女優が美しさを競う古典怪談 [映画カ行]

『画皮 あやかしの恋』

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レスリー・チャンとジョイ・ウォンの『チャイニーズ・ゴースト・ストーリー』を見たのも随分昔のことになるが、なんか久々にそんな感じのファンタジーに思えた。

それもそのはずで、原作となる、清の時代に書かれた「聊斎志異(りょうさいしい)」という短編怪談集には、この『画皮 あやかしの恋』と共に『チャイニーズ・ゴースト・ストーリー』の元になる短編も収められてるのだという。


若き将軍・王生(ワン・シェン)は、西域での合戦に臨み、砂漠の盗賊に捕らえられていた美女・小唯(シャオウェイ)を救い出す。盗賊はその時すでに絶命していた。
王生は小唯を片腕で脇に抱え、連れ出した。

小唯は盗賊に襲われたわけではなかった。
むしろ色香で床に誘い出し、抱かせると見せかけて、その心臓を一突きしてたのだ。
知る由もない王生は、小唯から身よりがないことを聞かされると、故郷の町に連れ帰る。

王生には美しい妻・佩蓉(ペイロン)がいたが、妻に事情を話し、家に住まわせることにした。
小唯は狐の妖魔で、絵に描いた人間の顔に化けられる術を持っていた。
そんな小唯は、妖魔でありながら、自分を救い出した王生に、恋をしてしまった。
小唯が時折、夫に送る艶かしい視線を、妻の佩蓉も気づいていた。
佩蓉は自分より年若い、薄幸の美女を、優しく受け入れはしたが、次第に猜疑心も芽生えてきた。


小唯が家にきて数ヶ月後、町では心臓を抉り取られる殺人事件が頻発するようになる。
犯人はトカゲの妖魔・小易(シャオイー)だった。
人間に化け、姿を消すこともできる小易は、愛する小唯の下僕となって、心臓を集めていた。
小唯の美貌は、心臓を食らうことで維持されてたのだ。

佩蓉はただならぬ気配を覗かせる小唯を、人間ではなく魔物ではないかと疑い始めた。
だが夫の王生はまともに取り合わない。
王生はいまや小唯を、実の妹のように思っていたのだ。

佩蓉は、かつて王生が属していた軍の主将だった龐勇(パン・ヨン)に手紙を送った。
龐勇は無数の敵を相手に、ひとり薙刀で向かい、打ち負かしてしまうほどの戦士だったが、佩蓉が王生と結ばれることを知り、軍を去った。
龐勇は佩蓉への想いを口に出すことはできなかったのだ。


龐勇と時同じくして町にやってきた夏冰(シア・ピン)は、妖魔によって命を奪われた祖父の仇を討ちに来た降魔師だった
。女なのに色気もない夏冰を、龐勇はなぜか気に入り、行動を共にすることに。
王生の家に出向き、小唯と対面する二人。夏冰はやはりなにか邪気を感じる。

「妖魔なら体にあざがあるはず」
小唯は拒むこともせず、疑いをかける佩蓉と夏冰の前で、その肌をさらす。
どこにもあざは見当たらない。
小唯に辱めを受けさせてしまった。佩蓉は自己嫌悪に沈んだ。

だが謝罪の部屋を訪れた佩蓉に、小唯は思いがけない素顔をさらした。
美しい顔の皮膚を自らはがすと、無数の虫がうごめく、おぞましい顔が佩蓉の前に。
小唯は正体を明かし、自分は王生の妻になるつもりだと言った。
王生には妾でもいいから、と懇願したが、首を縦に振ってはもらえなかった。
思いが遂げられなければ、このまま町の人間たちの心臓を抉り続ける。


龐勇と夏冰は、トカゲの妖魔・小易を追い詰めたが、とり逃がしてしまっていた。
佩蓉は決心せざるを得なかった。妖魔に太刀打ちすることはできない。
私が身を引けば、人々の命も守られる。
佩蓉は小唯との取引に応じた。

小唯の差し出した酒を口にする。すると佩蓉の髪も肌も真っ白に変貌した。
その姿を見た王生も、町の者たちも、佩蓉が妖魔だったと思い込んでしまう。

武器を手にした町民たちに囲まれた佩蓉を救い出したのは龐勇だった。
毒を盛られたということは察しがついていた。
狐とトカゲの妖魔をいまこそ打ち負かさねばならない。
その鍵を握ってるのは、降魔師の夏冰だった。


龐勇を演じるドニー・イェンが、冒頭では立ち回りを披露するが、実は決定的な役割は担ってないのが、意外な展開だ。
いつもの無双な感じを控えて、脇に回ってる。
映画としては3人の女優のそれぞれの個性を楽しむような作りになってる。

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肌の白さと伴って、皮膚の薄い感じが、どこかこの世のものでない幽気を漂わせて、妖魔の小唯にはぴったりだと思うジョウ・シュン。
王生の妻・佩蓉を演じるヴィッキー・チャオとは、同じ1976年生まれというが、ジョウ・シュンの方が、顔に幼さが残るんで、年下に見える。
小唯と佩蓉がひとりの男を巡って、視線を戦わせてくあたりから、映画としても見応えが出てくる。

ヴィッキー・チャオが毒を飲まされ、変貌してく場面は、二人の女優の演技も、もっとも火花を散らす所で、これは「女たちの物語」だとわかるのだ。
俺は好みとしてはヴィッキー・チャオだなあ。

もうひとり、降魔師の血を受け継ぐ娘・夏冰を演じるスン・リーは、男みたいな出で立ちで、化粧っ気もないが、こういう勝気な少女キャラも好きな向きはいるだろう。
実際は他の二人に劣らず、奇麗な顔立ちをしてるが、クライマックスの戦いで、覆い被さるように倒れた龐勇を抱きかかえて泣く場面は、もう少しアングルを考えてやれと思った。

彼女の顔を下の方からあおり気味で撮ってるから、泣き顔がブサイク。
きっと本人も納得してないぞ。

王生を演じたチェン・クンは伊勢谷友介に似たイケメンだが、この王生の優柔不断さが、騒ぎを大きくしてるとも思えるね。

この手の中国・香港ファンタジーにしては、前半などは非常に静かな場面が続くのがちょっと意外。
もっとコテコテにいろんな見せ場を放り込んでくるかと思ってたので。

トカゲの妖魔・小易は、狐の妖魔・小唯に想いが届かず。
小唯は人間の男・王生に焦がれるが、やはり想いたがわず。
龐勇は佩蓉への想いを拭いさることはまだできてない。
佩蓉もそれは知っているが、二人が結ばれることはない。

おどろおどろしいホラー風味に見えて、その実、成就しない想いに繋がれた者たちの、因果な恋物語になってる所が、古典として読み継がれてる所以かも知れない。

2012年8月19日

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