こんな題名じゃ気がつかないっての! [映画カ行]

『小悪魔はなぜモテる!?』

小悪魔はなぜモテる.jpg

原題は『EASY-A』だ。エマ・ストーンが主演して、この手の青春映画では異例といえるほどの大ヒットを、全米では記録してる。それが日本では劇場公開ならず。こんな邦題つけられてDVDスルーとなってた。
しかしこれは面白かった。2回続けて見てしまったほどだ。

まず『EASY-A』の意味をわかっとく必要がある。
この「A」はエマ・ストーン演じる女子高生オリーブが、胸に縫い付けるイニシャルだ。
「A」はADULTERY(姦通)を意味していて、17世紀のピューリタン社会で、姦通の罪を犯し、生涯胸に「A」の文字を縫った服を着ることを強要された、ナサニエル・ホーソーンの小説『緋文字』のヒロインになぞらえている。


オリーブはカリフォルニア州オーハイにある、クリスチャンたちが通う公立高校の生徒。彼女はまともにデートした経験もないし、男子に声をかけられることもない。青春映画で見たような場面とは無縁の日常に
「私の人生は、ジョン・ヒューズの映画じゃない」
とぼやいてる。
オリーブは胸の大きい友達のリンから、週末の予定を訊かれ、つい見栄を張って
「大学生とデートする」と嘘をつく。
金曜の夕方から、日曜の夜にかけて、オリーブがずっと自宅で過ごしてる描写が可笑しい。

週明けにリンからデートの成果を問われ、あんまりしつこく
「ねえ、したでしょ?したんでしょ?」と言われ
「したわよ!」
と嘘を上塗り。クリスチャンたちの校内で噂が広まるのはADSLなみに速かった。
同級生には父親が牧師という、ガチガチのクリスチャンのマリアンヌがおり、さっそくオリーブを目の敵にした。
かくして地味で目立たなかったオリーブは、校内一の「アバズレ」として、一躍時の人となる。

そんなオリーブに、ゲイのブランドンが声をかける。オリーブの噂は嘘だと聞かされるが、嘘でいいんで、自分と「した」ことにしてほしいと。
ゲイと思われてると、この学校では露骨な偏見にさらされる。もう耐えられないんだ。
最初は取り合わなかったオリーブだが、つい情にほだされて、さらなる嘘の上塗りを。
生徒たちが集まってるホームパーティに、二人して出向き、部屋を借りて、声だけ熱演して、ドアの向こうで聞き耳たててる生徒たちにアピール。
作戦は成功し、ブランドンは男子生徒の仲間に迎えられた。

その顛末をブラントンから聞いた「非モテ」の男子たちが、こぞってオリーブに声をかけてきた。オリーブは「人助け」と思いつつも、報酬は受け取り「エアセックス」の相手となった。
オリーブが金を取って男と寝てるという噂が、校内で広まるのは光回線なみに速かった。
ついに敬虔なクリスチャンの生徒たちは、プラカードを持って、オリーブの排斥運動まで始めた。

事情を聞くために、英文学のグリフィス先生はオリーブを教員室に呼んだ。
このグリフィス先生が授業で教材に使ってるのが小説『緋文字』だ。オリーブは元はと言えば自分が火種を撒いたとはいえ、今やあの小説のヘスターと自分を重ね合わせていたのだ。
グリフィス先生は生徒たちに受けがよく、その授業は「A」評価をもらい易かった。
つまり『EASY-A』だ。
なおかつオリーブは簡単に姦通させる女と言う意味の『EASY-A』というわけ。


この後オリーブは、自分のついた嘘とレッテルを払拭するために奮闘することになるんだが、この映画の良さは、結構シリアスなテーマを扱っていながら、ごく軽い青春コメディのテイストでさらりとまとめてること。
これって出来そうで出来ない高度な技だと思うぞ。
ここに出てくる高校生たちはすごく周りの目を意識してる。周りから浮かないように、はじかれないようにって事に腐心してる。
俺はそういうのは日本の学校生活に見られることだと思ってた。個人のパーソナリティの尊重を掲げてるアメリカの建前と違うなと。クリスチャンが通う学校だからという、特殊な事情なのかその辺りはわからない。

非常にダイアログの量が多いのも青春モノとしては珍しい。思わず吹き出すような会話も多い。
オリーブが自分を攻撃してくるクリスチャン強硬派に対し、敵を知ろうと聖書を読んだりするんだが、教会の牧師にも相談しようと、マリアンヌの父親と知らず、会いに行く場面。

「ウソと不貞をどう思われますか?」
「よくないね」
「ではもし地獄があって…」
「地獄はあると考えます」
「ではその地獄があるとして…」
「いや、あるんです」
「仮に…」
「仮にじゃない。地面の下にある。アジアの方にね」

オリーブの父親をスタンリー・トゥッチ、母親をパトリシア・クラークソンという二人の芸達者が演じてる。
オリーブが自分が撒いた種の回収に苦慮してると母親に吐露する場面。
「私もあなたみたいに、尻軽呼ばわりされたことはあったわ」
「お母さんも?」
「私は実際何人もとつきあったりしてたし、ほとんど男だったけど」
ほとんどってどういう事だよ、しかも娘にカミングアウトしてるし。
「体が柔らかくてよかったのよ、足をこう上げてね…」
「お母さん、もういいから!」

「私の人生は、ジョン・ヒューズの映画じゃない」とヒロインに言わせておきながら、実はジョン・ヒューズに代表される80年代の青春映画への愛情が感じられるのもいい。
ギャグのネタにするとか、そういう扱い方じゃないのだ。
エマ・ストーンがカメラに向かって語りかける演出は、『フェリスはある朝突然に』でのマシュー・ブロデリックを踏襲してる。だがこの映画の場合は、観客に対して直接語りかけてるんじゃなくて、映画の終盤で、オリーブが一連の騒動の真相を、自らネット配信で明らかにしてるという設定とわかる。

ブレックファスト・クラブ.jpg

あと劇中に『フェリスはある朝突然に』の他にも、『キャント・バイ・ミー・ラブ』『すてきな片思い』『セイ・エニシング』『ブレックファスト・クラブ』の一場面が出てくるが、映画のラストシーンはそれらの80年代青春映画の名場面をアレンジした洒落た趣向になってる。バックに流れてるのは『ブレックファスト・クラブ』の主題歌だった、シンプル・マインズの『ドント・ユー』ってのも懐かしい。
挿入歌でいうと、ジョン・カーペンター監督の『スターマン』のメインテーマをサンプリングした楽曲が流れてたが、あれは何て曲なんだろ。

エマ・ストーンは目が大きすぎて、好みのルックスではないんだが、この映画の彼女はいいね。人気出るのもわかる。あのハスキーな声とか、表情の柔軟さとか、デブラ・ウィンガーの若い頃を思わせる。

『ミーン・ガールズ』とか、アレクサンダー・ペイン監督のデビュー作『ハイスクール白書』、ウェス・アンダーソン監督の『天才マックスの世界』など、下ネタに堕さない「ひとヒネリある学園映画」が好きなら楽しめると思う。

2012年3月20日

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