が表情に表れてくるあたりは、普段からあのルックスなのに、それに輪をかけて痛々しく、見てる方が気分が落ち込むんだが、
そのボブが担当の女医から
「ガンは完治しました」
と告げられる場面は、映画館の客席からどよめきの声が上がってたのを憶えてる。
それは「良かったわねえ!」という、実感のこもったどよめきだった。

ビデオは出てるがDVDにはなってない。
馬が疾走する映画はスクリーンで見たいね。



『天使の接吻』(1988)フランス 
監督ジャン・ピエール・リモザン 主演ジュリー・デルピー

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この映画に関してはあまり書くこともなくて、要は『汚れた血』で目を奪われたジュリー・デルピーが主演してるということと、前作『夜の天使』が俺的には最高だったリモザン監督の新作なんで、封切りに駆けつけた。
内容はほとんど憶えてない。ジュリー・デルピーを眺めてる内に映画が終わってしまったからだ。
それより憶えてるのは、この映画はフランス映画『変身する女』と2本立ての興行だった。

場所は自由が丘武蔵野推理劇場で、その頃は名画座から、ミニシアターへと、プログラム編成を変えていた。劇場名も変えてたかも。
平日の夜、先に『変身する女』を見に場内に入ると、客は俺だけだった。間際になっても誰も入って来ない。
冬場だったが、俺は受付のスタッフに
「勿体ないから暖房切ってもいいですよ」
と言いに行った位だ。
『天使の接吻』の時にはポロポロと客も入ってきた。

まあとにかく俺はこの映画のジュリー・デルピーが一番可愛いと思ってるんで、もう一度見たいのだ。
ビデオはどっから出てたかな?パックインあたりか。DVDは出てない。



『遠い声、静かな暮らし』(1988)イギリス 
監督テレンス・ディヴィス 主演ピート・ポスルスウェイト

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1950年代のリヴァプールの、ある五人家族の肖像を描いた映画なんだが、ユニークなのは、登場人物たちが、当時やなつかしの流行歌なんかを、アカペラで唄い継いでいく構成になっていて、その歌詞に時々の家族の心情が反映されてたりする。
『ボタンとリボン』とか『バイバイ、ブラックバード』とか数曲は知ってるが、ほとんどは耳なじみのない歌ばかりだ。
だけどその家の三人姉妹が唄うのを聴いてると、なにか不思議な幸福感に包まれる感じがした。

全編を歌で綴るといっても、ミュージカルのような明朗さはない。
ピート・ポスルスウェイト演じる父親は、すぐに癇癪を起こして母親に暴力を振るうような男なんで、家族の風景そのものは、ほの暗い印象なのだ。
しかし、なんだろう、彼らの唄う様子をずっと眺めていたいと思った、あの感情は。

人生にはいい思い出も、悪い思い出もあるが、自分が幼い頃から口ずさんできた歌に、
「悪い歌」はない。
家族の営みと「歌」がこれほど寄り添うように描かれた映画もないんじゃないか?

これは今は無き六本木の「シネヴィヴァン」で見た。
パンフレットがよく出来ていて、劇中で家族によって唄われる、すべての曲名と解説がついていた。
服飾デザイナーの菊池武夫が、登場人物たちのドレスやスーツを、自らスケッチして、解説してたり、シナリオの採録もあった。資料価値が高い。

これも昔ビデオになったきり、DVDにはなってない。



『ドラキュリアン』(1987)アメリカ 
監督フレッド・デッカー 主演スティーヴン・マクト、トム・ムーナン

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こんな「ドラキュラ」と「バタリアン」合わせただけのテキトーな邦題つけるもんだから、今じゃほとんど顧みられなくなってるし、ウェス・クレーヴンの『ドラキュリア』と混同されてるしで、ロクなことないんだが、はっきりこれは『ドラキュリア』より面白い!
今だったら原題の『モンスター・スクワッド』で公開できてただろうね。

内容は簡単に言うと『怪物くん』と『グーニーズ』をミックスしたようなもの。
ドラキュラ伯爵が、フランケン、ミイラ男、狼男などモンスターを引き連れて人間界にやってきた。自らの力を封じる「石」を人間から奪い取るためだ。郊外の町の少年たちが、その存在に気づき「モンスター討伐隊」を組織して、それぞれの弱点を調べ上げ、戦いに臨む。

「お子さま向け」かも知れないが、製作総指揮にはピーター・ハイアムズや、後に『ワイルド・スピード』で当てるロブ・コーエンが名を連ね、『ラスト・アクション・ヒーロー』などのシェーン・ブラックが脚本を書いてる。

フランケンがやっぱりいいヤツで、ドラキュラから少年たちの味方についたりしてる。少年の小さな妹と、フランケンの別れの場面などは、思わずホロリとさせられてしまうから侮れない。

監督のフレッド・デッカーは『クリープス』『ドラキュリアン』とSF・ホラーファンを喜ばせ、ビッグになるはずだった『ロボコップ3』でヘタこいて、その後は映画を撮れないでいる気の毒な男だ。

昔ビデオは出てたがDVDにはなってない。
本国アメリカでは「製作20周年記念版」のDVDが出るくらいに根強いファンがいるのにね。



『トラブル・イン・マインド』(1986)アメリカ 
監督アラン・ルドルフ 主演クリス・クリストファーソン、キース・キャラダイン

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この映画の魅力を人に伝えるのは難しいんだよね。シアトルを架空の町「レインシティ」に見立てた、ハードボイルドであり、三角関係のドラマでもあり。

クリス・クリストファーソンの出で立ちなどは「ハードボイルド」を記号化したらこうなるというような、完璧に隙のない渋さなんだが、あまりにキマッてるんで、それが80年代特有の「すかした」感じ手前のギリギリで踏み止まってると言おうか。
キース・キャラダインは最初は、妻子を養うため、レインシティに職を探すが、すぐに悪の道にすくわれて行き、次第にルックスもおかしなことになってくる。
もう髪型なんか、リーゼントなのかクロワッサンなのかわからん状態に。

『ピンク・フラミンゴ』の怪優ディヴァインが、女装ではなく、素の表情でギャングのボスを演じてたり、舞台装置も含めてデフォルメされた世界の中で、アラン・ルドルフ監督ならではの「愛を掴み切れないでいる者たち」のドラマが展開されるのだ。

栗田豊通のカメラが美しいんだが、俺がこの映画で一番目を惹かれたのはロリ・シンガーだ。『フットルース』でケヴィン・ベーコンの相手役として出てた彼女は「なんか肩幅の広い女だな」程度にしか思わなかったが、この映画で小さな赤ん坊を抱えた若妻の彼女は、それは美しい!
ルドルフ監督は女優の魅力を引き出すことにかけては、師匠のロバート・アルトマンを凌ぐ才を持ってると思うが、それにしてもという感じで、彼女に魅入ってしまった。

マリアンヌ・フェイスフルのけだるいヴォーカルもマッチして、こんな雰囲気の映画は滅多にない。

ビデオは出てたがDVDにはなってない。
この映像をもう一度スクリーンで見たい。

2012年2月4日

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