「MIB」の裏テーマをこじつけてみる [映画マ行]

『メン・イン・ブラック3』

メンインブラック3.jpg

2作目から10年ぶりに復活したシリーズ第3作のポスターのキー・アートが象徴的だ。
白人スターのトミー・リー・ジョーンズと、彼の若き日を演じるジョシュ・ブローリンを両脇に従えて、デンッと真ん中にウィル・スミス。
『MIB』はもはや『メン・イン・ブラック』の略称ではなく、『メイン・ブラック』、つまり
「メインはウィル・スミス」と宣言してるのだ。

もともと第1作の当初から、題名を「メイン・ブラック」と聞き違えてた人はけっこう居たらしい。
ネイティヴな発音で聞くと「メニンブラック」と聞こえ、俺はストラングラーズのアルバムを思い出したりしてたのだ。あれはよく聴いてたんで。

でもって『MIB』シリーズとストラングラーズのアルバムは、何の関係もないかというと、そんなことはなく、あのアルバムにはUFOをテーマにした曲もあり、「メニンブラック」という名の謎のキャラクターが出てくるんだが、その名前は、『MIB』で描かれた「黒服の男たち」の呼び名のもじりなのだ。ちなみにそのアルバムは1981年に発表されてる。


10年ぶりにエージェント・Jと、エージェント・Kのコンビの活躍を復活させるといっても、トミー・リー・ジョーンズはもう65才だ。アクションも辛くなってきてる。
そこでエージェント・Kを若返らせようとなった。しかし代役を立てるのは難しい。
二人の役者のコンビがしっかり定着してしまってる。
ではエージェント・Kの若き日を舞台にしよう。
そうすればトミー・リーの出番は少なくて済ませられる。

ウィル・スミスはどうする?タイムスリップさせて、若い時分のKに会わせるのだ。
そんな感じでアイデアがまとまったんだろうね。


月面にある重犯罪エイリアンを収容する刑務所から、ボグロダイド星の囚人ボリスが脱走し、地球に向かった。自分を捕らえて、40年間も檻の中に入れたエージェント・Kに復讐し、地球の運命を変えるために。
いつものようにエイリアン発見の通報を受け、現場に向かったJとKは、そこでボリスと出会う。
ボリスはKに向かい「お前は過去で死ぬ」と言い残し姿を消した。

1969年7月16日、フロリダの「ケープカナベラル空軍基地」が、その運命の場所だった。
若き日のエージェント・Kは、その「場所」でボリスを逮捕し、ボグロダイド星による地球侵略の企てを阻止してたのだ。
そのボリスが40年後のニューヨークにやって来たのは、禁じられてる「タイムスリップ」の前科を持つエイリアンの「雑貨屋」と接触して、タイムスリップ用のガジェットを手に入れるためだった。
そして1969年に戻って、Kを殺そうというのだ。

Jがボリスの企みに気づいた時は、すでに歴史が変えられた後だった。
バッテリー・パークの『MIB』本部に、Kの姿がないばかりか、自分の相棒も見ず知らずの奴に代わってる。
新任の上司エージェント・Oは「Kは40年前に死んでるのよ」などと話す。
「歴史が書き換えられてる」
Jは鍵を握る1969年7月へのタイムスリップに挑む覚悟を決めた。

この後の展開は、最近のハリウッド映画の流行りでもある、時代のカルチャー・ギャップ描写と、トミー・リー・ジョーンズの口調の癖を完璧に掴んだ、ジョシュ・ブローリンの芸達者ぶりで楽しませる。
タイムスリップの結末には、ジェームズの頭文字で「エージェント・J」と思われてた、その真の秘密も明かされる。


こっからは俺の妄想みたいな解釈なんだが、時代を「1969年」に設定してることに意味合いが潜んでると思う。
この映画で描かれるのは、アポロ11号の打ち上げと、ニューヨークに溢れるヒッピーたちだ。
1969年は史上最大のロックの祭典「ウッドストック」がニューヨーク近郊の小さな町で開催された年でもある。

アポロ11号は人類史上初めて「月」という、惑星に降り立つというミッションを成功させた。
一方若者たちの間では「ドラッグ」文化が一気に蔓延した。
地球の外にある場所に到達する「トリップ」と、精神世界の涯てをドラッグによって目指すような「トリップ」と、まったくベクトルの異なる「旅」によって象徴される年なのだ。

『MIB』の志向するSFのスタイルというのは、奇妙なモンスター星人が登場する1950年代から60年代前半にかけての、低予算SFの世界観を、大がかりに描き直してみようという所にあると思ってる。

SFという分野はその時代には「空想科学」と呼ばれていたが、アポロ11号が別の惑星に降り立つという事をなし得て、もはや「空想科学」の無邪気さは影を潜め、「実践科学」の領域に入ってしまった。
1969年を境に、もう突拍子もない形状の宇宙生物を楽しんでもらえるような、そんな雰囲気ではなくなったのだ。


『MIB』シリーズに出てくるエイリアンたちの形状は、ユーモラスなものもいるが、おしなべてグロテスクで、虫や爬虫類や甲殻類を思わせる。
なんでなのかと前から疑問なのだ。人類よりよっぽど早くから、惑星間飛行を成し遂げているような、洗練された文明を有した星の住人が、なぜ姿形は洗練されてないのかと。

ドラッグ中毒の禁断症状でよく言われるのが
「無数の虫が体を這い回ってる」とか、
「ヘビが床をうねってる」とかいうもの。

気色悪いエイリアンがぞろぞろ出てくる『MIB』の世界とは、実は禁断症状で見た幻覚の世界で、つまりこの映画はドラッグの禁断症状と戦う男が生み出したSF世界なのだ。


今回の映画で、書き換えられた現在の場面の中で、なぜかみんなチョコレート・ミルクを好んで飲んでるという描写がある。理由は映画では説明がなかった。

これもね、昔キース・リチャーズが、ドラッグを常習してた頃に、食べ物といえば、アイスクリーム以外は口にしなかったというエピソードを読んだことがあって、つまりは中毒患者は甘い物を欲するってことなんだと、強引にこじつけてみた。

今回ウィル・スミス演じる「J」が、タイムスリップするのに、クライスラー・タワー(だったかな?)のてっぺん辺りから飛び降りるって設定になってるけど、夢の定義の中で「飛び降りる夢」というのは、現在の自分に不安があるとか、自分の足元が定まらない感覚を反映してるなんて言われてる。

『MIB』シリーズにおいて、「エージェント・J」すなわちジェームズ・エドワーズの、家族や過去に関わる描写はなかった。エージェント・Jの潜在意識の中では、常に自分は何者なのか?という不安とのせめぎ合いが起こってた。
それが歴史が書き換えられたことで、自分と数少ない繋がりを持った存在のKも居なくなり、いよいよ不安が表面化したのだ。

タイムスリップのために飛び降りるというよりも、Jはすでに飛び降りる夢としてそれを見ていた。
そして映画の結末において、自分が何者であったかを悟り、ようやく魂の平穏を得るに至る。
そういう筋書きだったのだ。

それはドラッグの禁断症状に打ち勝ち、正気の自分を取り戻した証なのだ。
だからもうグロテスクなエイリアンたちは出てこないだろう。
このシリーズもこれで打ち止めだ。

2012年7月9日

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