牧口雄二・東映カルト3連打③ [牧口雄二監督]

『徳川女刑罰絵巻・牛裂きの刑』

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寛永5年、長崎。長崎奉行・高坂主膳は、禁教令にそむく邪宗徒として、隠れキリシタンへの熾烈な弾圧を行っていた。奉行所の「お仕置き場」では、奉行の前で、捕らえられた者たちの顔や体に、十字の焼印が押された。
だがサディスティックな奉行は、それでは満足しなかった。
奉行所の若い与力の佐々木伊織は、狩りの最中にヘビに噛まれ、その毒液を吸い出し、介抱してくれた、隠れキリシタンの娘・登世と恋仲となる。だが登世の家族はすでに奉行所に連行され、登世もお仕置き場で、与力として奉行の脇に控える伊織と再会する。
二人の仲を知った奉行の主膳は、登世を自分の女にし、伊織にその行為を見せ付けた。

主膳は登世の、歳の離れた幼い妹を伊織の前に連れてこさせ、刺し殺すよう命じる。伊織にはそれができず、激怒した主膳は、登世の目の前で、妹の目に焼きゴテをあてさせ、失明させてしまう。
登世の家族は、隠れキリシタンの村人とともに皆殺しにされる。主膳と登世の行為に我慢がならなくなった伊織は、ついに主膳に逆らい、手痛い仕打ちの後、奉行所を追われる。

一年後、登世を乗せた籠を、浪人となった伊織が襲い、登世をさらって逃げる。だが二人はやがて追いつめられ、伊織は主膳の槍によって留めを刺される。
そして登世には姦通の罪として、「牛裂きの刑」が待っていた。


筋を書けばこうなるんだが、実際は、拷問場面の数々をかろうじて筋書きらしきものが繋いでくという風情なのだ。
初っ端が女が煮えたぎる釜の中に、吊るされながら入れられ、フタをされる「釜炊きの刑」
男が首を吊るされた後に、胴体を刀で真っ二つにされる「試し斬りの刑」
ガラスの巨大な水槽に女を落とし、その上から無数のヘビを投入する「ヘビ地獄の刑」
丸い切り株のような台の上に、男の片足を縛りつけて、デカい杵つきを振り下ろす
「餅のかわりに足つき刑」
豚の丸焼きを作る時のように、左右の台に渡した数本の棒に女を括りつけて、
油を塗って、回転させる「女体丸焼きの刑」
『インモータルズ』でも出てきた「ファラリスの雄牛」という拷問具があるが、
あれを信楽焼のたぬきで応用した「ファラリスのたぬきの刑」
など、映画というより「拷問のアトラクション」を見る感じだ。

とにかく、優れた拷問には「ザッツ・パーフェクト!」と声を上げる、長崎奉行・主膳を演じる汐路章の独演会のような様相で、イモリを本当に口の中に頬張ったりしてるし、『冷たい熱帯魚』のでんでんじゃないが、ここまで演れれば気持ちいいだろう。

その拷問の総仕上げに「牛裂きの刑」が出てくる。登世が板の上に両手両足を縛られてる。両足はそれぞれ、気の荒そうな黒毛和牛2頭の首に、縄で繋がっており、奉行の合図とともに、牛に引かせる。
絶叫とともに両足が根元から裂かれるんだが、肌襦袢で股の部分は見えない。ワンカットだけ、内臓のアップらしきものを映してる。
高坂主膳はその後も弾圧拷問に明け暮れ、奉行から一石の領主に位も上がりました、めでたしめでたし、というその時点でまだ40分しか経ってないのだ。


さすがにこの話だけで終わらせたら、殺伐感が半端ないと東映も思ったのか、舞台は一転、女郎屋へと変わる。川谷拓三がいつもの軽妙な演技で空気を和ませる。

大阪・船場のぼんぼんだと嘘をつき、女郎屋でしこたま遊んで逃げようとした捨造は、宿の男たちに、頭を坊主にされ、顔を白塗りされ、1年間タダ働きを強いられる。
捨造はすぐに女郎屋の残酷な掟を目の当たりにする。
人の上客を奪った女郎には折檻が加えられた。縛りつけられ、体中に何かを塗りたくられる。すると何匹もの小型犬が女郎の体を舐め回す。折檻にしては痛いというより、気持ちよさそうなんだが、みんなの見てる前で、犬にイカされてしまうという、一種の羞恥プレイのようなものか。

