「午後十時の映画祭」(80年代編)⑥作品コメ [「午後十時の映画祭」]

昨日に引き続き、この映画が観たい「午後十時の映画祭」(80年代編)50本の作品コメントを入れる。
今日は五十音順リストの「ハ」行を。



『バーニング』(1981)アメリカ 
監督トニー・メイラム 原作ハーヴェイ・ワインスタイン

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公開当時のポスターのコピーに「これがウワサのバンボロだ!」って書かれてたけど、誰もウワサしてなかったし、大体映画の中に「バンボロ」なんて名前も出て来ないわけよ。
「ジョギリ・ショック!」っていうのも、この映画のコピーだったか。
ジョギリって何だよ?と。いやあれは『サランドラ』だったかも。
「全米27州で上映禁止!」ってのも嘘くさい。
だけどね、こういう「いかがわしさ」も含めての映画興行の楽しさなんでね。

キャンプ場の管理人の男が、若者たちにイタズラを仕掛けられ、それがもとで全身に大火傷を負う。退院し、変わり果てた風貌となった男は、復讐心に駆られた無差別殺人犯となった。
男の飛び道具が、デカい植木バサミで、そいつで首をシャキンシャキンと切り落としてく。

『13日の金曜日』と同様の「キャンプ・ホラー」だが、ラストはクワを手にした若者と、植木バサミとの一騎打ちとなる、いわば「農業系格闘シーン」が展開され、現在の自然回帰ブームを予見していたと言える。まあそんなことはないが。

注目したいのは、この原案と製作に、今や「ミラマックス社」の創始者として、ハリウッドで最も辣腕と知られるハーヴェイ・ワインスタインが係ってること。彼の映画の世界での、最初の仕事がこの映画だったのだ。
ビデオは出てたがDVDにはなってない。



『ハイ・ロード』(1983)アメリカ 
監督ブライアン・G・ハットン 主演トム・セレック

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ジョン・クリアリーのベストセラー冒険小説『高く危険な道』を映画化。
大体において、冒険小説の映画化は、原作ファンからは叩かれる傾向にあり、この映画も、小説のプロットをいじって簡略化してるのが、お気に召されなかったようだ。

イスタンブールの社交界の華のような、実業家の一人娘が、行方のわからないままの父親を、12日以内に探し出さないと、会社が乗っ取られると告げられ、パイロットと整備士を雇い、二機の複葉機で、父親の消息を辿る旅に出る。
イスタンブールからアフガニスタン、インド、ネパールのヒマラヤ越えを経て、新疆ウィグル地区へ。
複葉機が空を舞う雄姿が、ふんだんにカメラに収められてるし、変化に富んだロケーションと、行く先々で待ち受ける障害をクリアしていく、ロールプレイングな展開で大らかな気分で楽しめる一作。

第1次大戦の撃墜王ながら、呑んだくれのパイロットを演じるトム・セレックは、実はインディ・ジョーンズ役の第1候補に上がってたんだが、テレビシリーズ『私立探偵マグナム』で人気を博してた時期で、そちらのスケジュールを優先して、役を辞退してたのだ。
もし彼が演じてたら、その後のキャリアも違ってただろう。そんな直後に、インディと似たような、この映画のパイロットを演じてるんだから、皮肉なもんだ。

複葉機の優雅な飛行に、ジョン・バリーの流麗な音楽がマッチしてた。これは有楽座で見たはずだ。

ビデオは昔出てたがDVDにはなってない。
アメリカと香港のゴールデンハーベスト・プロと、旧ユーゴのプロダクションまで絡んでるから、権利がどうなってるのか。



『バウンティフルへの旅』(1985)アメリカ 
監督ピーター・マスターソン 主演ジェラルディン・ペイジ、レベッカ・デモーネイ

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『逃亡地帯』や『レッド・ムーン』などの脚本で知られるホートン・フートの原作・脚本による、ほのぼのしみじみな「おばあちゃんのロードムービー」だ。

