インディーズだけどエンタメの変異ホラー [映画ハ行]

『へんげ』

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門田吉明とその妻恵子は、周囲より少し値が張りそうな一軒家に暮らす、ごく普通の見たところ30代後半の夫婦だ。恵子は過去に二度妊娠したが、二度とも流産していた。だがそれが夫婦仲に影響することもなく、今も仲睦まじく見える。
だがその発作が起きてから、もうどのくらいになるのか、夫の吉明に体の変調が続いている。
吉明は、つい病院での検査を記録したDVDを繰り返し見てしまう。そこには激しい痙攣とともに、体を弓なりに反らせ、咆哮する自分が映っている。
恵子は「もう見ないでと言ったでしょ?」と、吉明にそのDVDを割らせる。

発作は3日に一度の頻度で起こる。検査でも原因はわからなかった。吉明は
「無数の虫に意識を支配されてしまうんだ」
と苦悶の表情を浮かべる。二人が今頼れるのは、吉明の医大時代の後輩の医師・坂下だけだった。
坂下は外出もままならない吉明のために、医学関係の翻訳の仕事を回してくれたり、恵子を気遣ったりしてる。

そんな中、またしても発作が襲い、ついに吉明の体が変異し始めた。片腕が触手か植物のような異様な形になっている。恵子は激しいショックに見舞われながらも、その姿をケータイで撮影した。
自分の腕を見た吉明も愕然となったが、発作が治まると、その時の記憶も無くなっていた。物静かないつもの夫がそこにいるだけだ。
だが吉明の時を選ばない激しい咆哮は、近所でも噂になりつつあり、恵子は坂下の説得に応じて、吉明を研究施設に入れることに同意する。吉明は抵抗するが、数人の職員に連れて行かれる。

だが何日か過ぎる内、都内で殺人事件が頻発するようになる。被害者には説明のつかないような傷跡が残されてるという。恵子は夫の仕業ではないかと直感した。
果たして、吉明は施設を逃げ出していて、自宅へと戻ってきた。恵子がドアを開けると、吉明は倒れこみ、その胸から腹にかけて、開口手術を受けたような痕があった。
「ごめんね、吉明。こんな思いさせて」
恵子は夫を全力で守ることを決意した。

恵子は祈祷師に家に来てもらった。若い女性だったが、彼女はさっそく経を読み、吉明の中に入り込む者を呼び出そうとした。吉明はまた発作のように症状を見せ始める。だが不意に正気に戻り
「ごめん、演技してたんだ」と恵子に言う。
吉明の様子を見ていた祈祷師は急に動揺し、
「あなたは何者なの?」と叫ぶと、家を飛び出して行った。
吉明は「どういうことか聞いてくるよ」と後を追った。

恵子は胸騒ぎがし、二人の後を追う。ひと気のない駐車場の片隅に二人はいた。
必死に祈祷する女性を、吉明は殴りつけ、その喉にかぶり付いた。腕を引きちぎり、一心不乱にむさぼり食う吉明に声をかける。正気に戻った吉明は自分のした事にパニックを起こす。
だが恵子は気丈に吉明を抱きしめた。
今や夫は腕だけでなく、全身を変異させつつある。
咆哮とともに、古代語のような言葉を発するようにもなっていた。
「変身した夫には食料が必要なんだ」

恵子は家を訪ねてくる坂下の問いにもシラを切りつつ、吉明を2階奥の寝室に匿った。
そして自分は夜の町に出て、獲物を確保する。出会い系で男と連絡をとり、酒を飲みに行き、そのまま自宅へと誘いこむのだ。寝室の中は、次第に獲物の手足が散乱する修羅場の様相を呈してきた。
そして警察がなにかを嗅ぎつけて、自宅へとやってきた。


大畑創監督は「映画美学校」出身というが、最近評判を得ている若い監督にここの出身が多いらしい。日本のインディーズ作品をそんなに熱心に見てる方じゃないんで、その辺りに詳しくはないんだが。

この監督の作風は、「作家主義」的なものでなく、最初からエンターティンメントを志向してるようだ。肉体が変異してくというプロットからも、初期の塚本晋也監督を思わせる所がある。
全身に変異をきたした吉明は、なんかガイバーみたいになっちゃうんだが、断じて夫を見捨てない恵子を演じる森田亜紀の芝居がいいので、かなりブラックな展開にも引き込まれていく。

それと知らず寝室を覗き込む獲物の男に、金属バットを見舞い、男が痙攣し動かなくなると、部屋に引き入れる、この一連の描写は、カメラの位置など、『悪魔のいけにえ』の再現だったね。

実はこの後にも急展開があるんだが、見終わった時には「このジャンルで、こういうアプローチは初めてかもな」と感心した。1回限りの大ネタといってもいい。
この映画は54分の中篇だけど、大畑監督はそう遠くない内に、メジャーで大きな予算の映画を任されるようになるかもな。


これと同時上映で、大畑監督が映画美学校在校時に撮った短編『大拳銃』も見たが、こちらは「よくできた学生映画」という感じだった。
不況で廃業に追いこまれる寸前の金属加工工場に、仕事の依頼が入る。拳銃を10丁作ってほしいと。急場をしのぐ金を積まれた上での依頼で、工場主は弟とともに自作の拳銃製作に臨む。依頼主がその筋の人間であることはわかっていた。
暴発の失敗を繰り返しながらも、ようやく期日までに10丁を仕上げた。だが受け渡しの時点で報酬は支払われず、数日後には、10丁とも不具合で返品されたと連絡がある。おとしまえの意味も含めて新たに50丁作れと。
妻までもが、早く作って金を受け取れと言う。工場長は寝る間も惜しんで仕事を続けた。
だが工場長には、妻にも秘密にしてることがあった。暇を見つけては、ある拳銃を作り続けてたのだ。
それはバズーカ砲のような銃身を持つ「巨大な拳銃」だった。
だがそれを実際に使うことになろうとは、本人もまだ予期していなかった。

この短編でも、ドラマとして人物をどう出し入れするのかということを考えて撮っている。自作の拳銃が何丁かに1丁は暴発するという設定も、展開に上手く活かしてると思った。演技とか、アクション場面の予算のなさとか、安い感じは致し方ない。
『大拳銃』から『へんげ』へのステップアップぶりはかなりなモンだと思う。

2012年3月13日

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