アイルランド田舎町のクセ強警官 [映画サ行]

『ザ・ガード~西部の相棒~』

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フィルムセンターで開催されてた「EUフィルムデーズ2012」で上映された『アイルランドの事件簿』を、俺はメインに据えてたのに、時間が取れず見逃した。
なんか気勢を削がれてしまい、結局『カロと神様』の1本しか見ずに終わったんだが、その『アイルランドの事件簿』が、題名を変えてDVDリリースとなり、こんなにすぐに見れるとはと喜んだよ。

主演はブレンダン・グリーソン。彼が主演のものでは、やはりDVDスルーとなった
2008年作『ヒットマンズ・レクイエム』が、「映画好きなら見なきゃダメ!」な設定と脚本のヒネリ方で、俺も続けて二度見たほどの傑作だった。

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その監督マーティン・マクドナーが製作総指揮を執り、弟のジョン・マイケル・マクドナーが監督・脚本を手がけたのが、この『ザ・ガード~西部の相棒~』だ。

どうも兄弟そろってヲタ体質のようで、この映画でも小ネタがいちいちマニアックなのだ。
ブレンダン・グリーソンは『ヒットマンズ・レクイエム』では、文学や古い史跡なんかに興味を示す、インテリ肌の殺し屋を演じてたが、今回はアイルランドの小さな田舎町の警官だ。


舞台となるゴールウェイは、地図で見ると、ダブリンやベルファストといった、イギリスに向かい合わせの位置にある主要都市とは、真逆の側にある海沿いの町だ。

映画に出てくる「田舎の駐在さん」というと、人は善いけど、とんちんかんみたいなステレオタイプに描かれがちだが、この映画の警官ジェリー・ボイルは、外観も内装もシックな一軒屋に住む独身で、ステレオからはチェット・ベイカーが流れ、DVDで何を見てるのかと思えば、スコモリフスキー監督の『シャウト』で、ジョン・ハートが叫び殺される場面を大音響で流してるという、「どんだけマニアックだよ!」という趣味をしてる。

思慮深いインテリなのかと思いきや、職務倫理が欠如してる。
猛スピードで目の前を走り去る車を、面倒くさそうにパトカーで追跡するが、先のカーブで車が大破するのを目撃すると、救急車を呼ぶ前に、死体のポケットをあさり、コカインを見つけるとくすねる。

非番の日には出張サービスの女たちに、婦警のコスプレさせて、管轄外の町に繰り出し、ホテルにしけこむ。
「こんな格好で外歩かせて捕まらない?」
「捕まえるのは俺だからな」

事件らしい事件も起きない田舎町に、突如起きた殺人事件。
ちょうどダブリンから若い警官エイダンが異動してきた。現場で死体や遺留品を素手で触りまくるボイルに、エイダンは呆れる。

壁に血文字で妙な数字が書かれてる。「快楽殺人か?」
テキトーな憶測をもとに捜査を始めるボイルのもとに、謎のタレこみ電話がかり、それに基づいて容疑者を尋問すると、被害者の男とは、バーで口論になり、殴りかかったが、殺してはいないと言う。
被害者の死亡推定時刻には別の場所にいたと。

エイダンは、ボイルの取っ付きにくさに手を焼くが、初日の捜査で少しは打ち解ける。
だがボイルと違って生真面目なエイダンの人生は、この日に最期を迎えてしまう。
ボイルと別れて夜のパトロール中に、不審な車を見かけて職質かけるが、車に乗ってた3人の男に撃ち殺されてしまうのだ。

その夜遅く、エイダンの妻のガブリエルが、ボイルの自宅を訪れる。
「主人が帰って来ない」と。
「異動したての警官が恨みを買うこともない、ましてこんな田舎町だ」
と、朝まで待って帰って来ないようなら、また連絡くれとガブリエルを帰す。


