順ぐりに復讐してくというシステム [映画ハ行]

『ハングリー・ラビット』

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ニューオリンズの高校で教鞭をとる国語教師の、美しい妻が、暴行魔に襲われ、ひどい怪我を負って病院へ担ぎこまれる。駆けつけた国語教師は、病院ロビーで見知らぬ男に声をかけられる。
犯人は特定されていて、我々が制裁を加えることができるという。
報酬は必要ないが、後で簡単な仕事をしてもらうことになる。
男を怪しんだ国語教師は申し出を断るが、男は連絡先を書いたメモを置いて立ち去る。


犯罪被害者による「復讐劇」は過去に多い。犯罪被害者の家族による「報復劇」となると、少し絞られてくる。一番名の通ってる所では、チャールズ・ブロンソンの『狼よさらば』だろう。
ジョディ・フォスターの『ブレイヴ・ワン』はその女性版の趣だった。

両作品とも、警察の対応に都合のいい部分があり、「復讐」のカタルシスを感じさせるような作りだったが、2001年の『イン・ザ・ベッドルーム』はもう少しリアルだった。

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メイン州の小さな町で開業医を営む中年夫婦。その実家に帰省中の大学生の息子が、隣の家の人妻と恋に落ちる。夫のDV男とは別居中だが、復縁を迫って押しかけてきた夫と諍いになり、開業医夫婦の息子は銃で射殺される。
だが裁判で殺意は認定されず、刑期は僅か5年に。しかも保釈まで認められてる。
息子を失ったことで夫婦の間にも軋みが生じ、苦悶の日々の末に、開業医は決断を下す。

トム・ウィルキンソンとシシー・スペイセクが演じてるから、「活劇」のカタルシスは生まれようがない。そうなることを慎重に排除しながら、このテーマに挑んだ映画だったのだ。
ちなみに隣の人妻を演じたマリサ・トメイの、熟れた色気たるや必殺級で、そりゃ大学生などイチコロだろうという説得力に溢れてた。
開業医の夫婦も彼女のことを受け入れて、一緒に食事を楽しむ間柄だっただけに、悲劇の度合いも深いのだ。


犯罪被害者の復讐に「第三者」が介在してくる、この『ハングリー・ラビット』のようなケースは過去に2本思いつく。
1983年のピーター・ハイアムズ監督の秀作『密殺集団』では、マイケル・ダグラス演じる判事は、犯罪犠牲者の身内というわけではない。

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だが明らかに凶悪犯罪の犯人と思われる被告が、警察の捜査手順の不備などを突かれて、州法に照らし合わせると無罪にせざるを得ない、「法の矛盾」に苦悩してる。
その主人公が古参の判事から「私設法廷」の存在を明かされる。9人の現役判事で構成されてるが、一人の高裁判事が自殺したため、席が空いてるという。

「私設法廷」の目的は、犯人が不当に無罪となった事件を再審理して、「有罪」と認めれば、刑の執行を「プロ」に依頼するというものだった。


1996年の『レイジング・ブレット 復讐の銃弾』は、全米興行ではトップ10入りしたが、日本ではこの題名でビデオスルーとなった、サリー・フィールド主演作。

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娘の誕生日の準備で買い物に出た母親が、留守宅の娘に電話すると、受話器の向こうでドアの呼び鈴が鳴る。娘が出たところを男に襲われ、電話の向こうで叫び声が聞こえる。
だが家までは遠く駆けつけることもできない。娘は暴行され殺された。

近所に住む犯人はすぐに逮捕されたが、検察の捜査に誤りがあったと、裁判ではあっさり不問に処される。担当した刑事は母親の心痛を察し、「犯罪被害者の家族の集まり」を紹介する。
夫とともにその集まりを訪れると、メンバーの中年男性から、「犯人に復讐する手段」があると聞かされる。意志があるなら手助けできるというのだ。

母親は恐ろしくなり、一旦は距離を置くが、自分の娘を殺した男は、法廷で互いに顔を見ており、その男は極悪にも、母親の前夫との間にもうけた娘にも接触してきた。
母親は「復讐する手段」を行使する覚悟を決める。

キーファー・サザーランドの鬼畜っぷりが堂に入ってた。エド・ハリスはほとんど役に立たん。
80年代以降は娯楽映画の職人という割り切った仕事ぶりだったジョン・シュレシンジャー監督作で、キャストも多彩なんだが、未公開に終わったのは、どこかしら底の浅さが否めないからでもあった。

このニコラス・ケイジの新作は『レイジング・ブレット 復讐の銃弾』の設定に一番近いかな。



ニコラス・ケイジ演じる国語教師ウィルは、暴力とは無縁の気の優しい男だ。だが病院のベッドに包帯だらけで横たわる妻の姿に、憤怒の念が湧き上がる。
ロビーで声をかけてきたのは、サイモンと名乗る男だった。
この「制裁」を加える組織のやり方は周到だった。
まず組織の人間が直接「制裁」を加えることはしない。犯罪被害者の身内に実行させるのだ。
だが当事者が犯人に手を下せば、すぐに警察に辿られてしまう。

