出た!ソン・ガンホの飛び蹴り [映画カ行]

『凍える牙』

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乃南アサの直木賞受賞作を韓国で映画化。
過去に日本では2度テレビドラマ化されてるというが、俺は見てない。
狼と犬を掛け合わせた「ウルフドッグ」の仕業による連続殺人事件を、刑事が追うという内容は、なにやら1981年の『ウルフェン』を思い起こさせもする。

韓国映画で刑事ものといったら、飛び蹴りはつきもので、期待しつつ物語を追ってたら、やってくれましたソン・ガンホ。ただし犯人にじゃなく、同僚にだったけど。


ソウル市の駐車場で、車の炎上事故があり、運転席にいた男性が焼け死んだ。
目撃者によると、運転席の男性の体から発火したという。
灯油をかぶるような素振りもなくだ。

現場を調べる中年刑事サンギルは面白くなかった。
班長から、白バイ上がりの新米女性刑事ウニョンと、捜査に当たれと命じられたからだ。
何度も昇進を見送られてるサンギルは、こんな自殺と思しき事件など、解明できても手柄にならない。
おまけに新米の教育を押し付けられる。

ウニョンに早速毒づいても、言い返してくるわけでもない。
愛想のない陰気な女だ。

サンギルは私生活でも問題を抱えていた。
妻は2人の子供を置いて出ていった。上の息子はモロに反抗期で手に負えない。
ウニョンも夫と離婚していた。
両親とも早くに死に別れ、家族と呼べる者は誰もいないと言う。


黒焦げで指紋も採取できない死体から、科学捜査班は興味深い検死結果を出してきた。
尿から覚醒剤反応が出た。
巻いてたベルトのバックルには、タイマーと点火装置、そして引火性の高い化学物質が仕込まれてた。
そのベルトを誰かが贈ったのだとしたら、これは殺人事件となる。
ウニョンは、死体の太ももに、何かに噛まれた傷跡があると、サンギルにその部分を見せた。
バックルとその傷跡に関連性はあるのか?

覚醒剤の売人から、焼死した男性は学習塾の経営者とわかる。
その塾を調べてみると、隠し扉の向こうに、いくつもの部屋があることがわかった。
売春に使われてたのは明らかだ。部屋には覚醒剤の錠剤もあった。
また焼死した男性のケータイは、損傷が激しかったが、男の後ろ姿が映る動画が残っていた。

これは大がかりな背景を持った事件だ。解決させれば昇進は間違いない。
ウニョンは何度も「班長に報告しましょう」
と言うが、サンギルは手柄を横取りされるからと、二人で捜査を続行していく。


新たな死体が検死に回されてきた。
会社員風の男性で、喉を噛みつかれたことによる失血死だった。
一報を受けて解剖室に駆けつけたサンギルは、前回の死体に残された証拠について、なんの報告もしてなかったことを、班長から激しく叱責された。
その場にいたウニョンは、サンギルの後輩で、つい先日に警部に昇進したヨンチョルから
「お前も手柄に目がくらんだか」
と頬を張られる。

ヨンチョルはカラオケ宴会の場で、ウニョンに迫り、拒絶されたのを根に持っていた。
サンギルは勇み足だったと認め、二人は捜査の脇に追いやられた。
死体の喉の傷から大型の野犬か闘犬の可能性があると、サンギルとウニョンは、犬探しに回される。

犬の正体を探る過程で、サンギルとウニョンは、犬とオオカミを交配させた
「ウルフドッグ」の存在に辿り着く。
その犬は、事件につながると踏んで、サンギルとウニョンが張り込んでた民家の家宅捜索で、住人とつかみ合いとなる最中、不意に現れた。
少女たちを乗せたライトバンを運転する女性を襲って、その喉笛に噛み付いて絶命させた。
ウニョンは刑事たちの中で、唯一その場面に出くわし、そのウルフドッグと目を合わせていた。


ウニョンは、家宅捜索の際に腹をしたたか蹴られ、入院を余儀なくされた。
だがウルフドッグのことが頭から離れず、警察犬トレーナーに関わりがないか、資料をあたり始めた。
現役のトレーナーに疑う部分はない。
だが退職した人間だったら?

過去の人事ファイルをあたり、ミョンホという、警察犬トレーナーの元刑事の存在が浮かび上がった。
ミョンホには娘がいて、麻薬中毒から精神療養施設に預けられたはずと情報を掴んだ。

だが情報を辿って行っても、娘のジョンアは捜し出せない。
それでもウニョンは地道な捜査を諦めなかった。

そして、ミョンホの娘ジョンアが少女売春を強要されてた事実をつかみ、この不可解な連続殺人事件の被害者が、その売春組織につながりがあるらしいこともわかってきた。

バックルの発火による、一見無関係に思える事件も、ある一点で結び着く。
だがウニョンがその鍵を握る場所に向かったことを、サンギルは把握してなかった。


映画のオープニング・タイトルで、疾走するバイクの映像が、早くもテンションを上げさせるんだが、バイクを駆るウニョンを演じるのはイ・ナヨン。
俺は彼女の出てる映画はこれが初めてだが、こういう顔は好きだ。
日本でいうと田中美奈子と阿木曜子をミックスした感じかな。

とにかく刑事として配属されるのに、そのハブられ方が露骨すぎ。
そういう境遇に耐えながら、捜査に加わる滑り出しで、彼女に肩入れしてしまう。
映画終盤で彼女がバイクで、ウルフドッグを追う場面には、
「がんばれ、ここ見せ場!」と思って見てた。

家庭ではいい父親とはいえないサンギルを演じるソン・ガンホは、出世に見放された屈折を抱える中年刑事を、大袈裟な芝居をせずに演じてる。
ともに警察官という職務に愚直であろうとするあまりに、妻に逃げられ、夫に逃げられた二人の刑事。
その間にほのかなロマンスなど生まれはしないのが、甘ったるい後味にならずに済んだ。


このウルフドッグのチルプンとなる犬がいい。
底冷えするような目で、じっと見つめる場面は迫力がある。
一方で最後の場面などは、ほんとうにそういう表情を作ってるように見えて、グッとこさせるものがある。
まだ小さな娘のジョンアと戯れる、仔犬時代のチルプンの回想場面の挟み方は、ベタそのものなんだが、それを変な照れを感じさせずに、きっちり絵として見せてくれるのがいいのだ。

この映画は目を見張るアクション場面とか、唸るような語り口の上手さとか、そういうものは持ち合わせてない。「通俗的」な刑事サスペンスなんだが、何と言うか
「きちんと通俗を貫いてる」ので、最後まで堪能できたのだと思う。

2012年9月14日

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