翌日ゴールウェイにFBI捜査官がやってきた。地元の警察官を集めたミーティングで、エバレット捜査官は、この町の港に、5億ポンド相当の麻薬の積荷が到着するという。ボイルが質問する
「その末端価格はどこの基準だ?」
いきなり何を言い出すのかと驚くエバレット。
「いや、あんたらの公表する末端価格は、俺が買ってるとこなんかのとは違うと思ってさ」
一同呆然。

さらにその取引に関与してるというマフィアの顔写真をスライドで見て、
「全部白人だな」
「いや麻薬の売人は黒人かメキシコ人じゃないのかと思ってさ」
エバレット捜査官は絶句した。彼は黒人だったのだ。
その暴言にも冷静を装い
「今のは差別発言と取られるぞ」
「アイルランドの文化みたいなもんだよ」
ボイルは、お前はもう黙ってろと上司から釘を刺される。

その容疑者のマフィアのスライドの中に、先日の殺人事件の被害者の顔もあった。
名はマコーミックという。あれはただの殺人事件じゃなさそうだ。
エイダンも見当たらないし、ボイルは案内役を兼ねて、エバレット捜査官と行動を共にすることに。

よく刑事映画で、初対面の相棒に「おれの家族の写真見るか?」っていう挨拶の手続きみたいなもんがあるけど、この映画でもエバレットが
「娘の写真見るか?」と言うと
「見たくない」
「思いっきりブサイクな娘なら笑えるから見たいが、普通なら見てもつまらん」
エバレットまたも絶句。


捜査本部から、どうも取引場所がゴールウェイから、かなり北方のスライゴになるようだとの情報が入り、二人は向かう。泊まりがけの捜査だ。
翌朝エバレットが海岸をランニングしてると、クソ寒そうな海で誰か泳いでる。ボイルだった。

朝食の席で「モスクワ五輪の競泳で4位だった」と聞かされ
「ウソつけ」とエバレット。
だがボイルはいたって真顔だ。
「4位じゃ参加してないも同じだがな」
まだ信じてないエバレットに
「黒人は泳げないんだろ?」
などと、またすれすれアウトな発言かますボイル。

しかも「今日はどの辺を捜査してく?」と水を向けると
「今日は非番だから仕事はしない」
と言い放つ。怒るより呆れるエバレットは「もういい!」と単独で聞き込みに向かう。

だがアイルランド北方の地での聞き込みは至難を極める。
まず「なんでここに黒人が?」というあからさまな偏見の視線。
なにを聞いてもゲイル語で返されるから、聞き込みにならない。英語はわかってるのに話さないのだ。
村人相手に埒があかず、しまいには馬に聞き込みするという自虐に走るエバレット。
演じるドン・チードルの「やってられない」感漂う表情がいいね。

ボイルは何してたかといえば、お決まりの出張サービスだ。
ゴールウェイに戻ると、バーでビールをあおるエバレット捜査官。ボイルもつきあって、杯を重ねるうちに、互いに胸襟を開き始める。
そのうちボイルが気づいた。このバーはマコーミックと、殺害の容疑者の男が喧嘩した場所だ。
店には防犯カメラがあった。

店からビデオを借りて、二人はボイルの自宅で検証し始める。
すると二人の喧嘩の場に、手配写真のマフィアも同席してた。
「あの男は殺人の罪を着せられたんじゃないか?」
となるとタレコミの電話の主も怪しい。二人の捜査は進展の気配を見せた。

その頃、海岸沿いの奥まった草村で、エイダンのパトカーが見つかった。
ボイルは彼の妻のガブリエルと現場に行った。
「自殺かな?」
「自殺する理由なんかないわ」
「女絡みでトラぶってたとか」
「彼はゲイよ」
予想もしないひと言だった。
ガブリエルはクロアチア出身で、ビザ取得のため、エイダンと結婚したのだと言う。
ボイルにはますます謎が深まった。


