ノルウェー基地からの物体X [映画ヤ行]

『遊星からの物体Ⅹ ファースト・コンタクト』

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シネコンで見たが、意外に客は入ってた。年齢層は高かったね。ほとんどの人が、1982年のジョン・カーペンター監督版を見てるということなんだろう。

このプリクエル(前日譚)の企画には必然性がある。
1982年版では、冒頭に南極のノルウェー基地が壊滅状態にあることが描かれてた。
そのノルウェー基地で何があったのかを描こうというのだから。
この映画のエンディングで、まさに1982年版の冒頭場面につながるのを見て「おおっ」と感嘆してしまった。

これは『スター・ウォーズ』6部作のように、あとからルーク・スカイウォーカーの子供時代に遡っての「新3部作」を作ったのと違い、まさにその前日までを描いてるので、特殊メイクに至るまで、ロブ・ボッディンの造形を踏襲して作られてるように見える。


コロンビア大学の女性古生物学者ケイトは、研究室を訪れたノルウェー人のハルバソン博士から、南極で興味深い発見があった事を告げられる。太古の氷層に、未知の物体らしき物が埋まってるという。
古生物の知識がある人間が必要と、声をかけられたのだ。

アメリカ人パイロットのカーターが操縦する、物資輸送用のヘリで、南極ノルウェー基地に降り立ったケイトたち一行。
物体が埋まる部分の氷塊を切り出し、基地へと運び入れる。

ハルバソン博士は、体液サンプルを取り出すため、ドリルで氷塊に穴を開けさせる。
ケイトは不用意と感じたが、ここでは博士がリーダーだった。
調べた結果、地球上のどの生物にも合致しないとわかり、ノルウェー基地の隊員たちは、世紀の発見に沸いた。
だが祝杯を上げる最中、保管庫におかれた氷塊を突如突き破り、その物体は屋外へと逃げた。


非常事態に、ノルウェーの隊員たちや、アメリカ人のカーターたちも加わって、敷地内の捜索が開始される。
だが隊員の一人が、物体につかまり、呑み込まれてしまう。それはおぞましい光景だった。
かけつけた隊員は、火炎放射器で物体を、呑み込まれた仲間もろとも焼き尽くした。

犠牲者が出たことで基地内には動揺が広がった。だがハルバソン博士は冷静だった。
焼け焦げたその物体を、施設内に運び込んで、解剖することにした。
ケイトも手伝うことになった。

甲殻類ともなんとも形容のしがたい、その物体の胴体部分を裂いてみると、呑み込まれた隊員の死体が、皮膜に覆われた部分の下から、そのままの姿で現れた。
ケイトは皮膜の外側に金属を発見した。
仲間の隊員にきくと、犠牲となった隊員は、骨にボルトを埋め込んでいたという。
ケイトは「なんでボルトは、犠牲者の内側から見つからなかったのかしら?」
と疑問を呈した。ハルバソン博士も
「いい質問だ」とつぶやくのみだ。


捜索中に怪我を負った別の隊員を病院へ運ぶため、カーターたちはヘリを出すことにした。
カーターと相棒のジェイムソン、怪我人に付き添うノルウェー隊員の4人。
ヘリは基地を飛び立つが、その頃、ケイトは洗面所で妙な物を見つける。
床に散乱するのは金歯だった。

そしてシャワー室のカーテンをめくると、血まみれの肉の塊が。
ケイトの中で、金歯とボルトの意味する所がはっきりした。だがそんなことがありうるのか?

ケイトはヘリを呼び戻そうと手を振るが、ヘリの機内は凄惨な事態となっていた。
ヘリはコントロールを失いつつ、山の尾根の向こう側で黒煙を上げた。


ケイトはハルバソン博士の助手のアダムと、顕微鏡を覗き、恐ろしい仮説を導き出す。
採取された物体の細胞と、人間の細胞を一緒にすると、物体の細胞が瞬く間に、人間の細胞を侵食していき、ついには、人間の細胞そのものに変化してしまうのだ。
ということは、その物体は人間の姿に化けることができる。
そして物体がこの南極大陸を出るようなことになれば、人類はたちどころに、侵略を許してしまうことになる。

まさにその仮説通りに、基地内の隊員の一人がすでに乗っ取られ、物体はその体を破って、凄まじい形態となり、ケイトたちに襲いかかってきた。
パニックとなる基地の隊員たち。頼みの綱は火炎放射器。
なんとか退治した後、ケイトは博士を含む全員を前に、仮説を唱える。

物体は人間をコピーできる。残された基地内の人間の中に、物体が紛れ込んでる可能性がある。
そして全員の血液を検査するよう提案する。
時を同じくして、墜落して絶望と思われてたヘリから、カーターとジェイムソンが生きて戻ってきた。
だがあの事故から生還できるとはにわかに信じ難い。
二人は検査が済むまで、倉庫で拘束されることに。

血液が集められ、検査を行おうとした矢先、何者かが研究室に火を放った。
明らかに都合が悪いと感じてる人物がいる。
ノルウェー人の隊員たちと、言葉がわからないアメリカ人。功名心に駆られる博士。
ただですら一つにまとまるのが難しい基地内の人間たち。
そして墜落から生還したアメリカ人二人。
その中に偽者が潜んでいるかもしれないのだ。

ケイトは偽者を見分ける術をもう一つ思いついた。
物体は生命体はコピーできるが、人工物はできない。
だからボルトや金歯は、はじかれていたのだ。
ケイトは基地に残された人間たちの、口の中を調べることを提案する。


CMディレクターから映画監督へ転身して一作目という、マティス・ヴァン・ヘイニンゲンJrの演出は、もう気前いい位に、ロブ・ボッディン・テイストの物体の襲撃描写を入れ込んでくる。

テンポも悪くないんだが、ノルウェー基地内で起こった事態というのが、その後アメリカ基地で起こった事と同じなわけで、前日譚でありながら、常にジョン・カーペンター監督版の残像を、見る側もトレースしてるような気分になる。
リメイク版を見てる気分なのだ。

そうなると、カーペンター版にあった、ブラックユーモアとも思えるショック描写が、今回の映画には欠けている。
例えばハスキー犬の顔が「パカァ」だったり、
リチャード・ダイサート演じるドクターが、心臓マッサージを施そうとして、死体の胴体が「パカァ」と割れて、中に巨大な歯が生えてて、その歯に両腕を噛み千切られて「ギャーッ」だったり、

ドナルド・モファット演じるアメリカ基地のリーダーが、物体に乗っ取られた隊員に、頬っぺたに指をズブズブ入れられて殺されたり、そういうインパクトある描写がない。

ドナルド・モファットは『ライトスタッフ』でジョンソン大統領を演じた役者だが、本当に指をズブズブ入れたくなるような頬っぺたをしてるのだ。なんかゴムでできたような顔面でね。

キャスティングからして、カーペンター版に比べて、地味でどうにもならん感じはある。
主役を女性にした新味はあるが、カーターを演じたジョエル・エドガートンは、ヘリのパイロットという役柄からも、1982年版のカート・ラッセルのポジションに置かれてるのだろう。


もうひとつ新味といえば、1982年版では最初に機体を映すのみだった、物体が乗ってきた宇宙船が、今回は見せ場としてフィーチャーされてる。

映画の終わり近くに、1982年版のエンニオ・モリコーネによる、スコアが流れるのはたまらない。
やはり「物体Ⅹ」というと、あの心臓の脈打つような「ボボン、ボボン」というメインテーマなんだよな。

2012年8月18日

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