息子夫婦と折り合いが悪いおばあちゃんが、いつか故郷のバウンティフルに戻るために貯めていた小切手を、息子が当てにしてるのを知り、家出する決意を固める。
後を追ってきた息子たちをかわしながら、何とか汽車に乗り込んだ。隣りの席に座った若い人妻からの優しい気遣いに触れながら、故郷は次第に近づいてきた。
だが息子夫婦は捜索願いを出しており、一人旅のおばあちゃんの姿は、田舎町の保安官にはすぐに目についてしまう。
それでも保安官はおばあちゃんの心情を察して、バウンティフル行きを承諾するのだった。

ジェラルディン・ペイジはこの演技で、アカデミー主演女優賞を受賞。息子たちから隠れる様子とか、茶目っ気もあって、思わずそのひとり旅を応援したくなってしまう。
結末はほろ苦いものではあったが、なにか爽やかな風が抜けてくような小品だった。
悪女を演じることが多いレベッカ・デモーネイが、優しい性格の人妻を演じてたのもよかった。綺麗だったしね。
これを「おじいちゃん」に代えたのが『ストレート・ストーリー』ということになるね。

ビデオは出てたがDVDは出てない。



『パッショネイト 悪の華』(1983)アメリカ 
監督スチュアート・ローゼンバーグ 主演ミッキー・ローク、エリック・ロバーツ

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この邦題の意味不明ぶりにも困ったもんだが、『グリニッジ・ヴィレッジの法王』という原題も、そのままじゃ内容は掴めないしな。

グリニッジ・ヴィレッジのイタリアン・レストランを任されてるのが、ミッキー・ローク演じるチャーリー。従兄弟で、同じ店でウェイターをしてるポーリーを演じるのがエリック・ロバーツ。

そのポーリーが不正伝票をつけてたのが元で、二人はクビになる。郊外に自分のレストランを持とうと頑張ってたチャーリーは落ち込むが、彼を慕うポーリーは儲け話を持ちかける。
競馬でデカく当てる資金を、金庫破りで稼ごうと。地元の組織のボスの金庫の在り処を知ってると。
しかしデカく当てられないかもしれない競馬の掛け金のために、そんなリスクの高い金庫破りをしようという、そのポーリーの思考回路がポンコツだと思うんだが、チャーリーもそれに乗っちまうし。

目が衰えてきて、老後の資金が心配だという、老時計職人を仲間に引き入れ、計画は実行された。だがその場に、組織のボスから賄賂を受け取るために現れた刑事と鉢合わせとなる。

公開当時はアメリカ版『チ・ン・ピ・ラ』などと評されてたが、実際にはこの映画の方が1年前に出来てる。だが日本公開が4年後の1987年だったのだ。高価なイタリアン・ファッションに身を固めた、ミッキー・ロークの男伊達な感じが、そういう連想となったんだろう。
ピカレスク物とすれば、エリック・ロバーツがダメキャラすぎるんだが。
フランク・シナトラの『サマー・ウインド』がいい感じに使われてた。

主演の二人は『エクスペンダブルズ』で久々の再共演を果たす。同じ画面に収まるシーンは無かったが。しかし二人とも風貌がこうも変わったかと。昔の二枚目ぶりを偲ぶ意味で、また見てみたい。
ビデオは出てたがDVDにはなってない。



『800万の死にざま』(1986)アメリカ 
監督ハル・アシュビー 主演ジェフ・ブリッジス、ロザンナ・アークエット

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ジェフ・ブリッジスは1970年代初頭にキャリアをスタートさせ、現在に至るまで第一線の座に居続けている、ハリウッドでも稀有な存在だ。
ディケイドごとに代表作があり、70年代は『サンダーボルト』『ラスト・アメリカン・ヒーロー』、
80年代はこの『800万の死にざま』に『スターマン』『タッカー』、
90年代は『フィッシャー・キング』『フィアレス』『ビッグ・リボウスキ』、
そしてゼロ年代は、合衆国大統領を洒脱に演じた『ザ・コンテンダー』に『クレイジー・ハート』など。
監督業に色気を見せず、役者一筋なのも立派。

この映画はローレンス・ブロックの「私立探偵マット・スカダー」シリーズの一編を、舞台をロスに移して映画化したことで、原作ファンからは不評を買ってるが、俺はお気に入り。
監督ハル・アシュビーの遺作だが、いつもの作風には似つかわしくないほど、血生臭い場面やアクションが織り込まれて、これは脚本のオリヴァー・ストーンの持ち味が前に出てるせいだ。