そのボイルは顔なじみのコールガール、シニードに呼び出されるが、その席に手配写真の男のひとり、スケフィントンが現れる。
ボイルは出張サービスを利用したホテルで、ふざけて写真を撮られていた。
シニードはスケフィントンと繋がっており、ボイルはまずその写真を見せられた。
その上で賄賂とおぼしき封筒をテーブルに置く。麻薬取引を見逃せという意味だ。
「受け取るいわれはないな」
ボイルは脅しにも賄賂にも動じる様子がない。
アイルランド中の警察は賄賂で黙らせることができるのに。
スケフィントンはボイルという男を値踏みするように、しばらく表情を見てると、席を立った。
シニードは「受け取らないと殺されるわよ」と警告した。

マフィアの3人は、厄介な警官のことについて話し合った。
リーダー格のスケフィントン、水族館でサメを見るのが大好きなコーネル、手を汚すのはオレアリーだった。

ボイルは捜査の途中で、自転車の少年に呼びとめられる。用水路にデカいバッグが沈んでると。
少年に手伝わせてバッグを引き上げると、中から大量の拳銃やライフルが出てきた。
ボイルは警察には持ち帰らずに、誰かに電話をかけた。

空港の駐車場にやってきたのは、IRAの幹部の男だった。銃器はIRAが隠したものだったのだ。
男はバッグを開けて「数が合わないな」と言う。ボイルは
「善意で俺がわざわざ動いたのに、疑うようなことを言うのか?」
ボイルの剣幕に幹部は謝罪した。実際はボイルがちょろまかしてるんだが。
小さな銃を指差し
「デリンジャーなんかIRAが使うのか?」
「ゲイが股間に隠しとくんだ」
「IRAにゲイがいるのか?」
「ああ、1人2人はな。」
「ゲイだとMI6とかに潜入しやすいんだよ」
このセリフには爆笑した。

夜になり、ボイルが家に戻ると、すでに来客があった。
オレアリーが銃を構えて座ってたのだ。


細かいくすぐりのような小ネタが満載で、それらがモザイク状にストーリーを形作ってるような印象がある。
『ザ・ガード~西部の相棒~』というDVDタイトルは、アイルランド北西部が舞台になってることと、クライマックスの趣向が「西部劇」風であることが所以となってるんだろう。
アクションの見せ場はそこだけと言ってもよく、兄マーティンの監督作『ヒットマンズ・レクイエム』のツイストの利かせ方と比べると、やや平坦な印象は否めない。

悪玉スケフィントンを、リーアム・カニンガム、一味のコーネルをマーク・ストロングが演じるという、層の厚いキャスティングだが、マフィアのくせに(?)詩や哲学の議論を戦わせたりしてる、この一味のインテリっぷりが、あまり行動に反映されてない所や、せっかくのマーク・ストロングに、見せ場が少ないなどの物足りなさも感じる。

意地悪な見方をすれば、ユニークな人物像を描くことに腐心して、そこで停まってしまったようにも思えるのだ。

それでもやはり小ネタには惹かれる。
ボイルとスケフィントンが睨み合うカフェではBGMにボビー・ジェントリーの『ビリー・ジョーに捧げる歌』なんて渋い曲が流れてる。スケフィントンが
「この歌は嫌いなんだよ。大体ビリー・ジョーって奴は、川から何投げたんだ?」
「赤ん坊じゃないのか?」
なんて歌詞に言及するセリフがある。
この曲を元に映画化されたのが、ロビー・ベンソンとグリニス・オコナーという『ジェレミー』コンビが再び共演した、1976年作『ビリー・ジョー/愛のかけ橋』だ。

それから映画のエンディングで、ドン・チードルの表情に被さるように流れる、
ジョン・デンヴァーの『悲しみのジェットプレイン』も余韻に浸らせてくれる。

とりあえずは、アンチヒーローすれすれの、ブレンダン・グリーソンの快演を見るべし。

2012年6月29日

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