フィルムセンターで『コンボイ』 [映画カ行]

『コンボイ』

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この29日まで京橋の「国立近代美術館フィルムセンター」で特集上映されていた「ロードショーとスクリーン ブームを呼んだ外国映画」のラインナップの中の1作。

6本見た中で一番プリントの状態が悪かった。前半の方のリールでは、「バラバラバラバラ」というノイズがしばらく乗っかっていて集中力を妨げる。


1978年公開のサム・ペキンパー監督作。見るのはその公開時以来のことだ。
ラストの見せ場は憶えてたが、ほかはほとんど憶えてなくて、初めて見るような新鮮さで楽しめた。

70年代には大型トラックを転がすアクション映画がけっこう作られてたね。
バート・レイノルズの『トランザム7000』シリーズはその代表みたいなもんだが、ほかにもジャン・マイケル=ヴィンセント主演の『爆走トラック'76』とか、
ピーター・フォンダ主演の『ハイ・ローリング』とか。
『マッドマックス2』でもメル・ギブソンが、クライマックスのチェイスシーンでは、タンクローリー転がしてたし、スピルバーグの『激突!』も、タンクローリーの馬力と迫力を強烈に印象づけた。

久方ぶりにトラック野郎のアクションを見たのは1998年の『ブラック・ドッグ』だった。
主演は今は亡きパトリック・スウェイジ。
髪も短く刈って、ずいぶんと渋くなったなと思ったもんだが。
最近活躍の目立つ伊原剛志って、パトリック・スウェイジとカブる感じがある。

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俺は『リアル・スティール』が気に入ってるんだが、それはヒュー・ジャックマン演じる主人公が、大型トラックで移動してるからという理由もある。


この『コンボイ』では、クリス・クリストファーソン演じるラバー・ダックが転がす黒のMACKトラックをはじめ、船団(コンボイ)を組むようにハイウェイをトラックが連なってくのが壮観なんだが、アメリカのトラックはとにかく無骨なんだよね。

一時期日本でブームになった「デコトラ」とは対照的だ。
あのデコトラは、その精神的なルーツをたどれば、祭りの「山車(だし)」から来てるのだろう。
煌びやかな装飾の中に、自分がどこの土地の者かを示す地名なども書かれている。
思い思いの装飾で自分をアピールし、自分の土地を誇らしげにアピールする。
それは自分の故郷の祭りで「山車」を担ぐ誇らしさに通じてる。
日本のトラッカーたちは自分のルーツを背負ってると言える。

アメリカの陸送トラックのルーツはなにかと言えば、西部開拓時代の幌馬車隊だろう。
当時のアメリカ人たちには、ルーツとなる土地は、海の向こうの捨ててきた国だ。
もう戻ることもない。
幌馬車隊は、新天地でこれから「ルーツ」となる土地を探して旅をするのだ。

幌馬車隊はいつ襲撃を受けるかわからないから、馬車を煌びやかに飾るなんてことはできない。
祭りの「山車」と違って祝祭とは無縁の、無事目的地に着くための、無骨な装いとなってる。
その精神が、現在のアメリカのトラックの風貌に引き継がれてるんじゃないか?

なので、この『コンボイ』も、ペキンパーが撮ってるということ以前に「西部劇」の再生となるのは必然だろう。
船団を組んで荒野のハイウェイを連なるトラックは、幌馬車隊そのままだし、不当な差別の上、留置場に入れられた仲間を、ひとり助けに行ったラバー・ダックのトラックに、後から追ってきた他の仲間のトラックが合流する場面。

テキサスのアルバレスという町の入り口に、トラックが道からはみ出して、何台も横並びに位置を取る。そして戦闘開始の雄叫びのように、警笛を一斉に鳴らす。
ここなんかは、西部劇でガンマンたちが、馬で横並びになる、あの構図をトラックで再現しててシビれるのだ。


映画はクリス・クリストファーソン演じるラバー・ダックと、トラッカーを目の仇にするアーネスト・ボーグナイン演じる悪辣な保安官ライルとの、対決の構図で描かれてく。
ただペキンパーの演出に、以前ほどの粘り腰が感じられないので、どうも全体的に淡白なアクションになってしまってる。

レストランでの乱闘場面や、クライマックスのアクション場面での、ペキンパーのトレードマークとなった「スロー撮影」も、エモーションを高めるに至らず、セルフ・パロディのように映る。
もっとも公開当時から、もう「ペキンパーのスロー」を期待するのも流行らないという気分はあった。

アーネスト・ボーグナインの「目の仇」キャラといえば、アルドリッチ監督の『北国の帝王』で、ホーボーたちの無賃乗車を絶対許さないという、鬼の車掌を即座に連想する。
あの映画のキャラは、職務と人間憎悪が混在して有無を言わさぬ恐怖を発散させてたが、この『コンボイ』の保安官というのは、難癖つけて罰金を巻き上げよう位の、「イヤな奴」レベルなんで、いざこざが、ちんまりした感じで展開されてる感が否めない。

それでもラバー・ダックが保安官をレストランでブン殴ったことから、トラブルがデカくなって、州境を越えようとするラバー・ダックと、その仲間たち、追う警官隊、ラバー・ダックを援護するため駆けつけるトラッカーたちで、ハイウェイは騒然となり、マスコミも動き出す。

選挙を控えた州知事は、票取りに利用できると、ラバー・ダックを労働者たちのヒーローに仕立て上げ、自分が応援する立場のように演出を図る。
追われる者が、次第に社会のヒーローに祭り上げられてというのは、アメリカ映画にはよくあるパターンで新鮮味はない。


トラック野郎たちがCBで交わす会話のやりとりは面白いし、ラバー・ダックに惚れてるレストランのウェイトレスの描き方なんかいいね。
船乗りだと「港港に女あり」なんて言われるが、トラック野郎の場合は「酒場酒場に女あり」ってとこか。
このウェイトレスのヴァイオレットは、ラバー・ダックが店に立ち寄るのを心待ちにしてる。
ラバー・ダックの誕生日が近いからと、プレゼントを用意したと言って、
「トラックの中で見せるから」と鍵を受け取る。

ラバー・ダックがトラックに戻ると、体にリボンを巻いて待ってるヴァイオレット。
だがラバー・ダックは、ちょっと前にハイウェイで知り合った、ジャガーXKEを運転するアリ・マッグローをトラックに乗せることに決めていた。
彼女がオイル漏れを起こしたジャガーを売っ払って、その先の足に困ってたからだ。
ふつうなら「アタシがいるのに、こんな女と!」
とキレそうなもんだが、ヴァイオレットは
「彼をよろしくね」と見送るのだ。なんだよ、いい女じゃないか。

キャシー・イェーツという女優のことは俺は知らなかったが、ちょっとテリー・ガーのような雰囲気がある。

ヴァイオレンスの巨匠の映画でありながら、カー・クラッシュや家屋粉砕や銃撃戦までありながら、死人はひとりも出ないという、その意外性は悪くない。

前にもこのブログで書いたが、C・W・マッコールの全米ナンバー1ヒット『コンボイ』の歌詞をヒントに作られた映画で、劇中に流れるのはC・W・マッコール自らが映画用に歌詞もアレンジしたバージョン。
エンディングにオリジナル版が流れてる。

2012年7月29日

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