ジェフ・ブリッジス演じるスカダーと敵対する、成金ギャング・エンジェルを演じるアンディ・ガルシアが強い印象を残す。
スカダーがアイスクリーム片手にエンジェルと威嚇し合う場面や、麻薬の山を目の前に、倉庫でスカダーとエンジェルと、エンジェルの手下が三つ巴で銃を向け合い、怒鳴り合う場面など、見せ方に工夫がある。
タランティーノの『レザボア・ドッグス』のラストはこれの流用だ。

スカダーがアル中のセラピーに通ってるという場面が出てくるが、『クレイジー・ハート』でもそれをなぞってて、思わず笑った。
ビデオにはなってるがDVDにはなってない。
ロスの空撮から、カメラがハイウェイを疾走する一台のパトカーにフォーカスしてく、見事なオープニング映像を、スクリーンでまた見たいね。



『フォー・フレンズ 4つの青春』(1981)アメリカ 
監督アーサー・ペン 主演グレッグ・ワッソン

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アーサー・ペンという名匠が手掛けていながら、「忘れられた青春映画」となってしまってる一作。
俺は封切りの時見てるが、興行は不入りだったし、DVDはおろか、今までビデオにすらなってない。

東欧からの移民の子である主人公と、2人の親友、その3人から愛されたジョージアという名の女の子の、青春時代から、青春を過ぎた時代に至るまでの物語。
無名のキャストを揃えることで、世界のどこにでもある普遍的な青春像に移し変えることができる反面、激動の60年代以降のアメリカを背景にしてることと、主人公たちの人種的背景などもあり、アメリカの国特有のローカルな部分への認識が必要とされるんで、とっつき易いんだか、とっつき難いんだか、微妙なところなんだね。
主人公と娘との結婚に反対する父親が、結婚式場に乗り込んできて、花嫁を射殺するなんてショッキングな場面もあった。

だが全体の流れなど、ほとんど憶えてないなあ。
今このトシになって見直したら、感慨がこもったりするのかもしれない。

女の子の名がジョージアだからと『わが心のジョージア』が流れたりする、ベタな選曲のほかにも、時代のヒットソングが流れてた印象があるんで、ビデオにもならないのは、その権利関係なんだろうね。



『プリンス・オブ・シティ』(1981)アメリカ 
監督シドニー・ルメット 主演トリート・ウィリアムズ

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正義感から窮地に立たされる刑事の姿は、同じシドニー・ルメット監督の『セルピコ』との「姉妹編」の趣があるが、こっちの方が、この監督としては最長尺の168分に渡って、警察組織が抱える腐敗やジレンマがあぶり出されており、その苦味も痛烈だ。
横山秀夫や佐々木譲といった、日本の警察小説の書き手も、きっとこの映画は見てるはずだ。

犯人検挙のために自由な権限が与えられた、ニューヨーク市警の麻薬取締り班。彼らは売人から賄賂を受け取るなど、その羽振りのよさで「街のプリンス」と囁かれる存在だった。
だがリーダーのダニーは、麻薬中毒者たちの悲惨な姿を見るにつけ、任務の不毛さを感じていた。
「街のプリンス」たちに目をつけた地方検事局は、ダニーに接触。過去の汚職を不問とする代わりに、麻薬取締り班の腐敗を立証するための協力を求めてきた。

ダニーは「仲間の名は口にしない」という条件で、その日から、身体に隠しマイクをつけて、汚職の現場に乗り込んでいく。
だが証拠が上がり、検事の追及が始まると、麻薬取締り班の内部はパニックとなる。
追いつめられ自殺する者、マフィアの一員と繋がりを暴かれ、殺害される者、家族ぐるみの付き合いをしてた刑事たちの絆は絶たれる。
ダニーは思いもよらない事態に憔悴し、同僚のガスに、内通者は自分だと打ち明ける。
怒り狂うガス。だが別れ際、
「許してくれるか?」
「恨んじゃいないよ」