商売以外で男と通じ妊娠してしまった女郎は、宿の男たちから、流産するように執拗に腹を蹴られる。
それでも不十分と思うと、専門の腕を持つ婆さんが呼ばれ、股の間から、まだ形を成してない胎児をかき出す。
女郎は消耗しきってるが、宿の主人は、休ませずに客を取らせる。
行為の最中に血を吐くと、客の男は
「梅毒持ちか?じゃあ後ろからだ」
となおも責め立てる。
その女郎は宿の若い使用人と足抜きを図るが、捕まり、男の方は縄で吊るされて、片耳を削がれる。
そして捨造は男のイチモツを切り取るよう命じられる。逆らえば自分が切り取られる。捨造は男に謝りながら、震える手で刃物をあてた。
若い男は正気を失ったまま、宿から放り出され、すでに息のなかった女郎は、捨造が埋めに行くよう言われた。

捨造はここで知り合った女郎のおさとに、一緒に逃げようと誘い、死体を入れる桶におさとを入れて、まんまと女郎屋を抜け出した。
ふたりは江戸を目指すが、旅の途中でおさとが、洞穴に暮らす「非人」と呼ばれる男たちに輪姦され、駆けつけた捨造は、男たちを殺してしまう。
江戸に出た二人は「美人局」をして稼いでたが、十手持ちと知らずに罠をかけ、ついに御用となる。

非人殺しの罪状で、口を割らない二人は拷問にかけられる。おさとは乳首を切りとられ、正座した膝の上に重い石を乗せられた。捨造は足の親指を切断された後、水車に括られ、水責めを受ける。
ついに罪を認めた二人は、北町奉行所門前に、首から上を台にさらし、道行く人間に鋸で首を引かせる
「鋸引きの刑」に処せられる。
だが実際はされることはなく、型通りの見せしめ刑だった。
おさとは「こいつはまだ稼げますんで」と、女郎屋の主人が、役人に賄賂をつかませ、連れ帰った。

ひとり、台の上に首をさらすことになった捨造の前に、男が奇声を上げながらやってきた。その男は、女郎屋で捨造がイチモツを切り取った、あの使用人だった。
男は捨造のそばに形ばかりに置かれたノコギリに目を止めた。

前半40分の「長崎奉行」の話が、即物的な残酷描写で、アトラクションぽい印象だったが、後半は川谷拓三の熱演もあり、ドラマの濃度が深まってた。こっちの残酷描写の方が「痛み」が伝わる感じだ。
その川谷拓三だが、この映画の2年後の1978年にも、再び「鋸引きの刑」に処せられてる。


大河ドラマ『黄金の日日』がそれだ。納屋助左衛門の幼なじみの善住坊(ぜんじぼう)を演じてた。
善住坊は火縄銃で信長を撃とうとするが失敗、助左衛門の船に隠れるが、その船は航海で嵐に見舞われ、ルソン島に漂着する。二人はルソン島で商売をし、逞しく生き延びて、日本に戻るが、善住坊は逆賊の罪で捕らえられる。
助左衛門は、善住坊の面倒を見てやってたお仙から、「鋸引きの刑」の噂を聞き、ふたりでその街道へ向かう。
役人は「ここを通る者は1回ノコを引いていけ、さもなくば自分が同じ目にあうぞ」とせせら笑う。

役人の後ろには首から下を土に埋められた善住坊が。竹のノコギリはすでに何度か引かれており、すでに虫の息となってる。

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助左衛門が駆け寄ると、善住坊は
「アリーナカヨ、アリーナカヨ」と呟いてる。
助左衛門は泣きながら、お仙に
「いらっしゃいませ、って。ルソンの言葉なんだ。善住坊は俺とルソンで商売してるんだよ、
気持ちはルソンに行ってるんだよ」
お仙も涙を流しながら覚悟を決めた。
善住坊に微笑みかけ
「楽におなり」
そう言うと、渾身の力で竹ノコを引いた。

『黄金の日日』のこの場面は当時、家族で見てたが、俺はボロ泣きした。川谷拓三は膨大な数の映画に出てるが、知名度を一躍上げたのは、この善住坊の役だった。助左衛門を演じてたのは、市川染五郎。お仙を演じた李礼仙も素晴らしかった。

そんなわけで、この『徳川女刑罰絵巻・牛裂きの刑』を見終わったら、途端に『黄金の日日』を見直したくなってしまったのだ。

2012年3月11日

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