TNLF『ラップランド・オデッセイ』 [トーキョーノーザンライツフェス2012]

『ラップランド・オデッセイ』

ラップランドオデッセイ.jpg

「北欧好き」を公言してるくせに、昨年「フィンランド映画祭」というのが有楽町で開催されてて、この映画も上映されてたなんて知らなかったよ、やれやれ。
今回の「トーキョー・ノーザンライツ・フェスティバル」の作品解説によると、この映画は2010年のフィンランド映画興収1位を記録したという。

フィンランドも日本と同じような時期に、テレビのアナログからデジタルへの移行が行われたようで、映画の主人公で、会社の倒産以来5年も無職のままでいるヤンネが、恋人のイナリから「翌朝までにデジタルチューナーを買って来ないと別れる!」と言われて、200キロ先の町の電気屋まで、悪友を伴って旅に出るというプロット。


『ハングオーバー…』や『ロード・トリップ』を参考にしてる感じは随所に見られるが、いきなり冒頭の、主人公ではなく友達ラプのモノローグが暗い。
彼らが住んでるのは、フィンランドでもヘルシンキとか、大都市のある南の方ではなく、北のラップランドと呼ばれる地域。
村を見渡す丘の上に一本の老木があり、先祖代々、行き詰った男たちが、その枝で首を括ってきた。
なんか倍賞千恵子が出てた『旅路 村でいちばんの首吊りの木』みたいだが、意外と逆境に対して諦めが早いという、フィンランド人の国民性を表してるようだ。

そのエピソードから始まって、(たかが)デジタルチューナー1台のために、諦めずに体を張った旅を貫徹しようとする、主人公ヤンネの姿を描くことで、そんな国民性を打破してこうぜ、というポジティブな着地点に辿り着く、晴れやかな後味を残す映画になってた。

主人公ヤンネと、首吊りのモノローグ語ってたラプに、マザコンで人の好いカイハという、失業率の高い国で暮らす、ドン詰まりな3人が車で旅するわけだが、実は一番キャラ立ちしてたのは、恋人イナリの十代の頃の元カレ。
こいつは3人と対照的に仕事で成功収め、立派な家に住んでる。
旅の途中に立ち寄ることになるんだが、元カレは事情を聞くと
「ウチにはデジタルチューナーの古いのがあるからやるよ」
と上から目線。ヤンネは
「こいつから恵んでもらうもんか」
と意地張り目線。
両者がデジタルチューナーのスペックを巡って言い争うのが可笑しい。
「HDMI端子は?」とか「タイムシフト機能がなきゃ駄目だ」とか。

北欧の人たちもこの手のテクノロジー好きみたいだね、日本人と同じに。
そういやケータイ端末世界シェア1位は、フィンランドの「ノキア」だし、2位の「エリクソン」はスウェーデンの会社だし。洗練されたデザインのオーディオ機器で有名な「バング&オルフセン」はデンマークの会社だしね。

その元カレが、ヤンネがチューナーを受け取らず、立ち去ったのを見計らって、ヤンネと同棲中のイナリのもとを訪れ、彼女に別居をそそのかし、ついでに復縁を迫ろうとするんだが、その下衆な行動が、この映画一番の笑い所になってる。元カレ退場の場面もいい演出だ。

「珍道中もの」だから、行く先々で細かいエピソードが積み重ねられるんだが、その中でも、トナカイを轢いてしまって困ってるロシア人家族と遭遇する場面が楽しい。
チューナーを買う資金を工面しなきゃならないヤンネたちは、
「轢いてしまったもんはしょーがないので、この際トナカイの肉を食べてみたい」
と言うロシア人と交渉し、調理して金を貰うことに。
だが解体などしたこともなく、血抜きをしようとナイフを突き立てたら、トナカイが突然叫び出し、マザコンのカイハはピューッと逃げ出してく。
ドタバタしたがなんとか調理して、ロシア人の別荘ですっかり打ち解ける。だが金を貰う前に酔いつぶれたロシア人から「財布から抜いてけ」と言われ、手を伸ばした所を、その男の仲間に「泥棒!」とカン違いされ、3人はライフルを乱射され、逃げ惑うはめに。
ライフルは実弾じゃなく、ペイント弾なのだが。
スノーモビルを奪取して逃げ去ったヤンネたちだが、免許証をその場に落としてしまう。それが伏線になってるんだが、ああいうオチになるとは予想してなかった。

とにかく話のまとめ方が気持ちいいので、フィンランドで人気だったのも、そのあたりが理由にあるのかも。
先に述べた『ハングオーバー…』ほどじゃないが、下ネタもある。
だがあの映画のようなバイオレントな描写は極力避けてる印象だ。
ロシア人のペイント弾しかり、途中のレストランで、日頃のケンカ相手の3人組と角突き合わす場面があるんだが、アメリカ映画のように店内で殴り合ったりはしない。寒い外に出て取っ組み合う。その描写を店内から窓越しに、小さく映してる。

正直それほどギャグが弾けるという映画じゃないんだが、描写をエスカレートさせればウケるだろうが、あえてそれをしないという所に、フィンランド人の奥ゆかしい国民性を感じたりする。
なので他愛ない話ではあるんだが、後味がいいのだろう。

2012年2月18日

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