映画のラストは、新人研修の教壇に立つダニーの姿が。
だが彼が名乗ると、一人の新人警官が即座に退席する。
トリート・ウィリアムズがなんとも言えない苦笑いを浮かべて、それを見送る表情が目に焼きついてる。
ビデオは出てたがDVDにはなってない。
これを映画館で見た時は、しばらく立てない位にズーンと来たのを憶えてる。



『ベルリンは夜』(1985)イギリス 
監督アンソニー・ペイジ 主演ジャクリーン・ビセット、ユルゲン・プロフノウ

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これは大人向けのいい映画。第2次大戦下のベルリンが舞台で、冒頭、長い裾のスカートで自転車に乗るジャクリーン・ビセットの優雅さに、一気に引き込まれるわけだが、彼女はドイツ人貴族の身分ながら、ナチスドイツには反対の立場を取る、進歩的な女性。
そのニナが偶然出会ったユダヤ系の詩人フリッツと恋におち、ユダヤ人狩りの魔手から、彼を匿い通すというのが大筋。

芯の強いヒロインを演じるジャクリーン・ビセットが、歳を重ねてもなお美しいのだが、ユダヤ系のフリッツを、ドイツ人俳優ユルゲン・プロフノウに演じさせるキャスティングには驚いた。
実はこれが結末に効いてくる。

戦争中、ドイツ軍から匿われ続けて、ベルリンは陥落。降伏したドイツ軍に代わって、ソ連兵たちがベルリンの町になだれ込んでくる。
ドイツ人の男とわかると射殺しかねない。
フリッツはソ連兵に引きずり出される。その顔を見てドイツ人だと銃を向けられ、フリッツは思わずユダヤ教の祈りの言葉を口にする。
するとユダヤ系のソ連兵がそれに気づくのだ。

これはミニシアターで見てるんだが、フリッツがソ連兵に見つかるまでのくだりが思い出せない。
戦闘シーンなどはなく、「いつ見つかっちゃうのか」というハラハラ感で見せてくドラマだった。

ビデオにはなってるがDVDにはなってない。



『炎628』(1985)ソ連 
監督エレム・クリモフ 主演アリョーシャ・クラフチェンコ

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これは歌舞伎町の「シネマスクエアとうきゅう」で見た。
今回のリストに入れはしたものの、これをもう1回見るのも相当しんどいかもなと、今思い直してる。
第2次大戦下、ドイツが進軍してきた白ロシアが舞台。題名の意味は「独ソ戦」によって焼き払われた村の数を示している。

主人公は10才くらいの少年か。レジスタンスに参加しようとするが、幼いと置いて行かれる。だが少年がライフルを手にしてるのをドイツの偵察機が見ていた。
少年が村に戻ると、死体の山が積まれていた。家はすべて焼かれ、生き残った村長から、「村からレジスタンスがでた」のを理由に皆殺しに遭ったと聞かされる。
自分のせいで家族も殺された。
少年は絶望するが、殺された者たちに報いるためにも、残った村人たちのために、食料集めに奔走する。

だがドイツ兵に追われ、逃げ込んだ村には、「特別行動隊」と呼ばれるドイツ軍の一団がやってきた。
スピーカーから、けたたましい音楽を流し、村人を銃で追いたて、納屋に押し込む。
「子供だけ置いて出て来い!」
と命ぜられるまま出てくる大人たち。
子供だけが残された納屋に手榴弾を投げ入れるドイツ兵。酒を飲みながら眺める者、声援を送る者。
さらに火炎放射器を納屋へ浴びせる。
外に出たまま泣き崩れるしかない若い女は、ドイツ兵たちにその場で輪姦される。寝たきりの老婆は、ベッドのまま、道端に捨て置かれる。
あまりの光景に、まだ幼いはずの少年の顔は、老人のようにシワが刻まれた。

憎しみすら欠如した殺戮の場面が、これでもかと描かれて、神経が麻痺してくるようだ。
だが一方で、少年が年上の少女と出会い、森に逃げ込む場面などは、雨がしたたる森の光景など、実に美しく撮れており、その落差が凄い。

少年がヒトラーの肖像写真に向けて、何発も銃弾を打ち込むラストの見せ方も、痛烈な皮肉がこもってる。
DVDは出てたが廃版状態。かなり高値がついてるね

2012年2月5日

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