『龍馬伝』とつながる『るろうに剣心』 [映画ラ行]

『るろうに剣心』

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これも原作のマンガとかアニメはまったく見たことがなく、ふつうならスルーしてるとこなんだが、監督が大友啓史であるという点に惹かれて見に行くことにした。

大友啓史はNHKのドラマの「ルック」を変えた演出家で、この『るろうに剣心』は、『ハゲタカ』の劇場版に続く、映画第2作となる。NHKも辞めたそうだ。

彼の演出したNHKのドラマで、俺が最初に印象に残ってるのは、2000年に放映されたドラマ・ミニシリーズの『深く潜れ~八犬伝2001~』だった。

深く潜れ.jpg

軍艦島にロケをした、ちょっとスピリチュアルな要素のある、不思議なテイストのドラマで、主役のボーイッシュな鈴木亜美に、
「あなたと私はソウルメイトなのよ」
と一方的に近づいてくる小西真奈美との間柄に「ビアン」な空気を、俺のアンテナが察知。毎回見逃せなくなったのだ。

その翌年には朝の連ドラ『ちゅらさん』を演出してる。
これも国仲涼子のあまりの可愛さと、古アパートの舞台設定に、これは平成版『めぞん一刻』だなあと、勝手に思い込んでハマってた。

そして2007年のドラマ『ハゲタカ』となる。
映像からして従来のNHKドラマと違った。色も彩度も落とした画面に、敵意や猜疑心を剥き出しにした男たちの顔が、ずらりと居並ぶ。

このドラマを見て思い起こしたのは、マイケル・マン監督の1999年作
『インサイダー』だ。
あの映画で流れるリサ・ジェラルドによる、女性の独唱をフィーチャーしたメインテーマも、『ハゲタカ』で音楽を担当した佐藤直紀にヒントを与えたんではないか?
とにかく全体の印象が、『インサイダー』のタッチを踏襲してるように、俺には思えた。

その大友啓史が大河ドラマを手がけるというんで、『龍馬伝』には見る前から期待してたのだ。
『龍馬伝』は何部かに分かれた構成だったと思うが、俺は前半のエピソードが良かったと思う。
この『るろうに剣心』には、『龍馬伝』で重要な登場人物を演じた役者が、やはり大きな役で出てる。

岡田以蔵を演じた佐藤健、
その以蔵を拷問にかけた後藤象二郎を演じた青木崇高、
岩崎弥太郎を演じた香川照之。
この3人が『るろうに剣心』で演じた役には、それぞれ『龍馬伝』との繋がりを感じさせる部分がある。

この映画で佐藤健が演じる「人斬り抜刀斎」こと緋村剣心は、「人斬り以蔵」と怖れられた岡田以蔵の、魂の変遷そのままのキャラ設定だ。

青木崇高演じる相楽左之助は、最初は剣心に挑みかかるが、ほどなくその剣の腕と人間性に惚れ込み、剣心のよき「同士」となる。
これは土佐の侍で龍馬を目の敵にしてた後藤象二郎が、のちに身分へのこだわりを捨て、龍馬と共闘するに至る流れを、思い起こさせる。

香川照之演じるのは、アヘン密売で莫大な富を得て、それを元手に西洋の銃火器を買い集め、倒幕後の混沌とした日本を支配しようと目論む実業家・武田観柳。
『龍馬伝』の岩崎弥太郎が「悪」のフォースに堕ちたような人物像だ。

武井咲が演じるのは、剣心と偶然出会うことになる、剣法道場の師範代・神谷薫。
亡き父の「神谷活心流」を受け継いで、道場を守っている。

この神谷薫のキャラ設定と、剣心との関わりというのは、『龍馬伝』で貫地谷しほりが演じた、千葉佐那を連想させる。
佐那は「北辰一刀流」道場師範の千葉定吉の娘で、江戸に出た龍馬が、道場に通い出会った。
剣の腕も上がり、その人望も見込まれ、師範は娘の婿にとの気持ちもあった。
だが日本を変えるとの大志のため、龍馬は道場を去ることに。

佐那は娘ながら剣一筋に育てられ、龍馬への想いも口には出せない。
龍馬が旅立つ日に、佐那と最後に竹刀を交わす場面は、『龍馬伝』前半でも特に胸に迫る名場面となってた。

そんな具合で、『るろうに剣心』自体への基礎知識はないものの、『龍馬伝』からトレースされたような要素が多分に含まれてるので、あの大河ドラマを見てた人なら、楽しみを見出せるだろう。


『るろうに剣心』は、坂本龍馬が京都の近江屋で、新撰組の刺客に暗殺された、1867年(慶応3年)11月15日から3ヶ月後の時代設定で幕を開ける。

新政府軍が倒幕を成し得た日、京都鳥羽伏見の山中で、新撰組と刃を交えていた、倒幕側最強の刺客
「人斬り抜刀斎」は、その報を耳にして、自らの剣を大地に突き刺して、姿を消した。
抜刀斎を追い続けていた新撰組の斉藤一は、刃を交える機会を失った。

それから10年。人斬り抜刀斎は緋村剣心と名を変えて、日本各地を流浪していた。
倒幕派のリーダーから「新しい時代のため」と人斬りを命ぜられるまま、多くの人を殺めてきた。
もう人は斬らない。
「不殺(ころさず)の誓い」を自らに立てた剣心は、刀をさしてはいたが、その刃は峰と逆についた
「逆刃刀(さかばっとう)」と呼ばれるものだった。


