ロマポル⑫泉じゅんと総評 [生きつづけるロマンポルノ]

『天使のはらわた 赤い淫画』

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5月12日から6月1日まで、渋谷ユーロスペースで開催されてた「生きつづけるロマンポルノ」だが、その上映期間中に、「あなたが選ぶ日活ロマンポルノ」という投票が行われていて、結果、最多の得票を集め、最終日の最終回に上映されたのが、この映画。

俺は今回上映された32本の中から選ぶのかと思ってたら、そうではなく、すべての日活ロマンポルノ作品が対象だったんだな。
この『天使のはらわた 赤い淫画』は32本の中には入ってなかったのだ。

蓮實重彦、山田宏一、山根貞男という高名な映画評論家3氏がセレクトした今回の上映作以外から、観客が選出したというのは皮肉なもんだが、一つにはロマンポルノを代表するアイドル女優・泉じゅんの作品が1本もないじゃないかという不満と共に、2010年12月に自ら命を絶った、池田敏春監督を追悼したいという気分も、ロマンポルノファンの間にあったのだろう。


石井隆原作・脚本の「名美と村木」の物語である『天使のはらわた』の、映画化4作目となる、
1981年作。ヒロイン名美を演じる泉じゅんは、ロマンポルノでデビューした後、一時ヌードを封印して、一般映画に出てた。
俺はその時期に彼女が出た、伊藤俊也監督の怪作ホラー『犬神の悪霊(たたり)』くらいしか見てない。
泉じゅんがロマンポルノにカムバックした後に出たのがこの映画だ。
デビューした頃の写真なんかと比べると、当たり前に大人びてるが、ぽっちゃりした童顔のかわいさは残ってる。


池田敏春監督は冒頭、名美が人影に怯えて帰路に着く夜の場面から、画の切り取り方がシャープだ。
自分が付け回されてるという不安には、根拠があった。名美は以前デパートの同僚の女性店員から、モデルの代理を頼まれて、行った所がビニ本の撮影だったのだ。
無理矢理に写真を撮られ、あられもないポーズが満載のビニ本も売り出されてしまった。それ以来、誰かに付けられてると感じてるのだ。部屋に無言電話もかかるようになった。

だがあの屈辱の体験は、名美の体に淫靡な火を灯してもいた。
名美は部屋に入ると、ストーブにあたり、コタツの中で、自然に手は股間をまさぐっていた。

一方、安アパートの一室で、無職の青年・村木は、名美のビニ本を見つめていた。村木は名美の表情に取り憑かれてるようだった。
向かいの家の2階の部屋では、女子高生が生卵を使ってオナってる。村木が覗いてるのを承知してるかのように、カーテンは開け放ちてた。
村木はその様子を見た後に、再び名美の顔に視線を戻す。そして抑えが効かなくなる。
一人でやってると、名美の白い手が伸びてくる。村木と名美はローションプレイでもするように、互いがヌメヌメになりながら、やがてその妄想の中で果てる。


名美は売り場の主任と不倫関係にあった。だが主任はどこから手に入れたのか、名美のビニ本を持っていた。
いつものように名美をホテルに呼び出すが、そこで
「ビニ本が自分の所に送られてきた。従業員が出てると」と切り出した。
「上に報告するか、自分の所で止めておくか」
「だがそれも容易じゃない」
「これを機に、君の部屋で会わないか?ホテル代もバカにならないし、君に渡してる小遣いもね」
名美は恐喝まがいのセリフにきこえ、申し出を拒否する。
翌日、主任は上司に報告し、名美は職場を追われた。

盛り場をふらふらと歩く失意の名美を、村木は見かけて追いかける。名美は村木を例のストーカーだと思い、逃げ続ける。
だが自宅まで追いかけられ、窓から覗くと、村木はドシャ降りの雨の路上に立ち尽くしていた。
公園のジャングルジムに座り込む村木に、名美はそっと傘を差し出す。
「もう来ないで」
「私はビニ本の女なんかじゃないのよ!」
「話をきいてくれ、僕は付け回したいわけじゃないんだ」
「じゃあ、その手にしてるビニ本、破いてよ!」