そこで「見ず知らずの相手」に制裁を加えさせるのだ。つまり犯罪被害者の身内は何人もいる。
その一人の依頼を叶えてやる代わりに、今度はその身内に、別の事件の犯人への制裁を行わせる。
それを数珠繋ぎのように行っていけば、殺された犯人と、犯罪被害者の身内との接点は見出せなくなる。ヒッチコックの『見知らぬ乗客』の「交換殺人」の応用編だね。

迷った末に、サイモンからの申し出を受けたウィルの元に、射殺された暴行魔の写真と、ネックレスが入った封筒が届いた。
犯人が妻を襲った時に持ち去った、妻のネックレスに間違いなかった。
自分がプレゼントに贈ったばかりの物だったからだ。
ウィルは妻の復讐を遂げたという満足感などなく、サイモンの組織の底知れなさに恐怖を感じた。
だがもう引き返すことはできない。


事件からしばらく経って、妻のローラの傷も癒え始め、ウィルは改めて夫婦の絆が深まったように感じていた。ローラには、あの犯人は自殺したと告げていた。
サイモンのことも気に留めなくなっていた矢先に、「軽い仕事」の指示がきた。

小児性愛者が動物園に現れるから監視して報告しろという。渡された写真の男は、家族連れで動物園に現れ、特に不審な所もない。
だがその姿を監視してるウィル自身が、何者かにビデオカメラで撮影されていた。

サイモンに仕事は果たしたと告げると、今度は「その男を事故に見せかけて殺せ」と言う。
できるはずがない。
だがサイモンは小児性愛者による犠牲者の痛ましさを語り、制裁の正当性を説いた。
指令を拒否すると、サイモンの組織はウィルの自宅や、高校の教室の黒板にまでメッセージを残していった。
警察に話すこともできない。ウィル自身だけでなく、妻の身にも危険を感じ、指令を受けざるを得ない状況に追い詰められた。

小児性愛者の通勤ルートとなるバスの停留所で、実行に及べ。
ウィルはその言葉通りに、バスで男と乗り合わせた。だが実行前に本人と話をすべきと、停留所を下りて声をかけると、なぜか男は襲いかかってくる。
揉み合いとなり、男はバランスを崩して、歩道橋から道路へと落下して死んだ。
ウィルはその場を逃げ出すが、その周辺には監視カメラが備えてあった。


テレビのニュースで転落死の事故を告げてたが、死亡したのはジャーナリストだという。
サイモンの言った「小児性愛者」というのは事実なのか?

そもそもあの事件の晩に、なぜサイモンはあれほど早くウィルの前に現れたのか?
疑いは深まるばかりだが、いまやウィルは転落事故の重要参考人として、警察に追われる身にもなってしまっていた。


「闇の制裁組織」という設定に留まらずに、その正義の暴走に、犯罪被害の当事者が翻弄される展開が、サイコロの目のように局面を変えながら描かれていく。
この組織の手が非常に広範囲に広がってるという、その結末に至るまでの不気味さは、例えば
1970年代の『パララックス・ビュー』の組織の描写なんかに繋がってる感じがある。

サイモンを演じるガイ・ピアースは今回スキンヘッドということもあり、なにか近年のエド・ハリスに通じる「黒幕」路線のキャラでいけそうな雰囲気だ。
ニューオリンズ市警の警部補を演じるのは「アメリカの伊武雅刀」と俺が呼んでるザンダー・バークレイ。腹の底の読めないキャラを演じさせると絶妙だ。

妻のローラを演じるのはジャニュアリー・ジョーンズ。
『アンノウン』の時はミステリアスな妻の役だったが、今回は傷が回復するとともに、自衛のために射撃を習い、銃を所持するという、芯は強い女性を演じてる。
彼女はかなりの美人なんだが、それを押し出さない「さり気なさ」を持ってるのがいい。

ロジャー・ドナルドソン監督のベテランらしい、テンポを壊さない演出ぶりで、さくさく見れる。
中盤のウィルが警察に追われて、ハイウェイを横切る場面は、スタントも迫力がある。
急ブレーキかけてドリフトしてくるトラックの直前を走り抜ける所なんか、見てて腰が浮きそうだった。

あとこれはどうでもいいことなんだが、つい気づいたんで。
ロジャー・ドナルドソン監督はオーストラリア出身なんだが、ニコラス・ケイジは「オセアニア」出身の監督たちとよく組んでるのだ。
『ノウイング』のアレックス・プロヤス監督は生まれはエジプトだが、オーストラリア映画界でキャリアをスタートさせた。
『NEXT/ネクスト』のリー・タマホリ監督と、『ロード・オブ・ウォー』のアンドリュー・ニコル監督はニュージーランド出身。
オセアニア人の気質とウマが合うというようなことがあるんだろうか?

2012年7月8日

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