ジェーソン・ボーンの遺産は有効活用されたか? [映画ハ行]

『ボーン・レガシー』

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時系列としては「ボーン・シリーズ」3作目の『ボーン・アルティメイタム』の劇中で起こってた時期に発生してた、もう一つの重大な事案という描かれ方になってる。
これは「スピン・オフ」と呼ぶべきなのか「新生ボーン・シリーズ」と呼ぶべきなのか?

「ボーン・シリーズ」3作すべての脚本を担当してたトニー・ギルロイが、今回は監督も手がけ、印象としては「なんとか合わせてみました」って所じゃないのか。

マット・デイモンは出てこないが、「ボーン・シリーズ」でマットを追う側のCIA関係者は、ジュリア・スタイルズ以外は、同じ役者が再び出演してる。


暗殺者育成プログラムである「トレッドストーン計画」、その精度を高めた「ブラックブライアー計画」も、同じように語られてる。
さらに平行して極秘に進められてたという「アウトカム計画」の完成品といえる暗殺者アーロン・クロスが今回の主役であり、アーロンを抹殺するために放たれたのが、「ラークス計画」による最強の刺客であるという、もう「計画」しすぎだろ合衆国という状態に陥ってるのだ。

なので「ボーン・シリーズ」のアウトラインが、見る側の頭に入ってることが前提になってて、
「ああ、ここにつながるのか」という楽しさはたしかにある。
だがなにより、主役のキャラクターがはっきりと違うので、「ボーン・シリーズ」の本質には外れてるようにも感じる。


『ボーン・アイデンティティ』を嚆矢とした、スパイ映画の新しいフォーマットを打ち立てたシリーズは、肉体と知力を尽くした逃亡劇の面白さと、臨場感に溢れたアクション演出で語られることが多い。

だが肝となってるのは、記憶を失った青年が、自分が何者かを探るほどに、おぞましい行いに手を染めてたという事実に葛藤を深めていく、その痛切さにあったのだ。
「逃げながら、追い求める」という二律相反するボーンの行動は、きわめてスリリングでありながら、答えを知っても救済は得られないという、ホロ苦さを常にまとっていた。

俺は2作目の『ボーン・スプレマシー』が好きだが、それはかつて自分が命を奪ってしまったロシア人夫婦の、遺族の娘に真実を告げに訪れる、あのエピローグがあるからだ。

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ちなみに遺族の娘を演じてたのは『リリア 4-ever』のオクサナ・アキンシナだった。


今回、ジェレミー・レナーが演じるアーロン・クロスは、自分が何者であるかはわかってる。
映画冒頭での、アラスカ山中の単独サバイバル訓練の描写に見るように、まだ暗殺者として、実践の任務には就いてない。
これは映画としては上手い設定で、もしすでに暗殺行為を働いてた主人公だったら、記憶を無くしてるというわけでもないし、必死に逃げた所で、見る側の共感は得られないだろう。
なぜアーロン・クロスは逃げることになったのか?


『ボーン・アルティメイタム』で、CIAの極秘プログラムのネタを掴んだジャーナリストが暗殺される場面があった。
「暗殺者育成プログラム」の存在がマスコミに暴かれる危険性が高まり、全てを知ったジェーソン・ボーンや、CIA内部調査局のパメラ・ランディの告発もあり、事を重んじたNRAG(国家調査研究所)によって、進行中のすべての計画の証拠隠滅が図られることになったからだ。
世界各地に散らばる「暗殺者」たちの抹殺指令が下ったのだ。

暗殺者たちは、みな継続的な血液採集と、薬の服用が義務づけられてた。
「青」の錠剤は身体能力の維持、
「緑」の錠剤は精神や知力の向上に作用するとされていた。
NRAGは工作員を通じて、暗殺者たちに「黄色」の錠剤を服用させた。

一つの錠剤で今まで同様の効力があるとか説明されたのだろう。
黄色の錠剤を服用した者は、すべて謎の死を遂げた。


アラスカで訓練中のアーロンにも、現地の工作員から「黄色」の錠剤が手渡される手筈になってた。
だがアラスカの山小屋でアーロンを待ってた工作員「No3」は、思うところあってか、アーロンに錠剤を渡さない。一方のアーロンは訓練中に、青と緑の錠剤を誤って無くしてしまい、工作員に「予備をくれ」と言うが、貰えない。
この「No3」がどうも思わせぶりなキャラで、アーロンのことを疑ってるようでもあり、認めてるようでもあり。

