ステイサムと少女のニューヨーク逃走劇 [映画サ行]

『SAFE』

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ジェイソン・ステイサム主演作というと、「ステイサム映画」というブランドとして捉えられる印象がある。
機敏な身のこなしと、マーシャルアーツの見せ場がふんだんに織り込まれたアクションだろうと。
今回もその特徴は備えてはいるが、ステイサムのファンだけに留まるのは勿体ないなと思わせる内容だった。

アクション俳優というのは、人気のピークが過ぎると、あとは似たりよったりの新作を作り続けるという循環に入る。
そして監督も「おかかえ」のように、何度も同じ人間と組むようになるのだ。
ブロンソンしかり、ヴァン・ダムやセガールしかり。

ステイサムがそれらのスターたちと違うのは、シリーズ作以外は、同じ監督と組むことがない。
なので馴れ合いにならず、毎回少しずつ雰囲気が変わって、飽きられることがないのだ。

まあ映画のテイストは変わっても、ステイサムの出で立ちはほぼ変わらないし、絶対死ぬ事もないので、ファンにとっては「安心のステイサム・ブランド」となるわけだが。


今回の『SAFE』は、偶然出会った中国人の少女を、ステイサムが守りぬくという、『レオン』や『アジョシ』を思わせる筋立てで、アクションだけ目当てのファン以外にも、広くアピールできる要素を含んでいる。

この二人の結びつきが軸にはなってるが、先の2作ほどにウェットにはならない。
中年男と12才の少女の間には、ハードボイルドな空気が流れてる。

中国人の少女メイを演じるキャサリン・チェンという子は、松坂大輔に似てる、はっきり愛嬌に欠ける顔だちなんだが、その目つきの悪さも、媚びがなくていい。
目の前で人が殺されすぎるんで、これはPTSD発症するだろと思ってしまうほどに、過酷な目に遭わされる。


監督はエンドクレジットで気づいたが、ボアズ・イェーキンだった。
この映画のプロデューサー、ローレンス・ベンダーと組んだ
1994年の監督デビュー作『フレッシュ』を見てると、納得できるのだ。

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あの映画でも、メイと同じ12才の黒人少年が、麻薬売買に手を染め、否応なしに、血まみれな抗争劇のただ中に放り込まれていく姿が描かれていた。

『フレッシュ』とこの『SAFE』も、ニューヨーク、ブルックリンを舞台にしていて、ボアズ・イェーキン監督にとっては、あの黒人少年の過酷な体験を、同い年の少女に再び辿らせてるような所がある。

メイが幼くして数学の天才で、一度記憶した数字を忘れないという能力を持ってるという設定は、やはり天才少年が、偶然に政府の機密事項にかかわる暗号を解読してしまい、命を狙われる
『マーキュリー・ライジング』を連想させる。
どちらも子供を守るのがゲーハーな主人公というのも一緒。

この『SAFE』はボアズ・イェーキンの演出がいい。普通つかみに持ってくるような、冒頭部分でのアクションというのがない。
無関係なステイサムと、中国人少女がどうやって出会うのかまでを、互いの経緯を交互させながら、無駄を省いて描いていく。


ステイサム演じるルークは、ニュージャージーで行われてる、地下格闘技の試合で、八百長に背いて、誤って相手をKO。
その拳の破壊力は、相手を意識不明に陥らせ、見舞いに行った病院では、母親が掴みかかってくる。
その八百長では、ロシアン・マフィアのボスが、ルークの負けに大金を賭けていた。

そのことを知ったルークは自宅の妻に電話し、家を離れろと警告するが遅かった。
ルークが帰宅した時、妻は銃で蜂の巣にされた後だった。
ルークは待ち受けてたロシアン・マフィアたちの前で膝をついた。

ここまでの演出が省略を効かせてる。
八百長試合も、ルークが殴る前でカットが変わり、病院の場面になっていて、ルークの自宅でも、妻の死ぬ場面や遺体などは見せない。
無残に殺されたのは、セリフでわかる。

ボスの息子は抵抗の意志も見せないルークに言う。
「お前を殺しはしない」
「だがこれから先、ずっとお前を見張ってやる」
「お前が誰かと知り合ったりすれば、その人間を殺してやる」
「お前は一生一人でいるんだ」
「自殺するのは構わん。妻と会えるしな」
「だが自殺だって簡単にはできやしないぞ」

