フィルムセンターで『カサンドラ・クロス』 [映画カ行]

『カサンドラ・クロス』

カサンドラクロス.jpg

この29日まで京橋の「国立近代美術館フィルムセンター」で特集上映されていた「ロードショーとスクリーン ブームを呼んだ外国映画」のラインナップの中の1作。

1976年12月に「お正月映画」として、本命の『キングコング』(東宝東和)への対抗馬となった、日本ヘラルド映画配給作。
オールスターによるパニック大作だが、イタリア人プロデューサー、カルロ・ポンティが指揮を執り、ヨーロッパ資本で作られてるのが目新しかった。
なので当時アメリカでは大きな興行も打たれてないのだ。
アメリカが悪者扱いされてるのも、そんな製作の背景があるからだ。


ジュネーブにあるIHO(国際保健機構)に、救急隊員と患者を装ったテロリストが侵入。爆弾を仕掛けようとして、警備兵と撃ち合いになり、細菌研究室に逃げ込む。
警備兵の銃弾が細菌を保管するケースを破壊し、テロリスト二人は飛び散った細菌をモロに被る。
一人は窓を破って逃走し、ジュネーブからストックホルムへと向かう大陸横断列車に乗り込んだ。
取り押さえられたテロリストは、そのまま病室へ移されるが、すでに感染は体全体に広がっていた。

診察したスイス人の女医エレナは、伝染病の症状を疑った。
ほどなくアメリカ陸軍情報部のマッケンジー大佐がIHOに現れた。テロリストが浴びたのは、アメリカ軍が細菌兵器として開発途中の伝染病菌だと認めた。
逃げたもう一人を一刻も早く確保しないと、ヨーロッパ中に伝染してしまう。

大佐は病室にいるテロリストの所持品から、大陸横断列車の往復切符を見つけた。
もう一人はその列車の中だ。
乗客名簿を調べると、エレナもその名前を知る著名な医師チェンバレンが、偶然乗り合わせていた。

マッケンジー大佐は無線で大陸横断列車と交信、チェンバレンを呼び出して、事の顛末を説明すると、車内に潜むテロリストを探し出すよう告げる。大佐は言った。
「千人の乗客を隔離して、検疫収容するため、列車の進路を変える」


列車はポイントを切り替え、ポーランドのヤノフへと向かうことに。途中ニュールンベルグで列車は停車し、警備兵と医療班を乗り込ませた。
すでに車内で発見されたテロリストは、多くの乗客と接触しており、伝染病の症状を示す乗客たちも増えつつあった。
列車の昇降口、窓、通気口はすべて鉄板などでシールドされ、車内には高濃度酸素が送りこまれた。

この進路変更に恐怖したのは、ユダヤ人の老セールスマン、キャプランだった。
目的地であるヤノフには、第2次大戦時に、ナチスの強制収容所があり、キャプランの妻子はそこで命を絶たれていた。
しかもヤノフへ行く途中には「カサンドラ・クロッシング」と呼ばれる長い鉄橋が架かってる。
その鉄橋は終戦後は老朽化を理由に封鎖されており、橋の下の住民たちも立ち退いているのだと言う。


キャプランの口調が真に迫っており、チェンバレンは鉄橋の前で列車を停車すべきだと、大佐に掛け合うが、大佐は橋の安全性を確認してると取り合わない。

チェンバレンは通話口の向こうの、顔の見えないマッケンジー大佐の態度から、恐るべき意図を嗅ぎ取った。アメリカ軍は開発した細菌兵器の情報を隠蔽するため、千人の乗客たちの命を、列車もろとも橋から突き落としてしまおうとしてる。
チェンバレンは乗客の中から有志を募り、列車の奪還に動き出した。


各国から多彩な顔ぶれを揃えたキャストの中で、肝だと思うのは、マッケンジー大佐を演じたバート・ランカスターだろう。
なぜかと言うと、彼は過去に「列車を奪還」する側の主人公を演じたことがあるのだ。
1964年のジョン・フランケンハイマー監督作『大列車作戦』だ。

大列車作戦.jpg

第2次大戦で敗戦濃厚となったナチスドイツの大佐が、パリから名のある美術品を、根こそぎ47両編成の貨物列車で、ベルリンへと持ち去ろうと計画する。
軍事費に充てるという名目だったが、実際は大佐個人の欲望によるものだった。

