ギャグセンス抜群のクリステン・ウィグ [映画ハ行]

『ブライズメイズ 史上最悪のウェディングプラン』

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コメディを見る時、そのクリエイターの映画が初めてのものだった場合は、どういうギャグの発想があるのかを楽しみにしてる。
それで自分にとって「あたり」か「はずれ」かわかるからだ。

この映画の最初の方に、クリステン・ウィグ演じる主人公のアニーと幼なじみのリリアンが、公園でエクササイズに励んでる場面がある。なぜか太い木の陰で行ってる。
離れた芝生の上で、ブートキャンプ乗りの黒人インストラクターが、生徒たちに檄を飛ばしてる。
アニーとリリアンは、そのエクササイズの方法を盗み見ながら腹筋とかしてるのだ。
それをインストラクターに見つかり
「おい!タダで真似てるんじゃない!」
と怒鳴られると、ダンスの振りしてごまかす。
「公園でダンスするんじゃない!」
そのダンスの振りが人を舐めきったような感じで。

多分テレビの通販番組のエクササイズ商品とか見ながら発想したんだろう。
「なに高い金払って痩せようとしてんのよ」って。こういうギャグの発想は出そうで出ない。
この場面で大笑いしたんで「これは大丈夫、俺楽しめる」と映画に乗れた。


アニーの母親をこれが遺作となった、70年代女性映画のヒロイン、ジル・クレイバーグが演じてる。この母親は「アル中患者の会」に参加してる。アニーは
「なんでお母さんアル中でもないのに参加してるのよ」
「なるといけないと思うからよ」
このやりとりも可笑しい。

アニーは手作りケーキの店を出したが失敗、貯えも無くなり、母親の口利きで宝石店で働いてる。
恋人にも振られ、金持ちのセフレがいるだけ。
この先も共に独身と思ってたリリアンに婚約を決められ、真近で幸福の絶頂の顔を見させられる。気持ちもささくれ立つわ。

宝石店に婚約指輪を買いにきたアジア系のカップルに
「永遠の愛なんてないわよ」
「あなた彼氏になんの疑いも持たないわけ?」
「彼氏アジア系ですらないかもよ」
と言いたい放題だ。当然店長にたしなめられ
「永遠の笑顔をつくってみろ」
「それじゃあせいぜい4日分だ」
他の店員が見本をみせる。笑顔というより、恍惚とした表情だ。アニーもそれを真似てる。
ここもひたすら可笑しい。


アニーはリリアンからブライズメイド(花嫁介添人)のまとめ役である「メイド・オブ・オナー」の大任を仰せつかる。
婚約披露パーティは盛大なもので、金持ちの臭いがプンプン漂うのは主に、花婿側の人脈だった。

特に花婿の上司の妻ヘレンは、ひと目見た時から「いけ好かない」オーラを発してる。
美貌ではアニーは負けてる。
婚約披露の席での、友人代表スピーチで、アニーはごくシンプルに、花嫁へのエールを述べた。するとヘレンがマイクを奪い、妙に上手いスピーチでリリアンを涙ぐませる。

ちょっと待てと。最近知り合いになったばかりだろ?

こっちは子供の頃からのつきあいだと、またマイクを奪う。延々続くマイクパフォーマンス合戦。
ついに言うことがなくなり、アニーが出し抜けに歌い出したのは、結婚ソングの定番
『ザッツ・ホワット・フレンズ・アー・フォー♪』
なんとそこにもヘレンが割り込んでデュエット状態となるオチが。

ブライズメイドは、兄貴が大嫌いという、花婿の妹メーガンを含む計5名。
式に着るドレス選びに、ヘレンが顔が利く超高級ブティックへ。だが直前にアニーおすすめのブラジル料理店で出された肉に、ベジタリアンのヘレン以外全員が食あたり。
ブティックのトイレは阿鼻叫喚の場と変わる。

ウェディングドレスを着たままのリリアンはなぜか外に駆け出してしまい、道路の真ん中で力尽きる。
アニーの車の助手席で顔面蒼白のリリアン
「私、道路の真ん中でウンコ漏らしちゃったあああ」
「よくあることよ」
…犬ならな。


