フィルムセンターで『愛と哀しみのボレロ』 [映画ア行]

『愛と哀しみのボレロ』

愛と哀しみのボレロ.jpg

この29日まで京橋の「国立近代美術館フィルムセンター」で特集上映されている
「ロードショーとスクリーン ブームを呼んだ外国映画」のラインナップの中の1作。

クロード・ルルーシュ監督の184分に及ぶ音楽大河劇といえる大作だ。現在DVDも廃版なため、見ることな困難となってる映画でもある。
俺は1981年の公開時に見ていて、このブログの「俺の午前十時の映画祭(80年代編)」の50本に選んだコメントの中で、その時の感動を思い出しつつ書いた。
30年以上経って、今回スクリーンで見直して、
「やはり思い出というのは美化されるもんだなあ」
と嘆息してしまった。

フィルムセンターの入場料は基本500円なんだが、今回はなぜか「特別料金」の1000円だ。納得いかない常連客の姿もあったが、にしても客席は8割方は埋まってた。
カラヤン、グレン・ミラー、バレエのヌレエフ、エディット・ピアフといった、国籍の違う音楽家たちをモデルとしたと思しき、登場人物たちの、世代を跨いだ、第2次大戦下から、80年代初頭までの人生の歩みを、音楽を散りばめながら描いていく。


その中で実在の人物をモデルとしない、ユダヤ系フランス人の男女のエピソードが、この映画の軸となってる。

パリの有名なキャバレー「フォリー・ベルジュール」の楽団員として出会った、ピアニストのシモンとバイオリニストのアンヌ。
ふたりはすぐに恋に落ち、結婚して赤ちゃんも授かるが、パリはナチスドイツの占領下に置かれ、ユダヤ人狩りの末、二人は赤ちゃんを抱いたまま、強制収容所への貨物列車に乗せられる。

このユダヤ人狩りのシークェンスには時間が割かれており、俺は忘れてたが、小学校の教室にナチスの軍人が生徒をチェックしに来る場面があった。
男子生徒のズボンを下ろさせ、割礼のあとを確認するためだ。

ひとりユダヤ人の少年がいて、軍人は少年に名前を訊く。フランス人の名だが疑っている。
女性教師は「これはおできの痕です」と言い、キリスト教の祈りの言葉を少年に暗唱させる。
軍人は教室を出ていき
「憶えておいて良かったでしょう?」
と少年は教師に言われる。そんな場面があった。

貨物列車に乗せられたシモンとアンヌ。赤ちゃんは泣き止まない。貨物列車の車両には、トイレ用の穴が隅に開けられており、シモンは妻に「子供だけでも助けよう」と言う。
そして紙にペンで書き置きをする。
文面を読んで泣き叫ぶアンヌ。だがシモンはアンヌの腕から赤ちゃんを放すと、服にくるんでその穴から、停車中の駅の線路に、そっと下ろす。

紙には「ダビッド」と名づけられた赤ちゃんを拾った人間に宛て、指輪といくばくかの紙幣が包んであり、「戦争が終わるまで預かってほしい」と書かれていた。

だがフランス国境沿いのその駅で、赤ちゃんを拾った男は、金と指輪だけ持ち去り、赤ちゃんを村の教会の玄関先に置いて行った。


前にブログの中で、強制収容所で、ガス室におくられるシモンを見つめるアンヌの場面に泣けたと書いたんだが、俺はその時の、アンヌを演じたニコール・ガルシアの表情が強く残ってたと記憶してた。
でも今回見直すと、その場面は彼女はじかにシモンの最期を見てたわけではなかったんだな。

アンヌは収容所でもバイオリンを弾かされていて、その姿と、ガス室で扉を閉められるシモンの表情がカットバックされるという描かれ方だった。
まあ、いい場面ではあるんだが、どこらへんで泣けたのかが、見直すとわからなかった。


でもって、この映画の趣向というのは、カラヤンを除いて、前に書いた3人の音楽家も含め、それぞれの二世代を同じ役者が演じてるのだ。

ジャック・グレン(グレン・ミラー)とその息子をジェームズ・カーンが。
グレン・ミラーの事故死する妻と、その娘でのちに世界的シンガーとなるサラをジェラルディン・チャップリンが。
ボリショイ・バレエ団の選考委員で、スターリングラードで戦死したボリスと、その忘れ形身で後にボリショイ・バレエの花形ダンサーとなり、西側に亡命を果たすセルゲイ(ルドルフ・ヌレエフ)にはジョルジュ・ドンが。
占領下のパリのナイトクラブで歌うエブリーヌ(エディット・ピアフ)は、若いナチスのと恋に落ち妊娠するが、終戦後、敵と寝た女と吊るし上げられ、頭髪を刈られてパリを追放される。
生まれ故郷で私生児を生み、自殺する。祖父母に育てられたエディットは、美しく成人してパリに出る。その二役をエブリーヌ・ブイックスが演じてる。

