猛毒将軍ニューヨークへ行く [映画タ行]

『ディクテーター 身元不明でニューヨーク?』

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サシャ・バロン・コーエンの『ボラット(以下略)』を見た時、故郷のカザフスタンを出る場面で、
『ジプシーのとき』の冒頭に流れる、ロマの民族音楽風のテーマ曲が流用されていて、さらにボラットが「アメリカで最高の女」と思ってる、パメラ・アンダーソンが出てくる場面では、やはり『ジプシーのとき』の感動を盛り上げる、スピリチュアルなコーラス曲が流用され、
「俺の大好きな曲をこんなものに使うな!」
と憤慨したが、その選曲センスはただもんじゃないな、とも思った。

その『ボラット』と次の『ブルーノ』は、サシャ・バロン・コーエン(以下SBCと略す)が扮する謎のキャラが、お笑いの舞台でいうと「客いじり」のように、一般人の前に現れ、傍若無人に振舞うという、ドッキリ的趣向がウケたコメディだった。

明らかに無礼なんだが、SBCは背丈もあるし、得体が知れないんで、殴りかかるのも躊躇される、そんな受け手のリアクションに笑いが押さえきれなかった。

今回の新作は「カザフスタン人」「クネクネのゲイ」に続いて、北アフリカ某国の独裁者というキャラ設定になってる。『ボラット』『ブルーノ』と違うのは、ドッキリ手法ではなく、かっちり劇映画の手法になってることだ。
SBCのキャリアとしては、主演第1作の『アリ・G』のアプローチに回帰したといえる。


ワディヤ共和国という架空の国名がつけられてるが、そこの独裁者アラジーン将軍がニューヨークへ行くというお話。
映画の最初に、同じ独裁者の「金正日を偲んで」と出るあたりから、もう飛ばしてる。

アラジーン将軍がなんでニューヨーク(以下NYと略)に行くことになったかというと、核ミサイル開発を疑われ、国連本部でのサミットで釈明しないと、空爆するぞと脅されたから。
実際思いっきり開発してるんだが、そのミサイルの大きさは将軍の背丈の半分くらいしかない。
しかもアラジーン将軍は
「ミサイルの先っぽは、とんがってなきゃ駄目だ」というのに、科学者は先の丸いのを作って、処刑を命ぜられたりしてるんで、なかなか飛ばすまで至らない。

今夜もハリウッドからミーガン・フォックス(本人)を、デリヘルよろしく大金で呼びつけ、ベッドで一物をトランスフォームさせた将軍だったが、
「そんなに言うなら行ってやる」とNYへ観光気分で乗り込んだ。

だが信頼を置いてた側近のタミールがあっさり背信。
出迎えたアメリカ人のクレイトンに拉致され、トレードマークのヒゲを剃られて、NYの街中に放り出されてしまった。

アラジーン将軍は暗殺の危険に備えるため、そっくりの影武者を同行してたのだが、側近のタミールは、その影武者を使って、将軍本人の代わりに、サミットで演説させようと企てていた。

ワディア共和国を、独裁国家から、民主主義国家へと生まれ代わらせる宣言をするためだった。
もちろんタミールの陰謀には超大国が糸を引いていた。


一転してパスポートもない、身元不明の難民と化してしまったアラジーン将軍。
ヒゲがないので、本人アピールもまったく通らない。

困り果てて、さまよい着いたのは、NYの一角にある「リトル・ワディア」という地区だった。
そこのバーに入ると、店にいる人間たちから異様な視線を浴びる。

バーの店主はアラジーンの顔をまじまじと眺め
「あんた名前は?」と執拗に訊いてくる。
店に貼られてる英語をチラ見しながら、テキトーな名前でかわそうとするが、
「おまえ将軍だな!」と囲まれて絶対絶命。そこに
「彼は俺の従兄だよ」
と助け船を出したのはナダルだった。

ナダルはミサイルの先っぽを丸くして、将軍に処刑を命ぜられてたはずだ。
ナダルはアラジーンに驚くべき真相を耳打ちした。

アラジーン将軍が国で処刑を命じた、数しれない人間たちは、実は一人も処刑されておらず、刑の執行官がアメリカへの亡命を取り計らっていたのだ。
そうしてNYに渡った人間たちが、この「リトル・ワディア」に暮らしてるのだと。
なんだいい話じゃないか。

ナダルは「ミサイル開発の仕事に復帰させてくれれば、将軍の復権に手を貸す」と言い、3日後に控えた国連サミットでの新憲法サインまで、タミール側の動きを探ることになった。


アラジーン将軍にはもう一つ幸運な出会いがあった。
彼を政治難民だと勘違いして、女性活動家のゾーイが助けてくれたのだ。

彼女は博愛主義者で、経営する自然食品スーパーには、あらゆる人種の店員が働いていた。
その彼女の店が、サミットの食事のケータリングを依頼されたのだ。
店員としてサミット会場に入ることができれば、タミールの陰謀を阻止できるかも。