こういう脅しの方法は初めて見た。
自分ではなく、自分と縁のできた人間が殺されるってのはきついな。

頼るものもなくなり、ルークはホームレス同然に、教会が運営するシェルターに寝床を求めるまでに落ちる。
有り金をスリに奪われ、食料品店で騒ぎを起こして、警官にパトカーに乗せられるが、連れて来られたのはビルの廃墟。
そこでルークは、連絡を受けた刑事たちに袋叩きにあう。


ルークと刑事たちには因縁があった。
ルークは元は市長から直々に任命された、ニューヨーク市警特捜班の特命刑事だった。

ルークの鬼の粛清で、ニューヨークの組織犯罪はほぼ一掃されたのだが、その過程で、権力を私服を肥やすことに利用した同僚たちを告発。
特捜班は解散となり、ルークは裏切り者として刑事たちからも目の敵にされ、警察を去ったのだ。


同僚の悪事をもみ消そうとする組織の中で、唯一証言台に立ち、警察内で孤立無援となる主人公というと、チャック・ノリス主演の『野獣捜査線』を思い起こさせる。
『マーキュリー・ライジング』のブルース・ウィリス、『野獣捜査線』チャック・ノリス、そしてジェイソン・ステイサムが、同じ画面に立ち並ぶという『エクスペンダブル2』は、そんなことでも期待大なのだ。


さて孤立無援、天涯孤独状態に陥ったルークは、ニューヨークの地下鉄のホームに立ち尽くしていた。
投身自殺が頭をよぎる。
その時、目の端に入ったのが、中国人の少女の不安な表情だった。

ジェイソンステイサムセーフ.jpg

中国・南京の小学生だったメイは、その並外れた数字への理解力と、記憶力をマフィアのボスに利用される。
病気の母親をいい病院で診せてやると、右腕的な部下チャンの養子にメイを迎え、アメリカに移住させたのだ。
ニューヨークのチャイナタウンを仕切るボスのハンは、組織の売上げ金や、隠し金をパソコンのデータには残さず、メイに記憶させた。
そして組織が経営するカジノの地下金庫の、複雑な暗証番号も憶えさせた。

ニューヨークの縄張りを巡って、チャイニーズ・マフィアと争いを起こしていたロシアン・マフィアは、メイの存在を知り、この12才の少女を拉致しようとしてたのだ。

二大組織の暗闘は、もちろんニューヨーク市警も把握してたが、過去にルークを警察から追いおとした悪徳警部のウルフは、二つの組織を天秤にかけ、より賄賂を吸い取れる方につこうという腹だった。

ロシアン・マフィアはメイを拉致し、頭の中の数字を言えと脅すが、チャイニーズ・マフィア側から通報を受けた市警察の警官隊が、ロシアン・マフィアのアジトを急襲してきた。

その混乱に紛れて、メイはビルから逃げ出して、地下鉄のホームまでやってきたのだ。
少女の様子が気になったルークの目に、ロシア人らしき男たちの後ろ姿が。

地下鉄に乗った少女を追って、男たちも乗り込む。
ホームを滑り出した地下鉄の最後部に手をかけて、ルークは車両にしがみ付いた。


ここまではほぼアクションはないのだが、このあとの地下鉄内での格闘場面を皮切りに、妻を殺され、失うもののないステイサムが、
「中国人もロシア人もクソ野郎」
と等しくブチ倒していく。後半は怒涛のステイサム劇場となってる。
格闘のスキルだけでなく、二つのマフィアと悪徳警官、その三者を翻弄するような立ち回り方も憎いのだ。

車を使った銃撃の場面も、工夫が凝らされており、視点を車内に限定して、バックミラー越しに状況を見せたり、バックして跳ねられたマフィアが、ボンネットに落下して、路上に落ちると、それを前進してまた跳ねるとか、スタントも大変だね。

ラスボス的に出てくる相手が案外つまらなかったり、終盤に向うにしたがい、アクションが雑になってくのは惜しいが、94分で語ることをきっちり語ってる、人物造形に手を抜かない感じがよかった。

2012年10月20日

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