ロマポル⑧芹明香、芹明香と連呼したい [生きつづけるロマンポルノ]

『(秘)色情めす市場』

ロマポル芹明香.jpg

田中登監督による、1974年の「モノクロ」作。大阪西成のあいりん地区で、ほぼゲリラ撮影で貫徹されたという。
通天閣からカメラが下界に降りていき、ドヤの入り組んだ坂道に入りこみ、アーチ状にしつらえた階段にふたりの女が腰掛けてる。母と娘という設定だ。

母親を演じる花柳幻舟は、まあ当時の女優という雰囲気なんだが、手前に映る芹明香の佇まいというのが、まったく時代を感じさせない。
「今風」というより、なにか「タイムレス」な感じなのだ。
そこにまず驚く。こんな女優がいたのかと。

芹明香が演じるトメは、このドヤ街で売春婦をしてる。母親も同じ稼業だ。
トメには父親の違う弟がいる。
多分、父親が誰かもわからないのだろう。実夫という名の弟は精薄だが、身体は十代後半の成長を示してるから、性欲はある。
トメの胸に吸い付いたり、下着越しに股間に顔を埋めたりして、言葉にならないうめき声を上げてる。
トメは客に抱かれてる時も、普段街を歩く時も、人と話をする時も、まったくの無表情だが、弟の顔を体に埋めてやってる時だけは、表情が和らいでる。


とにかく「どんづまり」の世界に生きて、だがここから抜け出そうという気概があるわけでなく、だが売春の元締めに対しても、なんらへつらう様子もない。
全身から発せられる「だから何?」という空気。

女によるハードボイルドの極北にいるんじゃないのか。

母親が「こんな年寄りよこしやがって」と客からクレームつけられると、平然とチェンジに現れる。
そそくさと服を着る母親に「闇夜の夜もあるんやで」とメンチ切られてる。
もうどんな親子だよ。
その母親が妊娠(またしても)してしまい、堕ろす金を都合してくれと言われても、トメは
「ウチんときみたいに、また路地で産み落とせばいいやんか」
と言い放つ。もうどんな親子だよ。


トメと同じアパートにやってくるのが、宮下順子演じる文江。彼氏がいるんだが、金がないんで、文江が売春して稼ぐことに。
だが大人のオモチャを売ってる地元のヤクザに気に入られ、自分の女にさせられてしまう。
彼氏には文江を奪い返す気迫もなく、ヤクザに「これを代わりにしろ」と、ダッチワイフをあてがわれる。しかも穴が開いてて、ガスで膨らませても、空気が漏れる。
彼氏は文江とヤクザの後を、ダッチワイフ抱えて尾け回すしかない。

解体された煙突跡の中で、ようやく彼氏はマッチに火を点け「文江を返せ」と。ヤクザはそのマッチを奪って、タバコをふかし、文江をまさぐる。
捨てたマッチがダッチワイフに引火し、爆発。煙突跡から大きな噴煙が巻き上がる。
すごい、このあっけなさ。宮下順子救いがない。


トメは実夫のいきり立った一物を、手ぬぐいでくるんでしごいてやる。
その時の実夫の表情を見上げるトメの顔。
その芹明香の顔は聖母だよ、菩薩だよ。

母親が客の男に殴る蹴るの暴行を受け、流産する様子を真近で見たトメ。
トメは実夫とついに一線を越える。
「好きなようにしたらええ、ウチはゴム人形なんやから」


姉と一線を越えてしまった実夫は、不意にドヤを抜け出す。多分初めて見る「外界」
ここで映画はカラーとなる。
実夫は大事に育てているニワトリに縄をつけて、大阪の雑踏をさまよう。
いつしか通天閣に辿り着くと、一心不乱に階段を上る。ドヤ街を一望できる高さまで上った時、ニワトリを解放そうとするが、飛ぶことのできないニワトリは、縄を首にくくられたままだ。
実夫の後を追ったトメは、通天閣にその姿を見た。

だがそれは幻だったのか。実夫は西成の商店街の一角で、首を括って死んでいた。
商店街の店はすべてシャッターを下ろし、まったく人影もない。

もう実夫がいなくなったら、この街には誰も見えなくなった。
トメはそうつぶやいた。


絶望すら感じていないような日常の中で、唯一実感のこもる存在だった弟の死。
実夫がドヤを抜け出して通天閣から見た風景は、体を一つに重ねたトメの魂が見たものだったのか?
再び映画はモノクロに転じ、トメが客をとる日常が繰り返される。

空き地でスカートをはためかせ、くるくると回るトメ。
回転の止むことのない無間地獄のように。


ロマンポルノを見に映画館に入った客が、これを見て普通に興奮とかできたんだろうか?
男と女がまぐわってる描写よりも、ドヤの殺伐感とか、ヒロインのキャラクターの強さとかが、明らかに画面を圧してるんだが。
にしても芹明香だ。ほんと今頃になって言うのもなんだが、俺にとっては「発見」としか言いようがないんだからしょうがない。
もし70年代の日本映画のヒロインを5人挙げろと言われたら、真っ先に挙げるよ。
あとの4人は今すぐには浮かばんけど。


俺はこの映画を見ていて、なにかに似てるなあと漠然と思ってたんだが、うちに帰って思い出した。

1988年製作のインディーズ映画『追悼のざわめき』だ。

追悼のざわめき(未使用).jpg

もう誰かがすでに指摘してるかもしれないが、『追悼のざわめき』も西成でロケした(多分ゲリラ的に)モノクロ映画なのだ。
特にトメと弟の関係性が、インスパイアの元となってるんじゃないか?
この映画にも兄と妹が近親相姦に及ぶ描写がある。兄は妹を殺して、その肉を食べてしまうんだが。その後、兄は妹を再現しようとして、マネキンの股間をくり抜く。そして女性を殺しては局部を切り取って、マネキンに埋め込んでるのだ。
そのマネキンの存在を知ったホームレスが勝手に使ってしまう。怒った兄は、マネキンの局部に刃物を仕込んでおき、ホームレスは挿入すると「グギャ~ッ!」って描写があったな。

俺は『追悼のざわめき』は初公開の時に「中野武蔵野ホール」で見てる。細長いパンフも買った。
とにかくタブーを全部ぶちまけてやるというような姿勢で作られてる映画だった。
ダッチワイフとマネキンの類似性とか、『追悼のざわめき』の中で、廃墟のビルに放火して、本物の消防車が出動してくる場面を映してるんだが、ここなんかは、解体された煙突跡の爆発場面を模してるように感じた。

2012年5月31日

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