アンゲロプロス監督を偲ぶ [映画ハ行]

『蜂の旅人』

蜂の旅人.jpg

つい先日にはベン・ギャザラも亡くなってるんだね。ジョン・カサヴェテスもピーター・フォークも先に逝ってるから、これで3人、向こうでまた何か撮ろうか、なんて言ってるかもな。

テオ・アンゲロプロス監督の映画を最初に見たのは岩波ホールで、『旅芸人の記録』だった。彼の映画が日本で紹介される初めての機会だったのだ。
その次が『アレクサンダー大王』だ。なにしろカメラが動かない。「動かないこと山の如し」な位に動かない。
その『旅芸人の記録』と『アレクサンダー大王』との間の1977年に作られ、日本公開は1992年と遅れた『狩人』の3作が、アンゲロプロスの映画の中では最もコアで、「いっさい融通は利きません!」とそそり立ってるような作りなんで、ここを乗り越えとくと、後の監督作は、幾分口当たりがまろやかになってる感じがあるので、いいタイミングで日本に入ってきたんだなと思う。
逆に『旅芸人の記録』を見に行って、「こりゃダメだ」と思った人は、二度とこの監督の映画は見に行ってないだろう。

こんなことを書くのは、今回アンゲロプロス監督のDVD-BOXを買って、唯一、スクリーンで見逃していた『蜂の旅人』を見たんだが、「これでいいのか?」と思う位、とっつき易い内容だったからだ。

リアルタイムで作品を見てきてる世代は、最初にガツンと食らって鍛えられたという所もあるんだが、今、アンゲロプロスを体験するんであれば、逆の道筋というか、身体を段々と慣らしていくような見方をしてくのも有りなんではないかと。
俺の考えた順番としては
『蜂の旅人』『霧の中の風景』『永遠と一日』『ユリシーズの瞳』『こうのとり、たちずさんで』『エレニの旅』『シテール島への船出』『旅芸人の記録』『狩人』、そして『アレクサンダー大王』でゴールだ。


『蜂の旅人』のオープニングは、マルチェロ・マストロヤンニ演じる初老の男スピロスの、次女の結婚式の風景だ。その結婚を見届けるように、スピロスは長年勤めた村の小学校の教師の職を辞した。妻にはショックだったが、スピロスは妻のせいではないと彼女に言った。
スピロスはもう自分の人生は「過去」のものになったと感じていた。

その日、代々引き継いでいる「養蜂」の旅に出るため、蜜蜂の巣箱を積んだトラックで、スピロスは村を出た。
同業者は10人を切った。今年の旅が最後と思い定めたスピロスは、なつかしい友人や、故郷の生家を先々で巡る予定を立てていた。

休憩所でトラックに戻ると、若い娘が助手席に座ってる。スピロスが休憩所に入る時に、バイクの男に置き去りにされてた娘だった。
「次に停まる場所までだ」
と釘をさし、とりあえず娘を乗せて、トラックは蜜蜂を放す花畑を目指した。


冒頭の結婚式を終えて、スピロスが建物の外に出て、道路沿いを流れる川に架かる橋を渡るあたりのカメラ。
「ああ、いつもの色だなあ!」
ともう満足。よく陶磁器に「サビ」を入れるなんて手法があるって聞くけど、アンゲロプロス監督の映画は、画面にサビを施すような粉でもかけてるんじゃないかと思うような、絶妙の色加減が出てるんだよね。
あれ多分ロケした場所に実際行っても、同じように目に映らないんじゃないか。

そういういつものアンゲロプロス映画と思って見てると、このトラックに乗り込む若い娘が出てきて以降、様子が違ってくる。なんかイタリア映画にありがちな、年輩の男が若い娘に翻弄されるという「俗」な展開を見せてくんで、ちょっと面食らった。

ギリシャ軍が駐屯する湖畔の町で、泊まる所がないからと、スピロスの宿までついてくる娘。
二つあるベッドの片方に寝転がる、その格好が白シャツに白パンツ、白の短いソックスという、日本のアニメ好きも反応するだろ、これ。

アンゲロプロス女優.jpg

しかも誘いをかけてくる。スピロスが無視を決め込むと、今度は駐屯してる若い兵隊を連れ込んで、隣のベッドで始める。その最中もスピロスの顔をじっと見てる。
もお、追い出せよこいつら。

娘を残してトラックを走らせるが、行く先々で出会う。なぜかというと、娘がスピロスの旅の道順を記したメモを読んでたからだ。
ダンマリを決め込んでたスピロスも、段々心がざわついてきたのか、町のカフェで男たちと談笑する娘を見つけると、トラックごと店に突っ込むという…
「これほんとにテオの映画ですか?」
と、途中から見たらまずそうは思わないだろう場面の連続なのだ。

最後まで名前のわからない娘を演じるのが、撮影当時21才のナディア・ムルージというギリシャの女優。映画はこれがデビュー作だが、終盤の廃業した映画館の中で、スピロスと結ばれる場面では、一糸まとわぬ姿をカメラにさらしてる。

もしアンゲロプロスという名前に、なんとなく見る前から億劫になってるようなことがあれば、この映画から始めるといい。ただこんなサービスショットは、他の監督作には一切ないので悪しからず。

2012年2月8日

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