ラテンビート映画祭『悪人に平穏なし』 [ラテンビート映画祭2012]

ラテンビート映画祭2012

『悪人に平穏なし』

悪人に平穏なし.jpg

2012年の「ゴヤ賞」(スペインの映画賞)で作品・監督・主演男優など6部門を制したハードボイルド。
題名もいかしてるし、主演のホセ・コロナドの風貌が、最近になく、むさ苦しい男臭さに溢れたもので、久々のアンチヒーロー型の刑事の造形を堪能できた。
ハリウッドでリメイクなんてことになったら、ビリー・ボブ・ソーントンあたりが、演りたがりそうだ。


マドリッド警察の「行方不明者捜索課」の中年刑事サントス・トリニダは、職務を終えると酒浸りの毎日を送ってる。
映画が進むうちに判ってくるが、元は有能な警察官だったようだ。
コロンビアのスペイン大使館の警備にあたってた時代に、銃の暴発で、一番信頼のおける同僚の命を奪って以来、人が変わってしまった。

閉店だと酒場を追い出され、夜の街を彷徨う内、扇情的なネオンに照らされた売春クラブに足を踏み入れる。

「クラブ・レイディーズ」の店内は静まりかえり、カウンターの奥から女が出てきた。
もう終わりだと告げられても、サントスは委細構わず、酒を注文する。
「おまえ、コロンビア人だな?」
「ちがうわ、スペイン人よ」
サントスは女を眺めながら鼻で笑った。
サントスの背後にボディガードらしき男が立っていた。
「店閉まいだと言ってるだろう」
サントスは男に向けて警察手帳を出した。
「いいから酒を出せ」

緊張が高まる中、オーナーの男が「お注ぎしろ」と出てきた。
「もう少し早く来て頂ければ、女たちも揃ってたんですがね」
注がれた酒をサントスはこぼしてしまう。

その手元を見て、オーナーの男は慣れ慣れしい口調とともに、肩に手を回してきた。
サントスはすかさず、男の頭をつかみ、カウンターに打ち付けた。

ボディガードが銃を抜くより前に、サントスの35口径が火を噴いた。
カウンターの女は蒼白となり、逃げようとしたが、サントスは容赦なく女も撃った。
そして床で呻いてるオーナーの男にも、2発撃ち込んだ。
だが店の2階にいた若者が、音を聞きつけ下りてきた。
現場を見て若者は逃げ出し、サントスは後を追うが、見失ってしまう。


店内に戻ったサントスは、証拠隠滅に取り掛かった。
射殺したオーナーや、ボディガードの服をあさり、身分証や車のキーなど、本人特定につながる物を持ち出す。
薬莢もすべて拾った。
店内に防犯カメラがある事に気づくと、レコーダーを見つけてディスクも回収した。

家に戻ると、まず自分の35口径の拳銃を解体し始める。
店の人間の遺留品の中から、逃げた若者につながりそうな物を除いて、銃と一緒にゴミ処理場に投棄した。
防犯ビデオの映像をチェックする。
すると店の事務所内にもカメラがあり、何人かの男たちが、札束のやり取りをしてる。

「クラブ・レイディーズ」のオーナーは、本業以外に企んでることがあったようだ。
咄嗟のこととはいえ、3人の人間を射殺してしまった、
その証拠隠滅で始めた行為だったが、なにか事件が起こりつつあるという、刑事の嗅覚が働いた。


なにしろ3人のうち、丸腰の二人にも容赦なく銃弾を打ち込むような主人公なんで、この刑事に共感しつつ見るなんてことはできない。

この映画の面白さは、自分の罪を表沙汰にしないために、なんとか現場を目撃した若者を見つけ出さないとならない、その刑事の行動が、マドリッド市内で、大規模なテロを計画してた一味の存在を、あぶり出すことにつながってくという展開にある。


サントスは「行方不明者捜索課」のデスクのパソコンで、殺したオーナーの男のパスポートを、警察の犯罪者データベースで照合する。
男はペドロ・バルガスというコロンビア人で、コカイン密輸の前歴があった。

一方、売春クラブで起きた殺人事件の捜査に、女性判事チャコンと、その部下レイバがあたっていた。
サントスが既に、身元特定につながる品を持ち去っているため、捜査は難航する。

それでもボディガードが、ウーゴ・アングラーダという名で、本名は別にあり、コロンビアマフィアの殺し屋で、元反政府勢力の組織に属してたことを突き止める。
チャコン判事は麻薬捜査局の刑事から、コロンビアマフィアが、モロッコなどアフリカ経由の麻薬を扱うようになってると聞かされる。
その過程で、イスラムのテロ組織とのつながりにも注視していると。

そのコロンビア人たちが、なぜ殺されたのか?イスラム系の殺しの手口とはちがう。
ウーゴが滞在していたホテルを突き止めたチャコン判事は、駐車場の防犯ビデオを回収した。
その中に部下のレイバの見憶えのある横顔が映っていた。

サントスはウーゴの所持品の中に、ホテルのカードキーを見つけ、すでにウーゴの部屋に侵入し、車のキーを持ち去っていたのだ。

レイバは横顔がサントスに似てると思った。
二人は元は警察の同期だったのだ。


2004年にマドリッドで起きた爆破テロ事件を題材にしたフィクションとのことだが、テロの一味が、爆弾を消火器に詰めて、市内のショッピングセンターやら、遊園地やら、バス発着場やら、そういった場所に、交換を装って設置してくのが怖い。

サントスがチャコン判事に呼び出され、事件との関与を問い質される場面で、過去の銃の暴発事件の一件が語られる。
サントスの親友だった同僚は、コロンビア時代に、麻薬組織との癒着が疑われていたようだ。
サントスは暴発だと言うが、本当のところは判らない。
なのでサントスがコロンビア人を憎んでるとも読める。

酒は浴びるほど飲み、自暴自棄な生活を送りながら、麻薬には手を出そうとしないのも、そのあたりに原因があるのか?
猟犬のように執拗に追いつめていくサントスの姿は、
『フレンチ・コネクション』のドイル刑事を思わせる。


ざっと以上のような流れのストーリーなんだが、なにしろ登場人物が多く、因果関係も込み入ってるので、細かい部分は俺の中でも曖昧になってしまってる。
もう1回見るとさらに伏線などに気がつくかも知れない。

それと不思議といえば不思議なのが、テロを計画してる一味の側が、サントスに対してなんのアクションも起こしてこない点だ。

店でペドロやウーゴが殺されたことは、ニュースにもなってるし、誰がやったのかということは、当然関心を持つだろう。
サントスが嗅ぎ回ってることも、どこかの時点で気づく筈だ。
一味の側のディフェンスの甘さは気になった。

2012年10月10日

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