ゾンビにすらなれなかった俺たちの旅 [映画サ行]

『ゾンビ・ヘッズ 死にぞこないの青い春』

ゾンビヘッズ.jpg

ボディバッグの中で目覚めたマイクは、周りの状況が掴めてなかった。
手に怪我を負ってるが痛みはない。
唸って歩いてる男がいるが、声をかけても無視される。近くの民家の戸を叩くと、いきなり中から発砲され、腹を撃たれた。ワラワラと民家に向かって来る者たちに
「撃たれるぞ!逃げろ~!」
と叫ぶが反応はない。
「もう、ダメだ。死ぬ」と倒れこんだが、死なない。痛みもない。

いよいよ混乱するマイクは男とぶつかった。
「おい、お前しゃべれるのか?」
嬉しそうに話しかけてくる男は、どう見てもゾンビだった。
ブレントと名乗り、窒息プレイの最中に死んで、気がついたらゾンビになってたと。
背後では他のゾンビたちが人間を食べていた。
「俺はゾンビじゃないし、人間も食いたくないぞ!」
二人は取っ組み合いとなるが、ブレントが引っ張ると、マイクの右腕がもげた。
痛みはないので、急いではめ直した。

まあしょーがないからビールでも飲むかと、近くのバーに入った。
そこで新聞を見て、マイクは最後の記憶から3年も経ってることを知った。
「俺はなんで死んだんだろう?」
「その頭に開いてる二つの穴のせいだと思うぞ」

その言葉とともにマイクはポケットの中にある物に気づいた。取り出したのは婚約指輪だった。
「そうだ。俺にはこれを渡す相手がいたんだ!」
「じゃあ、渡しに行けよ」
「行けるわけないだろ!ゾンビなんだぞ!」
「お前、その娘を愛してるんだろ?」
「ルークはレイア姫を諦めたか?」
「あれは妹だ」
「妹とやりたいと思ってたんだよ!」
ブレントの論旨はどこかズレてたが、なぜか熱意は感じた。
「この世で一番強いものは愛なんだよ」
「行動する者のみが勝利するんだ!」

マイクもその気になってバーを出ようとすると、いきなりライフルを持った黒人青年が乱入。
その後をゾンビたちが追ってきた。
「ここはゾンビに囲まれる。みんなで団結して戦うんだ!」
そう言われても俺たちゾンビなんだがな、とマイクとブレントは目立たないように、バリケードを作る振りをする。
だが子供にまじまじと見られ
「ゾンビだ!ゾンビがいるよ!」
と叫ばれピンチ。その時、窓を破った無数のゾンビの腕に掴まれ、マイクとブレントは外に引きずり出される。
だがゾンビたちに「こいつらゾンビじゃないか」と思われ、そのまま地面に放り出された。


ゾンビに襲われないというのは有難いことではあるが、問題はなんでゾンビなのに、自分は人間の意識を保ったままなのかということだ。

実はマイクは、指輪を渡そうとした彼女の父親に撃ち殺されてたのだ。その父親は軍で「ゾンビ兵士」を作る極秘プロジェクトの責任者だった。いくつもの蘇生薬が試されており、マイクやブレントに注入されたのは、意識は人間のままゾンビ化する「半分ゾンビ」用の蘇生薬だったようだ。
だが実験後に多くのゾンビたちが暴れ出したため、その事態収拾を図るため、軍の捕獲チームが動き出していた。


ここからマイクが恋人エリーの元に指輪を渡しに行くという、ゾンビによる「指輪物語」がロードムービー風に展開されてく。ブレントがいつの間にか手なずけてた大男ゾンビが旅のお供に。
「こいつはチーズって言うんだ。くさいから」
とブレントは簡単な芸を仕込んだりしてる。
ゾンビを教育しようとするのは、ロメロの『死霊のえじき』の引用だね。
このチーズが、軍の捕獲チームからマイクたちを守る用心棒となってく。

マイクたちを車で拾う、ベトナム戦の兵士だった老人は、マイクが恋人への思いを文章にして伝えようとしてるのを「思いは自分の口で伝えるんだ」と諭す。老人はベトナム人の娼婦と34年連れ添って、今は彼女の遺灰をミシガン湖に流しに行く途中だった。
持病のあった老人は、ミシガン湖に着いた時は事切れていた。その姿はマイクたちの胸を打った。
マイクは、生きてるうちに愛を告げなければと思いを強くした。死んでるんだけどね。

マイクは丁度、高校の同窓パーティが開かれてることを知り、エリーが来てるかもと乗り込んだ。
遠目でも彼女のことはすぐにわかった。
だがトイレの鏡に自分を見て、とても面とは向かえないと感じた。
会場に戻ったマイクはネズミの着ぐるみを着ていた。エリーは着ぐるみに気さくに話しかけてきた。
あの頃と同じ、美しい彼女が目の前にいた。

二人は互いのことをしゃべった。エリーは高校の時、好きだった彼氏がいたこと。急に姿を消されて、しばらく思いを引きずってたことを語った。マイクは
「僕はあの頃に戻りたい。あの頃、ちゃんと思いを伝えられてたら」
もちろんエリーは着ぐるみの中身がマイクとは気づかない。
エリーが背を向けた隙に、意を決して着ぐるみを脱いだマイクだったが、その瞬間に捕獲チームの職員に連行されてしまう。


監督は新人のピアース兄弟だが、父親がSFXアーティストで、サム・ライミのデビュー作『死霊のはらわた』を手掛けてた。しかも撮影したのが、父親の自宅の地下室だったそうで、幼い兄弟はその様子を見て育ったという。
血は争そえないね。
この映画の中で、ミシガン湖に向かう途中のドライブイン・シアターで『死霊のはらわた』を見てる場面がある。
大男のチーズがホラーが苦手という描写が可笑しい。

ホラー・コメディとしては、2月に見た『タッカーとデイル 史上最悪にツイてないヤツら』ほどの爆笑ポイントはない。キャンプ場面も冗長な感じだし、捕獲チームの部下の女の子とか、いまいち無駄キャラで、映画としてはもうちょいシェイプアップできそうなもんだが、この映画はなんと言ってもエンディングが素晴らしい。
こんなにあっけらかんと、ハッピーエンドでいいのかと思うほどだ。
その場面のブレントの盛り立て方とか、俺はちょっと感動した。

もはや人間の見てくれではないのに、ゾンビにすらまともになれてないという自分の境遇を嘆くマイクと、
「第2の人生と思えばいいだろ」とポジティブ・シンキングなブレント。
「いくら思いを溜めてても、なにもしないならゾンビと同じ」という作り手の熱いメッセージがそこにある。

この主役ふたりの役者がいい。二人とも無名だが、マイクを演じるマイケル・マッキディは、白塗りで若干腐敗してるメイクをしながら、溢れる思いを溜め込む表情が見てるこっちに伝わってくる。

それからほぼ唸ってるだけだが、大きなゾンビの「チーズ」を演じる役者の健闘が光る。こちらは完全にゾンビメイクなんだが、時折愛嬌を感じさせもする。ゾンビというよりフランケンという印象だ。
映画の副題も上手くつけたな。

2012年4月20日

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