ロマポル⑪神代辰巳監督の3作 [生きつづけるロマンポルノ]

今回渋谷ユーロスペースで特集上映された「生きつづけるロマンポルノ」において、神代辰巳監督作は『赫い髪の女』のほかに3作見た。
いずれも、神代演出というのは、絡みの場面がねちっこいなという印象だ。他の監督に比べてスケベそう。そこがいいんじゃない、ってことなんだろうが。



『一条さゆり 濡れた欲情』

ロマポル一条さゆり.jpg

1972年という「ロマンポルノ黎明期」にいきなり誕生したマイルストーンという位置づけと捉えていいのかな。
公然わいせつでの検挙なんか日常茶飯事だったという、伝説のストリッパー、一条さゆりの名を題名に冠していて、本人も出てるのに、主役は、野心だけはメラメラとある、後輩ストリッパーを演じる伊佐山ひろ子だった。

一条さゆりに女優めいたことをさせるより、彼女はストリッパーとして厳然と存在してるのだから、彼女の芸と、その実像の部分を収めておければいい。
だがそれではドキュメンタリーになってしまうんで、彼女を蹴落とそうとする、若いストリッパーの物語を絡めて、肉体ひとつでしたたかに生きる女たちを活写するに至った、神代辰巳自らの脚本の戦略が見事だと思った。

俺は一条さゆりのことは詳しく知らなかった。彼女の「ローソクショー」をカメラは舐めるように捉えてるが、さすがに迫力あった。見てて生唾呑み込んだもの。

伊佐山ひろ子は同じ年の『白い指の戯れ』でデビューしてるが、あの映画の時はまだ演技というレベルではなく、素材で勝負してる感じだったが、この映画では神代監督に相当しごかれたのか、はっきりと役のキャラクターが見える演技をしていて、その成長ぶりには驚かされる。


伊佐山ひろ子演じる、若いストリッパーのはるみは、「私、お姉さんのこと尊敬してますねん」みたいなこと言って、取り入ろうとしながら、一条さゆりの履物を隠したりと、姑息な手段で、花形ストリッパーの座を狙ってる。
先輩の過去を調べて、自分も同じ養護施設にいたなどと、偶然をアピールしてみたり。
その養護施設出身というのは、実際の一条さゆりのエピソードらしく、虚実が交錯する。
だが野心を見透かされ、冷たくあしらわれることで、はるみはいよいよ闘争心に燃える。

ピンとしての技量が足らないと、「レズビアンショー」をやらされてるんだが、その相手の白川和子と、道端で大ゲンカとなる場面がすごい。はるみは
「レズなんて芸やない!大体あんたの匂い嗅ぐだけで、いつもアゲそうになるんや!」
「なんやて?あんたのもんかて、臭くてかなわんわ!」
みたいなエグい発言を、往来でわめき散らしてる。

結局踊りの完成度では一条さゆりには勝てないと思ったのか、「花電車」系のスキルを身につけようと頑張ることになる。

警察の手入れを逃れるために、衣装トランクの中に隠れたものの、表通りに出た所で下り坂を、滑車のついたトランクがどんどん転がっていき、交差点の真ん中で、異変に気づいたはるみが、トランクからほぼ裸で出てくるという場面も可笑しい。
阪急野田駅周辺で、これはゲリラ撮影してるんだろうが、伊佐山ひろ子も度胸がいいな。

ストリップの場面のほかにもセックスシーンがあるんだが、それもなにかストリップの舞台のように演出されてた。例えばはるみがヒモの男と、ラブホに入るんだが、回転ベッドになってて、まぐわう様子が回り舞台のように見える。

その後、新しいヒモに乗りかえたはるみが、その男とデパート屋上のゴトゴト動くコースターの座席で事に至る場面も、町を一望というより、町全体から見られながらセックスしてるという描写になってる。
セックスの見せ方に工夫があるんで、退屈しない。



『恋人たちは濡れた』

ロマポル恋人たちは濡れた.jpg

外房のうら寂れた海岸沿いのじゃり道を、若い男が自転車こいでる。荷台には映画のフィルム缶が詰まれてる。
スーツを着た男とぶつかりそうになり、その拍子に自転車が倒れ、フィルムが転がる。このオープニングから、いい感じだね。
1973年作だが、全編通してポルノというより、アメリカン・ニューシネマの匂いを感じる青春映画の感触だった。

主人公は克という名だったが、この港町には5年ぶりに戻ってきて、地元で唯一の映画館で、フィルム運びの職にありついた。
洋ものポルノをかける、しがない小屋だったが、克は街中に出て、自作の歌とギターで呼び込みなんかもしてた。閉館後の館内で、舞台に上がり、三波春夫の真似なんかしてる。伸びやかな声で上手い。

主演の大江徹という人はミュージシャンらしい。この映画の音楽も担当してる。
何日か前のこのブログで、「ミュージシャンの主演するロマンポルノ」と題して『おんなの細道 濡れた海峡』と『白い指の戯れ』を取り上げたけど、これもそうだったな。

この克は故郷に戻ってきてるのに、友達や知人に会っても
「自分は克なんて奴じゃない」と頑なに否定するのだ。幼なじみからは怒ってボコられたりするのだが。
映画館主の妻のよしえは、当初この若者の得体の知れなさに、警戒していた。
「あんた過激派とかじゃないの?」
「なんか犯罪おかしてきたんでしょ」
「なんだよお、失礼だろお?」

