バード・ウォッチングに金かかりすぎ [映画ハ行]

『ビッグ・ボーイズ しあわせの鳥を探して』

ビッグイヤー.jpg

俺の実家で昔から、ペットというと鳥を飼うことになっていて、鳥といえばインコで、インコといえばブルーボタンという種と決まってた。
一度、九官鳥を飼ったことがあったが、言葉は覚えるものの、毎日水浴びさせなきゃならないし、けっこう鳴き声が隣近所に響くし、手乗りにはならんしで、一代でやめた。

つい先だって、自分の住所を言えることから、無事飼い主の元に戻してもらえた、賢いセキセイインコが話題になってたが、ウチで飼ってたブルーボタンは、言葉は覚えないし、手乗りには一応なるが、気性が荒いんで、撫でようとすると噛み付いてくる。
それも「あまがみ」ではなく本気噛みなんで、何度も指が流血した。
しかしそばで眺めてるだけで、なんか楽しくなるのだ。
俺は「バード・ウォッチング」の趣味はないが、鳥を眺める楽しさはわかるんで、この映画の題材には期待を寄せてた。

ブルーボタン2.jpg

アメリカには「ビッグ・イヤー」という、バード・ウォッチャーなら一度は参加したいというイベントがあるという。
それは1月1日から12月31日まで、1年間の間に、アメリカ国内で何種類の鳥をウォッチできるか、その数を競うという競技だ。
証拠の写真や、鳴き声を録音したテープなどがあるにこしたことはないが、基本申告制となっており、「何月何日どこで見た」と参加者が言えば、それもカウントできる。
ゴルフと同じで参加者が紳士であるという前提に立ってるのだ。


3人の男が出てくる。オーウェン・ウィルソンが演じるのは、前回の競技で「732羽」という大会記録を打ち立てた「バード・ウォッチング」界のカリスマと称されるボスティック。
だが彼には成し得てない目標があった。
それはアメリカ国内に僅かに棲息が確認されてる「シロフクロウ」を見つけること。
今回こそはという思いがあった。美しい妻のジェシカの前でも、鳥の情報となると、気持ちは持ってかれてしまう。

スティーヴ・マーティン演じるスチューは、大会社のCEOであり、息子の嫁にも妊娠がわかり、初孫の誕生も近い。
だが彼も体力があるうちに「ビッグ・イヤー」に参加して、優勝したいという夢があった。

ジャック・ブラック演じるブラッドは原発で働くバツイチで、今は両親と同居の鳥オタク。
彼には鳴き声でその鳥を当てられるという才能があり、それは人の鳴き真似でもわかってしまうのだ。

「ビッグ・イヤー」に参加して、ボスティックに挑戦しようと5000ドルを貯めたが、まだ足りないので、父親に借金を申し出るが、「仕事も結婚もなに一つ続かないじゃないか」と、鳥の観察にうつつを抜かしてるように言われ、喧嘩となる始末。
ブラッドは10000ドルは必要と見積もってるから、日本円で80万円以上はかかるってことだ。


費用の大半は移動にかかる運賃だろう。金の問題だけではなく、バード・ウォッチャーには、それぞれ人脈があるようで、全米各地から珍しい鳥の目撃情報が寄せられる。
すると、すぐにでも荷造りして現地へ向かうということになるんで、時間にも融通が利くような生活を送ってないと無理だよな。
趣味の世界のこととはいえ、金と時間に余裕がないとできないことだ。

映画はボスティックに対して、ブラッドとスチューが共闘していくという構図で進められてくが、誰が優勝するのか?とか3人の観察数が画面でカウントされてく割りには、あまりスリリングに乗せられてく感じはない。
それは「生活者」からすれば道楽に見えてしまうからかもしれない。

アメリカ大陸は広大だし、鳥を追ってアラスカまで足を延ばしたりもするから、その変化に富んだ自然の美しさは堪能できるし、飽きずに見ることはできる。

だが肝心の「バード・ウォッチング」の楽しさが描き足りてない。
カメラが鳥を捉えても「あっ、見つけた!」で終わってしまって、その鳥のどのあたりが美しいのか、とか鳴き声をじっくり聞かせるとか、仕草の面白さとか、そういう部分にフォーカスしてかない。
主役は鳥ではなく、鳥に執り付かれた人間たちだからということなのか。

それとブラッド、スチュー、ボスティックと三者三様のバックグラウンドが描かれてるが、結局のところ「趣味はほどほどにね」という着地点を見出すにすぎないのだ。

だが「趣味」の世界というものは、往々にして人生を逸脱させてしまう「魔力」があるもので、「逸脱したっていいのだ」という、ある種の狂気めいた所にまで踏み込まないと、醍醐味を感じさせるには至らない。
思うにこの映画の製作者たちは、「鳥」にも格段興味があるわけではなく、人生引換えにして趣味に生きるってことも、考えてもみない人たちではないか?


ジャック・ブラック、オーウェン・ウィルソン、スティーヴ・マーティンという強力なキャスティングが組まれながら、全米興行では苦戦した。
その要因はまずこの顔ぶれなら、誰しもコメディ乗りを期待するはずだが、見てみると、弾けた要素はないのだ。
ジャック・ブラックは「オタク体質」というだけで、以前の傍若無人キャラはなりを潜め、ごくごく常識人を演じる大人しさだし、オーウェン・ウィルソンの人物像は、あまりに奥さんを省みなさすぎて、反感しか買わないだろう。

俺自身がミスキャストと思うのがスティーヴ・マーティンだ。まずCEOのスチューのエピソードが面白くない。彼は早いとこリタイアして「ビッグ・イヤー」に専念したいんだが、部下たちが常に彼の決定を待つ状態で、会社と鳥の現場を行ったり来たりを余儀なくされる。

以前のスティーヴ・マーティンなら、ドタバタぶりを体全体で表現して笑いをとっただろうが、なんかこの映画の彼は老け込んじゃってるのだ。コメディ役者としての覇気がなくなってる。
スティーヴ・マーティンじゃなくてもいいという演じ方で、逆に彼が出てるからと見に行った客は失望するだろう。

映画としてクォリティが低いわけではないのに、ヒットに至らなかったのは、観客の期待したものと、ちがうテイストに仕上がってたからだと思う。

映画のエンディング・クレジットと同時に、この記録更新となった今大会の、すべての「観察された鳥」がスチルで画面に次々出てきて、そこは楽しい。あの鳥はやはり写ってなかったな。

2012年7月3日

nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:映画

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。