そんな感じで山小屋の二人がまったりしてるんで、しびれを切らしたのか、NRAGは無人偵察機「プレデター」をアラスカへと向わせる。

もともとアーロンが義務づけられてる血液サンプルを乗せて、送ったその「プレデター」が、また戻ってくるような気配を、二人は怪訝に感じるわけだ。
アーロンの体内には、位置を把握できるカプセル式の発信機が埋め込まれており、「黄色」の錠剤を飲んで死んだ筈のアーロンが、まだ生きてると認識したNRAGが、もっと直裁的な抹殺を図ろうとしたわけだ。
それを寸前で回避したアーロンは、身の危険が迫ってると感じ、アラスカの地から逃亡を開始する。


だがアーロンにとって、逃げることよりも、もっと切迫してるのは、青と緑の錠剤を飲まないと、自分に異変が起こるのではないかという、パニックに近い不安なのだ。

俺はこのキャラクターが、ボーンと比べて弱いと思う。
本人は「クスリが切れるからクスリくれ!」
と必死になってるだけに見えてしまう。

ボーンが記憶をたぐるほどに、CIAの極秘計画の全貌が見えてくるという、「ボーン・シリーズ」にあった、ストーリーの有機的なつながり具合が感じられないのだ。
アーロンには自分がこの先命じられたであろう、手を汚すような仕事への葛藤は見られない。

とにかく目の前の「クスリ」問題を解決しなけりゃならないんで、その方面の人間に接触を図る。
それがアーロンの体調管理を行う製薬研究施設のマルタ博士だ。
研究施設内で、同僚の研究員が、突然銃を乱射し、施設の人間を次々と撃ち殺していて、マルタは数少ない生き残りの一人となっていた。

ショックで、森の中に佇む借家を引き払おうとした時、CIAを名乗る男女が訪問してくる。
目的はマルタの抹殺だった。
だが丁度彼女の居所を突き止めていたアーロンが、危機一髪、マルタを救い出す。


この場面でアーロンの暗殺者としての傑出した能力が、はじめて発揮されるんだが、この家の見た目が、『ボーン・アイデンティティ』のクライマックスの銃撃戦の舞台となった家とよく似てる。
回り階段の感じとか。

マルタを演じるのはレイチェル・ワイズ。なんか久しぶりに見たが、この映画では彼女がポイントゲッターと言ってもいい。
この場面から先は、アーロンとマルタ二人の逃亡劇となってく。
マルタな様々な危機的局面で、ただアーロンに守られるわけではない。
「私はただ研究をしてただけ」と及び腰だった彼女が、だんだん腹くくって逞しくなってく様子を、レイチェル・ワイズは情感こめて演じてる。
「逃げて!アーロン!」
と叫ぶ場面はよかった。声が凄かったね。

NRAGの統括責任者リックを演じるのはエドワード・ノートン。
指令室から一歩も出ることなく、アーロンたちを追いつめてく。
身体能力と、情報伝達能力との追いかけっこは、アメリカを出て、マニラへと及ぶ。

現地の刺客である「ラークス計画」の暗殺者を、ルイス・オザワ・チャンチェンが演じる。
『プレデターズ』で、日本刀で戦い挑んでた、松ちゃん似の、あの役者だ。
俺は彼の登場に、劇場のシートで前のめりになってしまった。
今回もほぼセリフはなく、その殺気のみで演じ切ってしまうのだから頼もしい。


このクライマックスのアクションが、マニラ舞台なんで、どことなく香港映画の無茶なアクション演出にカブる感じで、その感触が楽しかった。
ここでヒートアップさせて、辻褄あわせようみたいな意図を感じなくもないが。

そうなると、監督はトニー・ギルロイだが、功績はセカンドユニットであるアクション監督のダン・ブラッドリーにあるんじゃないか。

ちなみにダン・ブラッドリーはリメイク版『若き勇者たち』では初監督の大役を務めてる。
本国では12月公開だが、今回では侵略してくるのが、はっきり北朝鮮となってる。
アメリカ本土を侵略するような軍事力があるとも思えないが。

2012年9月30日

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