村木は言う通りにするが、破いた紙切れを拾い集める。
「ばかじゃないの?」
そう言うと、名美はジャングルジムの中で、服を脱ぎ始めた。
「したいなら、していいわよ」
村木は名美を押し倒す。雨は降り続けてる。だが
「僕はこんなことしたいんじゃない」
「明日の夜7時、もう一度会ってほしい」
と言い残して立ち去る。


村木の向かいの家の女子高生が、帰宅の途中でいきなり男に襲われた。
男は少女の頭部を何度も建設現場の角材に打ち付ける。
絶命した少女を裸にして事に及ぶと、さらにその死体に放尿する。完全にイカれてる。
通行人が目撃して、男は姿を消す。

折から、村木のアパート周辺では下着泥棒が出没していて、村木に嫌疑がかかっていた。
娘が死体で発見されたと聞き、逆上した父親は猟銃を持ち出した。
そして丁度帰宅した村木に向けて引き金を引いた。


「名美と村木」のありがちな展開と見てたので、女子高生が殺されるくだりの唐突感には驚いた。
男が服を引きちぎる様子をローアングルで捉えていて、バックに副都心のビルの無数の明かりが灯ってる。
80年代初頭はまだあの辺は開発途中で、空き地や建設現場も点在してただろう。
死角となる場所は多かったはずだ。それにしてもの酷薄すぎる描写だったな。

名美と村木が対峙するジャングルジムの演出はよかった。
鉄柵ごしに雨が降りかかる仰角のアングルとか、そのシルバーとコントラスト見せる赤い傘。
ほかにもコタツの熱源の赤など、池田敏春監督の、その後の映画の色のこだわりに通じる要素が見てとれる。

性的な場面の演出では、絡みの体位とか、ねちっこさよりも、「あの部分」の音にかなりこだわってる。
ロマンポルノを見た中でも、こんなに生々しい音をつけてるのは他になかった。
池田監督にとっては、セックスは肉体が液状化するものというイメージがあったのか。
ラストの泉じゅんの表情が美しかったな。

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「生きつづけるロマンポルノ」通い終えて

結局今回の上映で32本中19本見たことになる。
期間の前半は気合入ってて、週末は日に4本とか見てたんだが、ロマンポルノのいい所は、大方の映画が80分以内ということ。だからハシゴしても、あんまり体に負担がかからない。
だがさすがに男女の絡みが必ず入るという同じフォーマットのものを、短期間に集中して見ることに、胸焼けも起こして、期間の後半は息切れした。

当初見ようと思ってた『赤線玉の井 ぬけられます』『濡れた荒野を走れ』『美少女プロレス 失神10秒前』を見逃してしまったのは悔いが残る。

この特集上映のコメントの1回目にも書いたが、俺はレズシーン以外には興奮しない性質なので、男女の絡みがバンバン出てきても、体は反応しない。
今回は客席内に「女性専用シート」を設けたこともあり、女性客の入場も目立ってて、満席の回などは、隣席に女性が座ることもあったが、場面に生唾のむようなこともほとんどないので余裕かましてられた。
それで19本見たけど、ロマンポルノというのは聞きしに勝るくらいに「レズシーン」に冷淡だね。
まあ70年代~80年代というと「レズNG」な女優がほとんどだったろうし、監督も関心がない人が多かったのか。
そういう意味では予想してた通りとはいえ、残念ではあった。

もともと絡みはどーでもよく、それ以外の描写に、面白みを見出そうと臨んでたわけだから、ロマンポルノの見方としちゃ、本末転倒というか、倒錯的ではあったんだが、「それ以外」の部分が見応えあったわけだし。

もう映画も40年近く見て来て、まだ「日活ロマンポルノ」という大きな鉱脈に手を触れてなかった、その今更ながらの「発見の歓び」は充分に味わえた。
魅力的な女優に何人も出会えたしね。

近年の日本映画は、肌触りはよくなってるけど、全体的にブリーチ施されて、画面から匂いが伝わってこない。
ロマンポルノには「映画にかぶりついてみろ!」という、野卑なまでのパワーが漲ってたんだなと実感した。もっと色んな作品を見てみたいが、DVDだと絡みの部分は早送りしてしまうから、やっぱりスクリーンで見たい。
今回とまた異なったセレクションで開催してほしい。

2012年6月7日

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