エブリーヌが情を通じた軍楽隊長カール(ヘルベルト・フォン・カラヤン)を演じるのが、ポーランドの名優ダニエル・オルブリフスキだ。
つまり映画の中では、ピアフがカラヤンの子を宿したという描かれ方だ。
しかもカールはこの時すでにドイツには妻がいたのだ。


そのカールは戦後指揮者としてヨーロッパで名声を得るようになり、初のニューヨーク公演へと意気込んだ。チケットは完売という。
だがコンサート開始時間、カールの妻は舞台カーテンの隙間から客席を覗いて愕然となる。
客がいないのだ。
中央に男が二人だけ。新聞の音楽欄担当のライターだった。

だがカールは演奏を敢行した。演奏を終え、楽団員から拍手が沸く中、天井からビラが撒かれる。
それは1枚の写真で、カールが若い頃ベルリンでヒトラーの前で演奏し、声をかけられてる場面だった。チケットはニューヨーク在住のユダヤ人たちが買い占めてたのだ。
この場面は映画のハイライトのひとつだろう。


もちろん最大のハイライトは、映画終盤17分間に及ぶ、ユニセフ・チャリティ・イベントにおける、ジョルジュ・ドンによる「ボレロ」の舞だ。

ジョルジュ・ドンにばかり注目が集まってしまうが、彼が演じるセルゲイの母親タチアナを演じてるのが、この映画のバレエシーンの振り付けを担当してるモーリス・ベジャールの、劇団のプリマでもあるリタ・ポールブールドだ。
彼女が戦場のロシア兵への慰問先で、民族衣装でコサックダンスのような踊りを披露する場面があるんだが、この時の彼女が可愛い。
本当にロシア人形が踊ってるようで、ここは見直して「発見」できた場面だった。

総じて一世代目のドラマはそれなりに見応えもある。
グレン・ミラーのエピソードはとってつけた感が否めない。
アメリカ人だから、フランス人のクロード・ルルーシュには、さして思い入れる所もないんだろう。
戦時中のエピソードといえば、ジャック・グレン夫妻の隣人の、いつも喧嘩してる双子の兄弟が、ノルマンディ上陸作戦の、パラシュート降下の最中に撃たれて死ぬという位だ。


戦後の二世代目のエピソードが面白くないのだ。
その要因として、同じ役者が親と子の世代を演じ分けてるんで、わかり易いのか、ややこしいのか、よくわからん状態に陥るということがある。

最たるものが、無名のフランス人の楽団員を演じたロベール・オッセンとニコール・ガルシアのケースで、特にロベール・オッセン演じるシモンは、ガス室で早々に命を絶たれるわけだが、彼らが託した赤ちゃんのダビッドを育てた、教会の牧師もロベール・オッセンが演じてる。
さらにダビッドではなく「ロベール」と名付けられた、シモンの息子の役もロベール・オッセンが演じてるんで、どこかしこにもロベール・オッセンが出てきてしまうのだ。

シモンの妻アンヌは、強制収容所から生きて戻り、戦後も楽団員として活動したが、頻繁に自分たちが赤ちゃんを置き去りにした、あの駅を訪れ、その消息を辿ろうとし続けてた。
一方作家として名をなしたロベールは、自分の出生の秘密を初めて知り、自分を生んだ母親が、今は精神を病んで施設にいることを突き止める。

息子と母親が再会を果たす場面は、終盤の「ボレロ」の旋律とともに描かれていて、施設の庭のベンチに座る二人を、かなりのロングの画で捉えた演出自体は上手いと思うのだが、どうしても夫婦だったロベール・オッセンとニコール・ガルシアが、母と息子として再会する、その絵づらが喉に引っ掛かってしまう。

グレン・ミラーのエピソードは二世代目に入って、さらに混迷を深めてく。ジェームズ・カーンは父親ジャックと、その息子でゲイのジェイソンを演じ、ジェラルディン・チャップリンは、交通事故で死亡した妻と、その娘の二役。
娘のサラは兄のジェイソンのサポートで、シンガーとして大成功を収めてるという設定だ。
劇中のセリフには「ビートルズに匹敵する人気」とか「世界中で1600万枚のレコードを売った」
多分、兄弟ということからカーペンターズをモデルにしてるんだろう。

まあカレン・カーペンターも決して美人というわけじゃないが、彼女にはあの歌声があったし、やはりスターのオーラがあった。
ジェラルディン・チャップリンには悪いが、華なさすぎ!
とても世界的人気シンガーには見えない。

この二世代目の描写でいかんと思うのは、シモンの息子ロベールを巡るエピソードが散漫なことだ。
アルジェリア戦争に従軍した戦友たちと友情を育むという展開だが、それまでの音楽絡みと関係なくなる。
当時フランスで有望視されてたリシャール・ボーランジェや、フランシス・ユステといった若い役者たちを出演させたいというだけの意図に感じられるのだ。
彼らのエピソードがペラい。


映画の流れとしては、前半で培った貯金も、後半で使い果たし、なんとかジョルジュ・ドンで元をとったみたいな。
この劇場公開版より長い4時間を越えるバージョンもあるらしい。
もっと描き込みがなされてるんだろうか。

2012年7月26日

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