東京に出てきた剣心は、人相書きに昔の自分の名「人斬り抜刀斎」と記されているのを見て驚く。
容疑をかけられることなどしていない。

ニセの抜刀斎を名乗り、辻斬りを繰り返し、都を震え上がらせていたのは、鵜堂刃衛という剣の使い手で、実業家・武田観柳の護衛の一人だった。
観柳は、桁違いの常習性を伴う黒いアヘンの塊を製造させ、市民たちの間に蔓延させ、支配しようと企てていた。

そのアヘンを製造した高荷惠は、薬剤師の父から薬の調合の知識を受け継ぎ、武田観柳は美貌の惠を、その知識とともに、手元に置こうとしていた。
だが罪悪感に駆られた惠は、観柳のもとを逃げ出し、警察署へ。

その居所を察知した鵜堂刃衛が、警察署に乱入し、居並ぶ警官たちを一人残らず斬り殺していく。
惠はその修羅場に紛れて逃げおおせた。

血に飢えた刃衛は、外に逃げた警官も追って斬り捨てる。
その場を目撃したのが神谷薫だった。
人相書きの抜刀斎は、彼女が師範代を務める「神谷活心流」を語って、人を斬り殺していた。
刃衛を抜刀斎と思い込んだ薫は、竹刀で行く手を塞ぐ。
だがとても歯の立つような相手じゃない。

刃衛に留めを刺されようとする、その時、剣心が割って入った。
警官たちの声に、刃衛はその場を立ち去った。


頬に十字の傷を持つ若者は「ただの流浪人でござるよ」と言い、
薫はお礼にと、剣心を自らの道場に招いた。

だがそこには先客があった。刃衛の追跡を逃れてきた高荷惠だった。
高荷惠を演じるのは、蒼井優。きつね顔のメイクが施されていて、最初は彼女とわからない。
椎名林檎みたいに見える。
惠は意外と小悪魔系で、薫がそれとなく剣心を意識してるのを見抜いて、わざと剣心の気を引こうとしたりする。
妙な三角関係の空気が漂う。


武田観柳はアヘンを、日本のみならず、海外にも船でばら撒こうという野望のもと、海に近い一帯の家屋を軒並み買収して、巨大な港を作ろうとする。

薫は師範代として、「神谷活心流」道場の立ち退きには応じず、観柳は荒くれ者たちに道場を破壊させようとした。薫は竹刀で抵抗するが多勢に無勢。
その時立ち寄った剣心は、瞬く間に男たちを倒してしまった。
もちろん刀は使わず、竹刀や格闘術で。
薫はそのあまりの強さに、彼が抜刀斎なのでは?と思い始めていた。


ここから、物語は剣心が、武田観柳とその一味との戦いを余儀なくされるという展開になっていく。
アクション監督・谷垣健治による、スピーディな殺陣の迫力は、日本映画としては特筆すべきもので、今までこのレベルを目指して達成できた映画はない。

時代劇伝統のチャンバラではない、剣によるアクションを標榜した映画は過去にある。
『ジパング』や『五条霊戦記』や『あずみ』など。だがやはり殺陣そのものが「遅い」のだ。
香港の武侠映画に見劣りしてしまう。

この映画の佐藤健や、鵜堂刃衛を圧倒的な不気味さで演じ切った吉川晃司の殺陣は、日本刀の本来の斬り合いではない。
だが「型」を超えた刀の振い合いの迫力に満ちている。

観柳の邸内を縦横に使っての、剣心と、綾野剛演じる刺客・外印の斬り合いも、よくこの速さで動けてるなと、二人の役者の身体能力に感嘆する。
併行して描かれるのが、剣心を助太刀した相楽左之助が、須藤元気と肉弾戦に及ぶ場面。
プロの格闘家とタイマンを張る青木崇高も活きがいい。
観柳がガドリング銃を撃ちまくる場面に至るまで、手を変え品を変えのアクション場面が、贅沢に盛り込まれてる印象だ。

佐藤健は殺陣をはじめ、とにかくこのキャラを成立させるために健闘してると思う。
シリーズ化されるのだろうから、さらに役を着こなせていくだろう。


この映画は登場人物が多い分、エピソードの一つ一つが深みに欠ける。
剣心がどういう葛藤を経て、「不殺(ころさず)の誓い」を立てるに至ったか、回想場面で描写されるが、あの程度では弱い。
斬るべき相手にも家族がいるということを、死体にすがる恋人の姿を見て気づくというのはね。

そんなことは踏まえた上で、大儀のために殺しを行ってたんじゃないのか?
でなければ、剣心という人間には想像力が欠けてるということになる。

そのあたりの内面が漠然としていて、佐藤健はもの静かな若者を表現するに留まってる。
これは演出の「言葉足らず」ということでもあるんだろうが。

もう少しセリフというか、声に引き付ける力がほしい。
武井咲もああいう声だし、中心の二人の声が、周りの役者の声の強さに気押されてる感じがあった。

「人斬りが斬らずして、どうやって人を守れる?」
という、斉藤一のセリフも、江口洋介の声が強いので、剣心のキャラが相対的に弱くなる。
まあこういう部分は場数の差だから、若い役者には酷だとは思うが。

演技陣の中で、俺としては唯一「これはどうかな?」と思ったのが香川照之だ。
武田観柳という悪玉のキャラ作りが「やりすぎ」てる。
一筋縄でいかない冷酷さを滲ませようとしてるんだろうが、芝居がかったセリフ回しが、逆に小物感を漂わせてしまってる。
吉川晃司や須藤元気を手下にできてるのが不思議に思うほどだ。

たぶん俺だけじゃなく、この映画を見た人は、香川照之の出てる場面は、あまり面白くないと感じてるんじゃないか?演技の計算ミスだと思うよ。

2012年9月11日

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