この映画に限らず最近「体内からいろんなものブチまけ」系の描写が目立つのは、アメリカ人のマイブームなのか?
ヘレンに「あなたは大丈夫なの?」と見据えられ「私はなんともないわよ」と便意を我慢するアニーの顔から、油汗が吹き出てる。そうだそうだ、これは辛いぞ。
ラッシュの電車の中で急な腹痛に見舞われた時とかな。そんな時に限って急行だから、中々駅に停まらない。
だから俺はカバンの中に「ストッパ」を常備してるのだ。

アニーはリリアンのために、なんとかメイド・オブ・オナーとして頑張るんだが、天中殺に入ってるのか、やることなすこと裏目に出る。独身最後の旅行も、自分の案は却下され、ヘレンがラスベガス行きを決めてしまう。

ミルウォーキーからベガスまで飛行機だ。アニーは飛行機がダメなのだ。
恐怖を酒で紛らわそうと、さらにヘレンがくれた薬との相乗効果か、機内でアニー大暴れ。
5人全員がワイオミングの空港で降ろされる。ベガスまで地図で見ると丁度中間あたりだな。
シカゴ行きのグレイハウンド(バス)の車内で、リリアンから「メイド・オブ・オナー」の解任を告げられた。

男たちの独身最後の旅行を描いた『ハングオーバー』と同じようにベガスでの大騒動が描かれるのかと思いきやだったが、この機内の場面はけっこう長い。しかしここもかなり笑える。
実際乗り合わせたら『フライトプラン』のジョディくらい迷惑千万ではあるが。


この映画で脚本も書いてる主演のクリステン・ウィグの表情芸が見事だ。ジム・キャリーのような極端な顔芸ではなく、微妙な感情のグラディエーションを表情に反映させてる。
だから見ていて、いたたまれなくなるんだが笑えるという。
しかし凄い才能の持ち主がいるもんだな。

アニーはとてつもなく豪勢なヘレンの自宅での「ブライダルシャワー」の席でついにブチ切れる。そのキレ方は『ヤング≒アダルト』のシャーリーズ・セロンを彷彿とさせるが、シャーリーズの場合は「思い込みの暴走」であり、自分が負け犬とは思ってない。
この映画のアニーは負け犬の自分にどっぷり浸かってしまってる。

リリアンだって、今までの人生と全然違った環境の人々の身内に突然ならなきゃいけない、そのプレッシャーを、アニーは思い遣れない。
壊れたテールランプがきっかけで知り合った、気のいい警察官ローズ(男です)とも素直な関係が築けない。
この映画を見て、アニーのダメっぷりに腹が立つという声が上がるとすれば、それこそ製作者側の目論見が当たったということだ。
「あなたは認めないかもしれないけど、こういう部分はきっとある」
というのが、アニーのキャラクターなのだ。


リリアンに絶交まで叫んで、その後に自己嫌悪に沈むアニーを、半ば力づくで叱咤する、花婿の妹メーガンを演じる、太めのメリッサ・マッカーシーは儲け役だが、「宿敵」ヘレンを演じるローズ・バーンが、今までにないような、アクの強さを見せて、インパクト絶大だ。
悪意はないのに、人をイラつかせずにおかないという、これは難しい按配の演技だったろう。


『ヤング≒アダルト』『ブライズメイズ…』そして公開待ちのキャメロン・ディアス主演『バッド・ティーチャー』と、いづれも「30過ぎて独身ですけどなにか?」なヒロインがこのとこ目立つね。
「開き直り」の気分の反映かもしれんが、裏を返せば「結婚」というステータスへの絶ちがたい価値観が、アメリカ人女性の中にあるんだろう。
そのわりにはバンバン離婚してるけどね。

こういう映画見てると「結婚生活」よりも「結婚式」を挙げるということが重要に見えてしまう。
「私にはこんなに友人がいて、友人にこんなに祝ってもらってる」
家族でも親戚でもなく「友人」というのが、この場合重要。
婚約披露パーティに始まり、いくつものイベントの過程で、自分の歩んできた人生を、肯定できる場なのかも知れない。

2012年5月11日

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