アラジーン将軍は、アリソンと名を偽り、ゾーイの店で生まれてこのかた経験のない、店員として「労働」することになった。

ゾーイはアラジーン将軍にとっては、出会ったことのないタイプの女性だった。
彼女はフェミニズムを標榜していて、なんでもありのままに任せるべきと、腋毛も剃ってなかった。
将軍はその腋毛にそそられた。
ゾーイはアリソンことアラジーン将軍が、オ●ニーの仕方も知らないことに驚いた。
物心つく頃から女性にやってもらってたからだ。
「こんなモノ自分で触れるか!気持ち悪い」
と拒否してたが、ゾーイの言う通りに試してみると、そのあまりの快感に将軍の核ミサイルは暴発した。
「人情」という言葉も知らない独裁者が、博愛主義者の女性に恋をしてしまった。


はサミット会場に潜り込むことができた将軍が、ニセモノに代わって宣言の壇上に立つ場面でクライマックスを迎える。ここでの将軍のスピーチは、映画の題名からも察する通り、
チャップリンの『独裁者』の場面を模している。
アラジーン将軍のスピーチが奮ってる。
「アメリカも独裁国家になっちゃいなよ!」というもので
「独裁政治が行えれば、富を1%の人間が独占することができるし、
他の国を簡単に爆撃することもできるし」
と、今のアメリカそのままじゃないかという話をする。

皮肉が利いてるコメディじゃないのと、あらすじ読むだけならそう思うかも知れないが、SBC本領のド下品なギャグが、合間にバンバン挟まれてるのは相変わらずなのだ。

タミールたちが滞在するホテルに侵入するため、スパイ映画みたいに、隣の建物からワイヤー張って、宙刷りで渡ってく場面。
途中で止まってしまったため、体重を軽くしようと、アラジーンはポケットの中の色んな物を捨ててくんだが、まだ足りない。ナダルに
「腹の中のものも!」と言われ空中で脱糞。

とか、ゾーイの店で店番してたら、客の妊婦がいきなり産気づいてしまう。アラジーンは
「私は国で医者の心得がある」
と本当とも言えないことを言うと、妊婦の股間に手を突っ込む。
「その穴じゃない!」
と何度も言われる。
ゾーイは「私も手伝うわ!」と二人で手を入れる。
それを妊婦の体内から見たカメラで描写する。

女体の内側から外を見せるというカメラは、三池崇史監督の『極道戦国史・不動』で、女殺し屋が、股間から吹き矢飛ばして、標的を殺す場面以来かもな。
アラジーンはそうして取り上げた赤ちゃんが女の子とわかり「捨てよう」と言う。

こんなドイヒーなギャグが散りばめられてるんで、SBC映画のイチゲンさんは引くかもしれん。
だが全体の印象としては、独裁者をデフォルメさせて笑いを取る、シニカルなコメディの範疇に収まるもので、『ボラット』や『ブルーノ』に見られた、一触即発のハプニング性といった、型破りな面白さとは別のものになってる。

それと『ボラット』にしろ『ブルーノ』にしろ、SBCの扮装したキャラが目立ってはいるが、そういう明らかに異質の者の乱入によって、対象となるコミュニティや、組織や環境といったものが、逆にその特殊性を浮き彫りにさせられる、そこに批評性が感じられたりしたのだ。


それはSBCと組んで独特のコメディ世界を作り上げてる監督のラリー・チャールズに寄る所が大きい。
彼はSBCと組まずに単独で、新興宗教の教祖たちに突撃インタビューを試みた
『レリジョラス~世界宗教おちょくりツアー~』というドキュメンタリーを作ってる。

その環境にいる人間たちは、なんの不思議も感じずにいる、その価値観が外から見ると、どれだけ特殊に映るのか、そういう視点にこだわってる映画作家なのだ。

だが今回の『ディクテーター 身元不明でニューヨーク?』は、独裁者が他所の国に来て、その価値観を覆されるという話で、独裁者自身の戯画化に終わってしまってる。

まあ『ボラット』と同じアプローチで、アルカイダみたいな面相の男が、いろんな場所に乱入してったら、まかり間違えば射殺されたかも知れないしね。


ちなみに俺が一番笑ったのは、アラジーンとナダルが、タミールたちのホテルを空から偵察しようと、観光ツアーのヘリに乗り込む場面。

アメリカ人の熟年夫婦が同乗してるんだが、アラジーンとナダルはどう見てもアラブ人。
英語でひとしきりフレンドリーに話しかけるが、あとはアラブ言葉で二人は雑談してる。

だが合間合間に「フセイン」とか「ビン・ラディン」とか単語が耳に入り、熟年夫婦は気が気じゃなくなる。
ポルシェの話をしてるのに「911」と耳にして「ギャー!」と奥さんパニックに。

ゾーイを演じてるのがアンナ・ファリスとは、エンディングのクレジット見るまで気づかなかった。

アンナファリス.jpg

彼女は金髪のイメージだから、今回の髪をブルネットに染め、しかもショートに刈り込んでると、ちょっと別人の印象。アメリカのレズビアンの人にウケそうな感じ。
実際に腋毛も生やしたそうで、『カケラ』の満島ひかりと一緒だね。
腋毛フェチは必見と言っとく。

2012年9月13日

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