二人はソリが合わないように思えたが、亭主の映画館主は、外に若い女を作っていて、ほとんど仕事場に寄り付かなくなってた。
よしえは淋しさから克と肉体関係を結んでしまう。そうなると今度は、克の得体の知れなさが、ミステリアスな魅力に見えてしまうのだ。
だが克の方は、この年上の女に入れ込むわけでもない。

克が海岸線沿いをブラついてると、草むらの中で、カップルが青姦に及んでた。
克は距離をつめていき、その行為を覗くが、次第に覗くというようなつつましいもんじゃなく、すぐ背後でガン見する。男は気づいて
「やめろよお!」「あっちいけよお!」と言ってるが、ガン見し続ける。
終わった男にボコられる。這って帰ろうとする克に、車で来てたカップルは「乗ってくか?」と声をかける。
青春だねえ。
克はそれ以来、カップルの光夫と洋子と、なんとなくつるむようになる。


洋子を演じるのは中川梨絵。今回の上映で初めて見た。
『(秘)色情めす市場』の芹明香のことを「タイムレス」と書いたが、この中川梨絵は、まさに70年代初頭の女の子の雰囲気だ。バタ臭いルックスで、ベルボトムのジーンズが似合う。
「平凡パンチ」や「レナウンガール」のイメージだね。すごく可愛い。

劇の終盤で3人が砂浜で延々と馬とびをする場面があるが、彼女だけが次第に服を脱いでいって、最後はスッポンポンで馬とびしてる。こういうのを妄想するのが神代辰巳のスケベ魂だろう。
克が自分の正体を認めない理由が唐突にわかるのがラストなんだが、この場面では中川梨絵を前に乗せて、自転車こいでる。『明日に向って撃て!』だよねえ。

その中川梨絵もいいんだが、見せ場という意味では、映画館主の妻を演じた絵沢萌子が持ってく。
克が洋子たちと町を出ると告げると、3人の乗る車をひたすら追っかけてくのだ。
ほんとどこにそんな健脚がという位に、町はずれまで走る走る。
絵沢萌子の走りっぷりは、この映画のハイライトといっていい。

その後、すべてを諦めて、ハシゴを持ち出した彼女は、なにか高台にある施設の建物に、ハシゴを立てかけ、踏み台の上の方にヒモを括って、首に回す。
死ぬつもりだったが、踏み台が折れて、それも叶わず、そのふがいないという表情がね。
今回の特集上映で絵沢萌子は何度も見たが、この映画の彼女が一番よかった。
不思議と後を引く映画だったな。



『四畳半襖の裏張り』

ロマポル四畳半.jpg

永井荷風が書いたとされる戯作『四畳半襖の下張り』を、1972年に月刊誌「面白半分」に掲載したことで、当時の編集長だった野坂昭如が、刑法175条「わいせつ文書販売の罪」で起訴されたことは、おぼろげに憶えてる。
この映画はその荷風の原作をもとにした1973年作だが、見る限りどこが「わいせつ」と起訴までされるのか、ピンとこなかった。

頻発する米騒動や、連合国の要請に沿ったシベリア出兵など、不穏な空気に包まれる大正時代の置屋を舞台にしてる。
「男は金と思え」「初めての客に入れ込むな」など、芸者の心得とともに、芸者たちの悲喜こもごもが描かれる。

宮下順子は、その初めての客の男のすごい「床わざ」につい我を忘れてしまう芸者の役。
だがこのセックスシーンが長い。わざに反応してる様を細かく表現はしてるんだが、どうも興味が湧かない。
宮下順子は『赫い髪の女』とか『実録阿部定』とか、自分から攻めに入ってる時の方が本領が出るんじゃなかろうか。

絵沢萌子演じる置屋のおかみが、見習い芸者の芹明香に、女の武器の性能を高めるため、訓練させる場面もある。そのおかみも、段々と客もつかなくなり、そのフラストレーションを見習いへのレズ行為で晴らそうとする。
ロマポル久々のレズシーンかとテンション上がりかけたが、芹明香がこわばって震えてるだけで、早々に場面も切り替わった。つまらん。

あと幼なじみの芸者のもとに通ってくる兵隊のエピソードがある。来ても芸者の体が空いた頃には軍隊に戻らなきゃならない。軍隊での訓練場面もあるが、その過酷さが伝わるような描写じゃない。
なので、兵隊は明日はシベリア出兵で、もう戻れないかもしれないと、幼なじみの芸者と泣きながらセックスする場面も、芝居くさいと見えてしまう。

全体として、コメディタッチなのか、シリアスなのか、ねっとりなのか、俺には散漫に思えてしまって、世評ほどには感じられなかった。

あと『実録阿部定』のコメントした時に、山谷初男の幇間(たいこもち)のエピソードが、定の行為につながるなどと書いたんだが、それはこっちの映画のエピソードだった。
いやもう短期間にロマンポルノばかり見まくったんで、ごっちゃになってるのだ。どっちも宮下順子だし。
と言い訳しつつ訂正いたします。

2012年6月6日

nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:映画

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。