フランス国有鉄道の操車係長ラビッシュは、仲間とともにレジスタンスとして立ち上がり、列車のベルリン到着を、様々なサボタージュで阻止していく。

中でも面白かったのは、列車には当然ナチスの警備兵たちが乗ってるわけだが、彼らは駅名がドイツ語に変わり、ベルリンが近づいてると喜んでる。だがそれはレジスタンスたちが、駅名表示板を架けかえていて、実際は列車はパリの周りを一晩中廻っていただけというもの。

ラビッシュを演じたバート・ランカスターは、映画の世界に入る前は、サーカスの団員だった。その身体能力が走る列車でのアクションに活かされていたのだ。

『大列車作戦』で列車の進路を阻止しようと体を張ってたランカスターが、この『カサンドラ・クロス』では、列車の見えない位置から、いわば遠隔操作のように、陰謀の進路へと向かわせる役回りに転じてる。


その陰謀を阻止しようとするチェンバレン医師を演じるのがリチャード・ハリスだ。
70年代のハリスは「映画のヒーロー」の一人だった。
だがマックィーンのようなひと目でわかるヒーローっぽさはない。
思えばルックスもちょっと不思議だ。般若のような顔立ちなのに、頭髪はポップス歌手みたいな、やんわりとしたウェーブがかかってる。そのアンバランス。マッチョ体形でもない。

でもこの人が「こうだ」と言うと、なんか説得されてしまうような、「修羅場」に強そうな大人な感じがあるんだね。

この人が実質主役なんだが、クレジットのトップにはソフィア・ローレンの名が。キャリアからいえばリチャード・ハリスより上だけど、前にも書いたが「男の活劇」にしゃしゃり出てくる悪い癖があるんだよ。この映画でも別に出てなくてもいい役だ。
製作してるのが旦那のカルロ・ポンティだから、ゴリ押しって感じもあるな。

その二人に次いで、クレジットの3番目に上がってるのが、当時はまだ名が知られてなかったマーティン・シーンだ。けっこうなスターが並んでる中で3番目というのは大したもんだが、俺も当時は顔を憶えたばかりで注目してたのだ。

マーティン・シーンは、エヴァ・ガードナー演じる武器製造メーカーの社長夫人のツバメみたいな存在で、その実は麻薬密輸の手配犯ナバロを演じてる。
社長夫人と同伴してれば、国境もフリーパスで通れることを見越してた。
まあ、ろくでなしなんだが、映画の最初の会話の中で、ナバロが「アルピニスト」でもあるというセリフが、後半のスタントの見せ場への伏線になってる。

そのナバロを秘かに追ってきた麻薬捜査官を演じるのがO・J・シンプソンだ。
実生活で追われる身になるのは、まだ先のことである。

オージェーシンプソン.jpg

細菌兵器というのは、ナチスの強制収容所の「ガス室」を思わせ、シールドされた大陸横断列車は、強制収容所へユダヤ人たちを送りこんだ貨物車を当然思わせる。
ドイツの戦犯を裁いたニュールンベルグが、死へのポイント切り替え地点に設定されてるのも露骨な暗喩だ。
ちょっと社会派を気取ったあたりに、逆に底の浅さも指摘されてきた作品だが、汚染の被害者や、その事実を隠蔽しようする、国家権力の姿勢というのは、つい最近日本人が身に染みて味わったことだけに、このパニック映画をもう「絵空事」と笑えないのが情けない。

昔封切りを見た時には、感じなかったことだが、今回見直して、この映画には、一度も列車の機関士の姿が映らなかったのが気になった。
自動走行なんかできる車両ではないし、当然機関士は乗ってるはずだ。
こんな国際列車の運転を任されるんだから、それなりにキャリアも積んでるだろうし、ということは鉄路にも熟知してるだろう。
ヤノフへ向かう線は廃線となってて、しかも渡るには危険な老朽化した橋の存在も知ってるはず。
なぜすんなりと列車は向かってしまうのか?

どういう説得をされたか、または脅しをかけられてたのか?それともニュールンベルグで列車を下ろされ、軍の人間が代わりに運転席に座ったのか。
橋の直前で機関車両から飛び降りるような算段だったのか?
そこを数カットでも入れ込んでほしかった。
いやそういう描写を俺が見落としてたのかな。どうも釈然としないのだ。

2012年7月30日

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